介護の仕事を続けるなら腰痛対策は必須!手軽にできる対策を紹介

「介護の仕事は好きだけど、最近腰が痛くて…」
このように腰痛で困っている介護職員の方は少なくないはずです。介護の仕事は大変やりがいがある反面、身体的な負担が大きく、腰痛に悩まされる人が多い現状です。

本記事では、作業療法士として介護現場で長年働いてきた筆者が、介護現場で腰痛が発生しやすい理由について解説します。また、すぐに実践できる対策腰への負担が少ない介護施設の種類まで併せてご紹介します。

腰痛に悩んでいる方が、安心して介護の仕事を続けられるようにまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

介護職員はなぜ腰痛対策が必要?

介護現場において腰痛は深刻な問題となりやすく、職業病とも呼ばれています。

厚生労働省の労働災害統計によると、介護を含む保健衛生業の腰痛発生率は、全業種平均の0.1を大幅に上回る2.5となっています。つまり、介護職員は他の職種に比べて2.5倍も腰痛のリスクが高いといえるでしょう。

さらに、介護職の労働環境における身体的な負担も、腰痛の大きな要因となっています。公益財団法人介護労働安定センターの調査では、介護職の労働条件や仕事の負担に関する悩みや不安・不満として「身体的な負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」が上位に上げられています。

この結果から、多くの介護職員が日常的に腰痛を含む身体的な負担を感じながら働いていることがうかがえるでしょう。

筆者も長年、介護現場で勤務しており、介護職員に限らず看護師や理学療法士、生活支援相談員などさまざまな職種が腰痛で苦しむ様子を見ております。介護業務でない生活支援相談員の腰痛発生は不思議に感じるかもしれませんが、長時間同じ姿勢でのデスクワークも腰痛の発生に影響を及ぼすのです。

腰痛を持つ職員の中には、腰痛が原因で仕事を休まざるをえなくなり、他のスタッフへの申し訳なさから退職を考える方も少なくありません。介護職員が足りていない状況で退職となると、さらに一人当たりの業務負担が増え、腰への負担も悪化し、負の循環を招いてしまいます。

腰痛を引き起こしやすい介護業務

介護の仕事は、前かがみや腰のひねり無理な姿勢重い物の持ち上げなど腰に負担のかかる動作が多いです。どのような介護業務が腰痛に影響しやすいかを、理由も含めて以下にまとめましたので、参考にしてください。

  • 立ち上がり
  • 移乗
  • 入浴
  • オムツ交換
  • 体位変換

立ち上がり

利用者の立ち上がりを介助する際、介助者は中腰の姿勢になりがちです。中腰の姿勢は、腰に大きな負担をかけてしまいます。
とくに、自力で立ち上がることが困難な利用者や、不安定な利用者を介助する際は、腰への負担だけでなく転倒のリスクも高まるため注意が必要です。

移乗

車椅子からベッドへ、またはベッドから車椅子への移乗は、介護業務の中でもとくに腰への負担が大きい動作といえるでしょう。
利用者の体重を支えながら、身体を持ち上げたり、移動させたりする必要があり、無理な姿勢になりやすい特徴があります。力任せな移乗をおこなうと、腰への負担はさらに悪化してしまいます。

入浴

入浴介助は、浴槽への出入りや洗髪・洗身など、さまざまな動作が含まれます。これらの動作は、前かがみや腰をひねる姿勢が長時間続きやすく、腰痛の原因になりやすいです。
また、浴室内は滑りやすく転倒のリスクも高まるため、より注意を払わなければならず、無駄に力が入りやすくなってしまいます。

オムツ交換

オムツ交換は、ベッド上での姿勢保持や、体を拭く際に前かがみの姿勢を長時間続けてしまいがちです。
とくに、利用者の体を持ち上げたり体位を変えたりする際には、大きな力を必要とするため、さらなる腰痛のリスクが高まります。

体位変換

体位変換は、褥瘡予防や体の血流を促すために必要ですが、介助者にとっては腰に負担のかかりやすい動作です。
とくに、寝たきりの利用者を動かす際には、無理な姿勢や体のひねりが生じやすく、腰痛を引き起こす可能性が高くなります。

