「着脱介助がうまくできない」
「着脱介助に時間がかかってしまい他の業務が回らない」
着脱介助の悩みは、介護スタッフなら誰もが一度は感じるものではないでしょうか。
本記事では、着脱介助の基本的なコツから具体的な手順、片麻痺のある方の着脱介助のポイントまで、現場で役立つ情報をわかりやすく解説します。
作業療法士として病院や介護施設で着替えのリハビリを提供してきた筆者の経験から、着脱介助をおこなう上で特に大切なコツをまとめました。着脱介助をマスターすれば、介護スタッフだけでなくご利用者様の負担もきっと軽減できるでしょう。
本記事を参考に、ご利用者様が安心して着替えられるよう、着脱介助のスキルアップを目指しましょう。
この記事の内容
着脱介助のポイント
着脱介助は日常的な業務の一つであり、ご利用者様の身体状況や気持ちに寄り添った適切な介助を必要とします。
以下で説明しているポイントをおさえると、着脱介助がスムーズにおこなえるのでぜひとも参考にしてください。
着替えやすい衣服を選ぶ
着脱介助をスムーズにおこなうためには、衣服選びが大切です。介護される方にとって着やすく動きやすい衣服を選べば、介助の負担を軽減でき、ご利用者様の自立も促せます。以下に着替えやすい衣服についてまとめました。
- 大きめのサイズを選ぶ
服のサイズは一回り大きめを選びましょう。ゆったりとした衣服は、腕や足を通しやすく、関節の動きを制限しません。
とくに、肩や腕の可動域が狭くなっている方には、大きめの袖口や身幅の広い上着がおすすめです。
- 伸縮性のある素材を選ぶ
伸縮性のある素材は、身体にフィットしやすく、動きに合わせて伸び縮みするため、着心地が良いのが特徴です。
とくに、リハビリ中の方や関節に痛みがある方には、柔らかく伸縮性のある素材の衣服を選んであげると良いでしょう。服が原因で動きの妨げになる状況を減らせます。
- ウエストがゴムタイプのズボンを選ぶ
ウエストがゴムタイプのズボンは、着脱が簡単で締め付け感が少ないためおすすめです。
とくに、排泄の回数が多い方や腹部に圧迫感がある方には、ゴムタイプのズボンが適しています。ゴムの強さを調整できるタイプを選ぶと、より快適に着用できます。
自分でできることはしてもらう
介護現場では多忙な業務や時間の無さから、ご利用者様が本来持っている力を発揮させずに、過度な介助をおこなう場面も少なくありません。
ご利用者様が「自分でできる部分」は積極的にしてもらい、「できない部分」だけを介助すれば、身体機能の維持や向上を促せます。
まずは声かけをして、ご利用者様の動きを待ちましょう。「今から上着を脱ぎますね。最初に右腕を通せますか?」など、具体的な動作を促す声かけをおこなえば、ご利用者様は安心して自分で動けます。
次に、ご利用者様ができるところは自分でしてもらい、できないところを介助しましょう。たとえば、上着のボタンを留めるのが難しい場合は、介助者がボタンを留めてあげ、脱ぐ際は、ご利用者様が自分で腕を抜くなど状況に応じてサポートします。
声かけとコミュニケーションを意識する
着脱介助をおこなう上で、声かけとコミュニケーションは非常に重要です。介助者は、ご利用者様の身体に触れる前に必ず声をかけ、今からどのような動きを誘導するのか説明しましょう。
介助する体の動きを声かけしてから動かすと、ご利用者様はどのように動かされるかをイメージできるため、不安が少なくなります。「腕を少し上げますね」「ズボンを引っ張りますよ」など、具体的な言葉で伝えるようにしましょう。
着脱介助中は、ご利用者様の表情や反応をよく観察しながら実施します。不快な表情や痛みを感じている様子がみられた場合は、すぐに介助を中止し、痛みの場所や原因を確認しましょう。
着脱介助の流れ
着脱介助は、ご利用者様の状態に合わせて、ベッド上でおこなう場合と、座っておこなう場合があります。ここでは、それぞれの状況における着脱介助の流れを具体的に解説します。
ベッド上での着脱介助
ベッド上での着脱介助は、座位を保つことが難しい方や、自分で体を動かすことが困難な方が対象です。介助者の作業工程が多くなるため、ご利用者様の状態をよく観察しながら、丁寧に進めることが重要となります。
ベッド上での上着の着脱介助
ベッド上での上着の着脱介助方法について、かぶりシャツと前開きシャツに分けてご紹介します。
【上着を着る:かぶりシャツの場合】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さまで上げる。
- ご利用者様を横向きにし、天井側の腕を軽く持ち上げ、袖に腕を通し、肩まで通す
