デイサービスでの体操は、身体機能の維持や転倒予防、認知機能の向上など、さまざまな効果が期待できる活動です。
本記事では、デイサービスでご利用者様が無理なく楽しめる体操メニューや安全対策について、作業療法士として15年のキャリアがある筆者が詳しくご紹介します。
ウォーミングアップからクールダウンまでの流れや、体操を盛り上げるポイントも紹介しているので、ご利用者様に喜ばれる体操の実施方法をぜひ参考にしてください。
デイサービスでの体操の目的と効果
高齢者に提供する体操の目的や、期待したい効果には次のようなものが挙げられます。ご利用者様が目的や効果を意識すれば、より体操を楽しめるのでぜひとも伝えてみてください。
身体機能の維持・向上
人の体は活動量が少ないと筋力や心肺機能が低下し、さまざまな身体機能が衰えます。
体操では安静時の約3.5倍のエネルギーを使うとされており、適度に体をうごかすことで筋力やバランス感覚を保ちやすくなるため、身体機能を維持し改善することが期待できるでしょう。
転倒予防
高齢者の場合、転倒すると骨折につながりやすくそのまま寝たきりになってしまう可能性も少なくありません。転ばないためには、身体のバランスや足の筋肉、柔軟性を保つことが大切です。
体操には足や体幹の筋トレやストレッチの要素が含まれているものが多く、体操を実施し足腰を鍛えることで転倒予防につながります。
認知機能の維持・向上
体操は身体だけでなく脳の機能にも働きます。有酸素運動を取り入れた体操では、脳への血流量も上がります。それだけでなく、脳の記憶をつかさどる海馬を大きくする物質が作られやすくなり、記憶力の向上に影響があることが分かっています。
社会的つながりの維持
高齢になると、人とのつながりも薄くなっていきがちです。子供が巣立ち、仕事も定年を迎え、人と関わる機会が少なくなります。
集団でおこなう体操では、他のご利用者様と励ましあったり、一緒に達成感を味わったりすることで自然な交流がうまれます。
体操で健康を維持するという同じ目標を共有することで、「あの人も頑張っているから私も頑張ろう」とモチベーションが上がり、孤立感を防ぐことも期待できるでしょう。
体操前の事前準備
体操を円滑に実施するためには、事前準備が欠かせません。ご利用者様に安心して体操を楽しんでいただくための事前準備をご紹介します。正しい準備をおこなうことで、予期せぬ事故やケガを防ぎ、体操の効果を最大限に引き出しましょう。
プログラム作成
どんな体操をどのように進めていくかを決め、事前に他のスタッフと共有しておきましょう。体操にはストレッチの要素が強いものや、筋トレの要素が強いもの、有酸素運動の要素が強いものがあるので、目的に合わせて運動を組み合わせていきます。
また、プログラムを作成したら、体操実施前にデモンストレーションをおこなっておくと予期せぬ問題にも対応できるのでおすすめです。
道具の準備
プログラムが決まったら、必要な道具を準備します。
タオル体操や棒体操など道具が必要な体操を取り入れるのであれば、体操に参加するご利用者様の人数を確認し必要な数を準備しましょう。また、使用する道具が壊れていないか、危ない箇所はないか必ず確認することも大切です。
室内の環境調整
腕を伸ばした際にご利用者様同士がぶつからないよう、間隔を開けてご利用者様を誘導しましょう。
また、動く範囲にテーブルや椅子などの障害物がないか、床は濡れていないかといった安全面への配慮も忘れないようにしましょう。
体調確認
体操を実施する前には、必ずご利用者様の体調の確認が必要です。バイタルは安定しているか、めまいやふらつきはないか、動悸や息切れはないかといったご利用者様の様子を確認し、安全におこなえるかを判断しましょう。
血圧が高すぎると運動実施によりさらに高くなる可能性があります。
運動前の血圧が180/110mm以上の時は、運動は控えて休養を取りましょう。
体操の基本的な流れ
デイサービスで実施する体操は、
- ウォーミングアップ(約5分)
- メインの体操実施(約10〜15分)
- クールダウン(約5分)
という流れで進めていきます。具体的な体操の内容を以下に紹介していきます。
ウォーミングアップ