自分でできる腰痛対策

介護の仕事は腰への負担が大きいため、日頃から腰痛対策を意識することが重要です。本章では、介護職員が実践しやすい腰痛対策についてご紹介します。

筋力をつける

腰痛予防には腰回りの筋肉だけでなく、腹筋や背筋など、体幹全体の筋力をバランスよく鍛えることが重要です。腹筋や背筋などを鍛えることで、効率的に力を発揮でき腰への負担を軽くします。

本章では、筋力トレーニングの一部をご紹介します。10回を1セットとし、1日2回を目標に取り組んでみましょう。

  • 腹筋を鍛える
  1. 仰向けに寝て膝を軽く曲げる
  2. 顎をひいたまま上半身をゆっくり起こす
  3. 床から45度起こした状態で、約5秒間止める 
  • 背筋を鍛える
  1. うつぶせに寝て、おへそより下にクッションや枕などをはさむ
  2. 顎をひいて、上半身をゆっくり起こす
  3. 床から約10cm上げた状態で、約5秒間止める

どちらの筋力トレーニングも定位置まで上げられなければ、無理はしなくて大丈夫です。定位置まで上げるというよりは、腹筋や背筋に力が入っているかを意識することが大切です。
また、運動中は息を止めないよう注意しておこなってください。

仕事の合間にストレッチ

長時間同じ姿勢での作業や、腰に負担のかかる動作を続けると、筋肉が硬くなり腰痛の原因になりやすいです。ストレッチは筋肉の柔軟性を高めるため、腰痛予防におすすめです。

ストレッチには疲労回復やけがの予防、リラクセーションといった効果が期待されます。手軽におこなえることもストレッチの魅力なので、休憩時間や仕事の合間などできる時に継続して実施しましょう。

以下は、ストレッチ実施時のポイントです。

  • 息をゆっくりと吐きながら伸ばす
  • どの筋肉が伸びているかを意識しながら伸ばす
  • 勢いや反動をつけずにゆっくりと伸ばす
  • 心地よいと感じる痛みの程度で止める(無理をしない)
  • 最も伸びた状態で20秒から30秒程度止める
  • 1つの筋肉に対し、1回から3回を目安に伸ばす
  • 週に2回〜3回程度実施する

無理なストレッチは逆に腰を痛めてしまいます。ストレッチのポイントを抑えながら、心地よい痛みを意識し、ゆっくり実施してください。

以下に2種類のストレッチをご紹介していますので、筋肉が伸びているのを意識しながらやってみましょう。

  • 背中と腰のストレッチ
  1. 仰向けに寝る
  2. 片方の膝を両手で抱える
  3. ゆっくり息を吐きながら胸の方へ引きつける
  4. 反対の足も同じようにおこなう
  • ハムストリングスのストレッチ
  1. 仰向けに寝る
  2. 膝を伸ばしたまま片方の足を天井に向けて垂直に上げ、膝の裏を両手で支える
  3. 2の状態から膝の曲げ伸ばしをおこなった後に、ゆっくりと膝をできるだけ伸ばしたまま動きを止める
  4. 反対の足も同じようにおこなう

ボディメカニクスでの介助方法

ボディメカニクスとは、体の構造や動きを理解し、効率的で安全に動作するための考え方を指します。介護業務では、ボディメカニクスの原則を理解し実践することで、腰への負担軽減が期待できるでしょう。

ボディメカニクスを応用した介助方法は以下の記事で詳しく解説しております。ぜひ参考にしてください。

コルセットの活用

コルセットは腰の骨を固定し、腰への負担を和らげる効果が期待できるでしょう。ただし、コルセットに頼りすぎると、筋肉が衰えてしまう可能性も少なくありません。コルセットを使用する場合、適切な使用方法を理解することが大切です。

以下に装着時のポイントや注意点をまとめました。

  • コルセットの下部が腰の骨に軽くかかる位置で、適度にきつく装着する
  • 体を動かした際に上にずれた場合は、装着し直す    
  • 装着によって痛みが和らぐ間だけ使用し、長期間使用しない(筋力低下を招く恐れがあるため)
  • 血行不良を招くため、締め付けすぎない

残念ながら、コルセットの腰痛予防効果については、一致した見解がないとされています。長期の使用は腰の筋力を低下させてしまうため、痛みがひどい時以外は使用しないようにしましょう。また、持病がある方や不安がある方は必要に応じて医師への相談も検討しましょう。

