介護職の出戻り事情とは?後悔しない復帰のコツ

介護職の出戻りとは、退職した施設に再び就職することを指します。
待遇や人間関係に不満があって辞めたものの、別のところで働いたら「やっぱり前の施設がいい」と感じるケースはあります。

「出戻りって受け入れてくれるのかな?」
「不満があって辞めたけど、やっぱり前の施設で働きたいな」
このように不安を感じる人もいるでしょう。

本記事では、筆者が働いていた職場での体験談を交えて、介護職員の出戻りについて解説します。
円満な出戻りのポイントや、志望動機についてもまとめていますので、参考にしてみてください。

介護職員の出戻りが可能な理由

介護の職場は、出戻りの職員を受け入れてくれるところが多いです。理由は主に3つあります。

【介護職員が出戻りできる理由】

  • 人手が足りないから
  • 一から指導する必要がないから
  • 職場の雰囲気にすぐなじめるから

順番に見ていきましょう。

人手が足りないから

介護職が出戻りしやすい仕事といわれる理由の1つが、人手不足です。
令和5年度介護労働実態調査」によると、66%の介護事業所が介護職員の不足を感じています。

※引用:令和5年度「事業所における介護労働実態調査」|公益財団法人介護労働安定センター

また、厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況」では、介護サービスに関連する職業の有効求人倍率は4.25倍です。
有効求人倍率は、1人の求職者に対して何人の求人があるかを表します。つまり、求職者1人に対して4.25件の求人がある状況です。

このことからわかるように、介護業界は売り手市場の状況が続いています。一度辞めた職員であっても、再び働いてもらえるのは事業所にとってありがたい存在なのです。
以前の勤務態度が良好だった人は、出戻りでも快く受け入れてもらえるでしょう。

一から指導する必要がないから

事業所で一から指導しなくてよい点も、出戻りが可能な理由です。

介護職は未経験・無資格でスタートする人も多く、基本的な介助方法や業務フローの指導には時間がかかります。
しかし、出戻りの介護職員は職場のルールや業務の流れを理解しているため、一から指導する必要はほとんどありません。

教育のコストを抑えられるだけでなく、即戦力を得られるため、介護事業所が出戻りの介護職員を再雇用するメリットは大きいといえます。

職場の雰囲気にすぐなじめるから

出戻りが可能な理由として、新しく入った人に比べて早く職場になじめる点も挙げられます。

以前働いていた介護職員は、職場の人間関係をよく理解しています。上司や同僚の性格や働き方を知っていれば、円滑なコミュニケーションが取りやすいでしょう。

また、ご利用者様との関わりもスムーズです。出戻りの介護職員であれば、顔なじみのご利用者様もいます。以前の関係性を活かし、現場の空気に溶け込めるため、出戻りの介護職員は歓迎されやすいでしょう。

介護職員が出戻りする際に気をつける4つのポイント

出戻りの介護職員は再雇用されやすい傾向ですが、気をつけるべきポイントがあります。

【出戻りで気をつけるポイント】

  • 新人に戻る意識をもつ
  • 出戻りたい理由をはっきりさせる
  • 介護関連の情報をアップデートする
  • 人間関係の変化があると考えておく

1つずつ解説します。

新人に戻る意識をもつ

前に働いていた施設に出戻る際は「新人に戻る意識」が大切です。
以前と同じ職場でも、業務内容や待遇が変わっている可能性があります。施設の方針や職員の体制が変われば、過去の経験が通用しない場面もあるでしょう。

たとえば、以前はなかったマニュアルが作られていたり、職員の役割分担が変わっていたりするケースです。自分が勤務していたころのやり方にこだわると「昔はこうだったのに…」と違和感をもったり、周囲と考えが合わなくなったりするかもしれません。

「一度辞めた職場に戻るのだから、初心に戻ろう」と気持ちを切り替えると、スムーズに再スタートを切れるでしょう。

出戻りたい理由をはっきりさせる

出戻りを検討する前に「なぜ戻りたいのか」を明確にしておきましょう。一度辞めた職場に戻るため、もし再び辞めたくなったとき簡単に言い出しにくくなるからです。

「定時で帰れる施設だから戻ったのに、人手不足で残業が増えている」というケースもありえます。そうすると、戻った意味がないと感じてしまうかもしれません。

また、出戻りは「また辞めるのでは」とマイナスなイメージをもたれることもあります。それでも戻りたい理由をはっきりさせましょう。

出戻る理由を明確にすれば「本当にこの選択で後悔しないか」が判断しやすくなります。
最初に退職した理由や、自分が長く働ける条件は何かを整理してから出戻るか決めても遅くありません。

介護関連の情報をアップデートする

出戻る前に、介護業界の最新情報を調べておきましょう。
介護の世界は法改正や制度の変更が多く、以前と同じ感覚で働こうとすると戸惑うかもしれないからです。

たとえば、介護報酬の改定です。職員の配置基準やサービスの在り方が変わっている可能性があります。新しい介護用品やケア方法が導入されている場合もあるため、知識のアップデートは必要です。

とくに、出戻る前に異業種で働いていた人は、より詳しい情報をキャッチする姿勢を意識しましょう。厚生労働省のホームページや、介護関連の書籍をチェックしておくと安心です。