筋肉を急激に動かすと、場合によっては筋肉を痛めてしまう恐れがあるので必ず準備運動をおこないましょう。ストレッチ要素のある準備運動を最初に取り入れることで、筋肉の柔軟性が高まり、関節の動く範囲が広がります。
首のストレッチ
首を前にゆっくりと曲げ5秒キープし、ゆっくり戻します。次は後ろにゆっくり反らして5秒キープし、ゆっくり戻します。
次に、左右に首を傾けます。前後の動きと同じように5秒かけて、曲げた方と反対側の筋肉を伸ばし、ゆっくりと戻します。
肩のストレッチ
肘を曲げて両手を両肩に置き、肘を大きく回します。ゆっくりと外側に大きく3回回したら、内側にも同じく3回回します。
体幹のストレッチ
手のひらを天井に向けるように手を組み、上方向に背中の筋肉を伸ばします。そのまま左右にゆっくり5秒ずつ倒し、ゆっくりと戻します。
足のストレッチ
足を軽く開き、片方の足を少し斜め前に出します。できるだけ膝を曲げずに、ゆっくりと身体を斜め前に出した足の方へ倒します。
ストレッチ時のポイント
ストレッチをおこなう際のポイントは以下の通りです。
- ゆっくりと息を吐きながら筋肉を伸ばす
- 反動をつけない
- 痛いと感じる手前で止める
息を止めてしまうと必要な酸素がじゅうぶんに筋肉にいかないため、要注意です。またストレッチは無理に伸ばしたり、反動をつけると筋肉を痛めてしまいます。
上記のポイントをご利用者様に説明しながら、安全に実施しましょう。
メインの体操実施
デイサービスでできるおすすめの体操を肩や腕、体幹、足の3つの部位別にご紹介します。すべての体操を実施するというよりは、紹介した体操の中から必要なものを選び、運動回数は対象者の年齢や身体機能の状態に合わせて調整してください。
肩や腕の体操
肩や腕の体操は、主に僧帽筋や上腕二頭筋などの肩周りについている筋肉を動かしていきます。
肩甲骨の引き寄せ
①肘を伸ばした状態で両手を胸の高さまで持ち上げます。この際手のひらは下を向きます。
②両肘が下がらないよう意識しながら、ゆっくりと肘を後方に向かって引きます。両側の肩甲骨がくっつくイメージで動かします。
③肘を引いたら、両手を再び前に伸ばします。
①〜③を5回繰り返す
ばんざい体操
①両脇を開き、指先を下に向けて肘を90度に曲げて肩の高さまで上げます。
②ゆっくりとばんざいをするように肩をひねりながら、指先を上に向けます。
③ゆっくりと肩をひねりながら両手を下ろし、①の姿勢に戻ります。
①〜③を5回繰り返す
腕の上げ下げ
①肘を伸ばした状態で両手を組み、肩の高さまで上げます。
②そのままゆっくりと耳の位置まで両手を上げていきます。
③ゆっくりと肩の高さまで両手を下ろします。
①〜③を5回繰り返す
体幹の体操
体幹の体操は、主に腹筋や骨盤周囲筋を動かします。
骨盤の前後傾
①椅子に座り、背中を丸めて骨盤を後ろに倒します。
②背筋を伸ばし、後ろに倒した骨盤を前に起こしていきます。この際、腰が反らないよう注意しながら動かします。
①②を10回繰り返す
ニートゥーエルボー
①立位または椅子に座って、両手を肩の高さで横に伸ばし肘を90度に曲げます。手はグーの形を作ります。
②左足を軽く上げ、左膝と右肘をくっつけるように動かします。この際、お腹の筋肉を意識して動かします。
③手と足を元の位置に戻します。
④右足を軽く上げ、右膝と左肘をくっつけるように動かします。この際、お腹の筋肉を意識して動かします。
⑤手と足を元の位置に戻します。
②〜⑤をテンポよく30回繰り返す
足の体操
足の体操では、主に股関節周囲筋やふくらはぎの筋肉を動かします。
太もも上げ
①椅子に座り、背筋を伸ばし、足裏を床につけます。この際、両手は椅子の両端か、太ももの上に置きます。
②膝を曲げた状態で、背中は伸ばしたまま片方の太ももをゆっくりと持ち上げます。
③無理のない範囲で太ももを持ち上げたら、ゆっくりと足を元の位置に戻します。
④反対の足も同じように動かします。
②〜④を両足で1セットとし10セット繰り返す
膝伸ばし
①椅子に座り、背筋を伸ばします。この際、手は座面につきます。
②つま先を立て5秒間膝を伸ばします。
③ゆっくり膝を元の位置に戻します。
④反対の膝も同じように動かします。
②〜④を両足で1セットとし、10セット繰り返す
つま先・踵上げ
①椅子に座り、背筋を伸ばします。