職場で取り組む腰痛対策

腰痛は個人の努力だけでは防げない場合も考えられます。組織全体で腰痛対策に取り組むことで、職員が継続して働ける職場環境となるでしょう。

福祉用具の活用

福祉用具の活用は介護者だけでなく、ご利用者様の負担も減らせます。腰痛対策として活用できる福祉用具には、以下のようなものがあります。

  • リフト
  • スライディングボード
  • スライディングシート
  • 昇降機能付きベッド
  • パワーアシストスーツ

福祉用具を使い慣れていない施設やスタッフからすると、活用に対し「時間がかかって面倒臭い」「使わない方が早い」などの意見が聞かれるかもしれません。

導入したまま職員任せにするのでなく、職員が福祉用具を使うことでのメリットの理解や正しく安全に使えるよう研修をおこなうことが大切です。

管理者への相談

腰痛を感じたら、我慢せずに管理者に相談することも必要です。腰痛は放置すると慢性化しやすく、介護業務を続ける中で重症化し生活にも支障をきたしてしまう恐れがあります。

管理者に相談することで、業務内容の見直しや職場環境の改善、福祉用具の導入などを検討するきっかけとなるかもしれません。一人で苦しまず、腰痛がひどくなる前にまずは管理者に相談しましょう。

腰への負担が少ない介護施設の種類

介護施設によっては、ご利用者様の身体状況や介護内容が異なるため、介護職員の腰への負担も変わってきます。本章でご紹介している施設は、腰への負担が少ない介護業務の可能性が高いです。転職を検討される場合は、ぜひ参考にしてください。

グループホーム

グループホームは認知症の方が入居される、少人数の入居施設です。介護度が低い方の利用が多いため、移乗介助や入浴介助といった腰への負担が大きい介護業務は、他の施設に比べると少ないです。

ご利用者様とのコミュニケーションを大切にしながら、ゆっくりと関われます。グループホームの仕事内容が気になる方は、以下の記事をご確認ください。

ケアハウス

ケアハウスは軽費老人ホームの一種です。自宅での生活が困難な60歳以上の方が、安価な料金で家事や洗濯などの生活支援サービスを受けながら生活を送る施設となります。

一般型と介護型の2種類にわかれており、一般型のケアハウスでは洗濯などの生活支援サービスや食事の提供、緊急時の対応などが含まれます。ご利用者様は健康状態に問題はないけれど、自立した生活に不安を感じ利用される方が多いです。

介護サービスは基本的には施設内では提供しません。介護サービスが必要な場合は外部の事業所を利用します。

住宅型や健康型の有料老人ホーム

有料老人ホームは介護付き、住宅型、健康型の3つに分類されます。中でも住宅型と健康型は、自立度の高い高齢者向けの施設です。

住宅型は主に食事の提供や洗濯、掃除といった生活支援をおこないます。健康型では健康な方が入所されるため、食事の提供サービスが主になります。

住宅型有料老人ホームは、併設された訪問介護事業所での勤務となる場合が多く、介護業務が思ったよりもハードだったということも考えられます。
事前に仕事内容や介護度について確認しておくとよいでしょう。

介護経験を活かした別の職種へ転職

腰痛が悪化しどうしても介護職を続けられそうになければ、他の職種への転職も検討する方がよいでしょう。

生活相談員支援相談員ケアマネージャーなどの職種は、どれも介護職としての経験を活かせます。介護職の方がスキルアップとして転職されるケースも少なくありません。

各職種の詳細については以下の記事でまとめていますので、参考にしてください。

  • 生活相談員
  • 支援相談員
  • ケアマネージャー

まとめ

介護職は大変やりがいのある仕事です。ご利用者様の気持ちに寄り添い、笑顔を引き出せた時は、介護職をしていて良かったと実感する瞬間でしょう。

腰痛に悩み介護職が続けられなくなる前に、筋力トレーニングやストレッチなど簡単にできることから対策を始めましょう。改善しない場合には、迷わず積極的に管理者へ相談しましょう。

ご利用者様の心も身体も元気に支援できるのが、介護職の魅力だと感じます。介護職員自身も、心身ともに健康で長く仕事を続けられるように、腰痛対策に取り組んでいきましょう。

この記事を書いたのは・・・

椎野みいの/Webライター

保有資格:作業療法士/福祉住環境コーディネーター/福祉用具プランナー/認定心理師
病院、介護老人保健施設、リハビリ専門学校を経て、現在は特別養護老人ホームにて機能訓練指導官として勤務中。