人間関係の変化があると考えておく

自分が働いていたときから人間関係が変わったと考えておくのも大切です。

介護職は人の入れ替わりが激しいといわれています。さらに、人事異動もあるため、以前と出戻ったときとでは、同僚やご利用者様の顔ぶれが変わっている可能性が高いでしょう。
筆者の勤務先では、年度初めの人事異動だけでなく、数ヶ月に一度のペースで異動があったケースもあります。

人間関係の良さで出戻りを決める場合、当時と同じ感覚でいると「前より居心地が悪いかも」と感じるかもしれません。新しい同僚との関係づくりを楽しむつもりで臨むと、人間関係の変化もあまり気にならず仕事に取り組めます。

介護職員が出戻りするときに書く志望動機の例文

前にいた施設に応募するときも、履歴書は必要です。一度退職した施設になぜ戻りたいのか、理由を問われるケースもあるでしょう。

履歴書のフォーマットには、志望動機欄を設けているものがあります。面接でも「なぜ戻りたいのか」と質問される可能性は高いです。
きちんと答えられるように、自分なりの答えを用意しましょう。

志望動機の例文を用意したので、参考にしてみてください。

【別の施設で介護職をしていて出戻るケース】

以前、貴施設で3年間勤務しておりましたが、新たな経験を積みたいと考え、別の介護施設へ転職しました。

そこで感じたのは、ケアの提供に対する考え方の違いです。
転職先では、マニュアル化された業務が中心で、効率的なケアが求められていました。
「決められた時間内に終わらせること」が重視され、ご利用者様一人ひとりにじっくり向き合うのが難しかったのです。

貴施設で働いていたころは、ご利用者様の生活や希望に寄り添いながら、じっくりとケアできる環境でした。
ご利用者様が、私の声かけを励みにリハビリを頑張る姿を見たとき「寄り添うケアが大切なんだ」と実感したのを覚えています。

ほかの施設を経験し、私が目指したい介護は、ご利用者様の気持ちを一番に考えるケアだと気づきました。貴施設での経験を活かしながら、再びご利用者様に寄り添った介護を提供したいと考えています。

【異業種から介護の仕事に出戻るケース】

以前、貴施設で3年間勤務しておりましたが、新たな挑戦をしたいと考え、接客業へ転職しました。
接客業ではお客様とのコミュニケーション力を磨きましたが、どこか物足りなさを感じていました。

そんなとき、偶然にも以前のご利用者様とご家族にお会いしたのです。
「あなたのこと、今もよく話してるのよ」「また一緒にお話したいな」と声をかけられたとき、介護の仕事は「ただの業務」ではなく、人と深くつながる仕事なんだと実感しました。

異業種の経験を通じて、人と信頼関係を築きながら働きたいと思いました。接客業で培った観察力や気配りを活かし、以前のようにご利用者様に寄り添うケアを提供したいです。

介護職の出戻りについてよくある質問

ここからは、介護職の出戻りに関する質問に回答していきます。

前の施設に出戻ったらやりづらいですか?

やりづらさを感じるかどうかは、施設の環境や人間関係の変化によります。以前と同じ職場だからといって、必ずしも元の環境のままとは限りません。新しい職員が増えていたり、業務の進め方が変わっていたりする可能性もあります。

また、ほかの職員が「なぜ戻ってきたんだろう」と気にする場合もあるため、最初は慎重に立ち回ると良いでしょう。

出戻りはどれくらいの期間が妥当でしょうか?

出戻りのタイミングに、明確な決まりはありません。筆者が以前勤めていた職場では、一年とたたず出戻ってきた職員が何人かいました。

介護業界は慢性的な人手不足のため、出戻りの介護職員を歓迎する施設はたくさんあります。
「半年で戻るのは早過ぎるかな?」など、不安に思わなくても大丈夫です。ただし、短期間で戻る場合は、退職した理由と出戻りを希望する理由を説明できるようにしておきましょう。

出戻りを断られたらどうすれば良いですか?

出戻りを断られる理由には、以下のようなものがあります。

【介護職員が出戻りを断られる理由の例】

  • 施設の採用基準が変わった
  • 現時点での人員が足りている
  • 以前の勤務態度に問題があると思われている
  • 前の前職への不満を理由に出戻りを希望している

採用に至らなかった場合は、落ち込まずに別の施設を検討してみるのがおすすめです。自分が働きたい施設の種別やご利用者様との関わり方、働く時間帯など、細かい条件をリストアップしてみましょう。

「前にいた施設と同じようなところで働きたい」
「もっと違う働き方をしてみたい」
こうした希望が出てくるはずです。条件がそろったら、ハローワークや転職サイト、転職エージェントなどの力を借りて、求人を探してみましょう。

まとめ

介護職員が前にいた施設に出戻るのは決して珍しいことではありません。ただし、スムーズに復帰するには4つのポイントを意識しましょう。

【出戻るためのポイント】

  • 新人に戻る意識をもつ
  • 出戻りたい理由をはっきりさせる
  • 介護関連の情報をアップデートする
  • 人間関係の変化があると考えておく

「なぜ戻りたいのか」を明確にし、本当にベストな選択かを考えてみてください。また、職場の環境が以前と変わっている可能性もあるため、新しい環境に飛び込むつもりで臨みましょう。

長いブランクがある場合は、介護業界の新しい情報を集め、ギャップを埋めておくのがおすすめです。

出戻りには不安もあるかもしれませんが、きちんと準備すれば問題ありません。これまでの経験を活かしながら、より良い介護職員を目指し、キャリアを積んでいきましょう。

この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター

保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。