②踵をついた状態で両足のつま先を天井に向かって上げ、下ろします。
③つま先をついた状態で踵を天井に向かって上げ、下ろします。
②③を1セットとし、20セット繰り返す。
足踏み
①椅子に浅く座り、背筋を伸ばします。
②両腕を大きくふり、足踏みを1分間続けます。
クールダウン
体操後には5〜10分程度のクールダウンをおこないましょう。クールダウンの目的は疲労回復の促進、運動直後のめまいや失神の予防、慢性障害や筋痛の予防が挙げられます。
ストレッチ
ウォーミングアップでご紹介したストレッチは、体操後のクールダウンでも実施しましょう。体操後、時間を置かずにストレッチをおこなうことで、翌日の疲れが軽減されやすくなります。ストレッチは反動をつけず、痛みがでない程度に伸ばすことが大切です。
深呼吸
運動後の回復を促す目的で、ゆっくりした深呼吸をおこない酸素を身体に送り込みましょう。深呼吸をおこなうことで、副交感神経の働きが強くなり、体操で高まった心拍数や血圧を下げる効果があります。
深呼吸をする際は、ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと息を吐き出すよう意識しましょう。
+αで取り入れる盛り上げポイント
デイサービスでの体操を盛り上げるのに効果的な方法をご紹介します。ちょっとした配慮で、利用者がより楽しく感じられるため、ぜひとも参考にしてみてください。
音楽
体操中は音楽を流すことで、意欲が高まりやすくなります。ウォーミングアップやクールダウンでは、ストレッチのイメージに合わせて、聞き馴染みのあるスローテンポの曲を選択しましょう。
また、メインの体操中はご利用者様世代が若い時に流行ったアップテンポの曲がおすすめです。
声かけ
体操中は自分の動きがきちんとできているか不安に思う方も少なくないでしょう。
体操中に、ご利用者様の名前を読んで「足がしっかり上がっていますね」や「腕を大きく伸ばせていますね」といったフィードバックをおこなうと、安心できモチベーションが上がりやすくなります。
一体感
体操中は「1人ではなくみんなで頑張っている」といった一体感を感じると、さらに盛り上がるでしょう。開始時に全員で掛け声をかけたり、終了後は全員で拍手をするなど互いに励まし合い、その場の空気を共有しあうことで、より体操を楽しむことができます。
集団で体操を安全におこなうための注意点
デイサービスで体操を集団でおこなう場合、安全面への配慮は非常に大切です。
具体的には以下のような対策を心がけましょう。
転倒や怪我などの対策
立位のバランスが不安定な方は、椅子に座っての実施を促しましょう。また立位が安定していて立って体操を実施したい方でも、バランスを崩した際にすぐに駆けつけられるよう、近くにスタッフを配置しておきましょう。
体調変化への注意
体操実施中はご利用者様の体調の変化に注意が必要です。顔色や動きに違和感がないか常に確認しましょう。
進行役のスタッフと、サポート役のスタッフをあらかじめ決めておくと、注意が行き届きやすいです。
無理のない範囲で実施
体操に集中してしまうと、呼吸の乱れや疲労感にご利用者様本人が気づきにくい場合があります。適宜きつくなっていないか声かけをして確認しましょう。
また、途中で運動を止めても問題ないことを事前に伝えておくことも大切です。
水分補給
体操実施前や実施後には水分補給の時間を確保しましょう。とくに夏場は運動による脱水を起こしやすいため、こまめな水分補給が大切です。
まとめ
デイサービスでの体操は、高齢者の健康維持や心身の活性化に役立ちます。安全かつ効果的に体操を実施するためには、事前準備や体調確認、体操後のクールダウンが欠かせません。また、音楽を取り入れたり声かけをおこなったりするなど、参加者が楽しみながら継続できる工夫も重要です。
集団体操では、転倒防止や体調変化に配慮しつつ、無理のない範囲で楽しんでいただけるようサポートしましょう。
この記事を書いたのは・・・
椎野みいの/Webライター
保有資格:作業療法士/福祉住環境コーディネーター/福祉用具プランナー/認定心理師
病院、介護老人保健施設、リハビリ専門学校を経て、現在は特別養護老人ホームにて機能訓練指導官として勤務中。