- 仰向けに戻ってもらい、頭を軽く持ち上げ首の後ろに手を添えながら、頭を服に通す(無理に引っ張らず、ゆっくりとおこなう)
- もう一度横向きにし、残りの袖に腕を通し、肩まで通す
- 仰向けに戻し、背中のシワを伸ばし、全体を整える
- ベッドを元の高さまで下げる
【上着を脱ぐ:かぶりシャツの場合】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さまで上げる
- ご利用者様を横向きにし、片方の腕の肘を曲げてもらい、袖口を広げながら腕から引き抜く
- 仰向けに戻ってもらい、顔に当たらないように注意しながら襟元を広げ、上着から頭を出す
- 2とは反対側に横向きにし、残りの袖を腕から引き抜く
- ベッドを元の高さまで下げる
【上着を着る:前開きシャツの場合】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さ高さまで上げる。上着のボタンをすべて外し、広げて準備する
- ご利用者様を横向きにし、片方の腕を軽く持ち上げ、袖に腕を通し、肩まで通す。反対の袖は背中まで回す
- 仰向けに戻ってもらい、1とは逆方向に横向きにし、背中にある服を優しく引っ張る
- 仰向けに戻ってもらい、もう片方の腕を軽く持ち上げ、袖に腕を通し、肩まで通す
- 仰向けに戻し、シワを伸ばし、左右の肩や袖の位置を整える
- ボタンを留めていく
- ベッドを元の高さまで下げる
【上着を脱ぐ:前開きシャツの場合】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さまで上げる
- 上着のボタンをすべて外す
- 利用者を横向きにし、片方の肩から服を外し、肘を曲げるよう声かけをしながら袖を腕から抜く。
- 仰向けに戻ってもらい、3とは逆側に横向きにし、脱いだ服を背中から外す。(無理に引っ張らないように、優しくおこなうこと)
- 仰向けに戻ってもらい、もう片方の腕から袖を抜く
- ベッドを元の高さまで下げる
ベッド上でのズボンの着脱介助
ベッド上でのズボンの着脱介助は以下の通りです。
【ズボンを履く】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さまで上げる。ズボンの片方を裾からたぐり、輪っか状にしておく
- 片方の足を上げてもらい、輪っか状にしたズボンを足首に通す。反対側も同じ工程でズボンを通す
- 両足にズボンを通したら、膝上までズボンを上げる
- ご利用者様の両膝を曲げて立て、お尻を床から上げてもらうよう声かけをおこなういズボンをお尻まで上げる
- ズボンのずれやシワを整える
- ベッドを元の高さまで下げる
【ズボンを脱ぐ】
- ベッドを水平にし、ベッドの高さを介助者が介助しやすい高さまで上げる。仰向けに寝ているご利用者様の両膝を曲げて立て、お尻を床から上げてもらうよう声かけをおこなう
- お尻のズボンを太ももまで下ろし、上げていたお尻を元の位置に戻すよう声かけをおこなう
- ズボンを膝下まで下ろし、立てていた両膝を伸ばすよう声かけをおこなう
- ご利用者様の片足の膝を曲げて踵を持ち、ズボンを足から脱がす
- 足を下ろし、反対の足も5と同じ様に脱がす
- ベッドを元の高さまで下げる
ご利用者様が自分の力でお尻を上げられない場合は、下記の方法で片方ずつズボンの着脱介助をおこないます。上記でご紹介した「お尻を床からあげてもらう」部分を下記の方法に置き換えて実施してみましょう。
- ご利用者様の膝を立て、膝、体幹の順に横に倒し体を横向きにする
- 天井側の足からズボンを履かせ、お尻までズボンを上げる(あるいは脱ぐ)
- 仰向けに戻る
- 2と逆側の横向きになり、残りのズボンを履く(あるいは脱ぐ)
- 仰向けに戻る
座っての着脱介助
座っての着脱介助は、座った時の姿勢が安定していて、ある程度自分で体を動かせる方が対象となります。ご利用者様の自立を促しつつ、安全に介助をおこなうことが大切です。
座っての上着の着脱介助
座っての上着の着脱介助方法についても、かぶりシャツと前開きシャツに分けてご紹介します。
【上着を着る:かぶりシャツの場合】
- 片方の腕に袖を通し、肩まで通す
- ご利用者様に頭を少し前に倒すよう声かけし、頭を服に通す
- もう一方の腕に袖を通し、ご利用者様に体を前に倒してもらい背部の服を下ろして整える(体が前に倒れ過ぎないよう注意する)
- 裾や襟周りを整える
【上着を脱ぐ:かぶりシャツの場合】
- 介助者は上着の裾をたぐり上げ、ご利用者様の腕をもち、上着を肩より上へ移動させる。
- 服を引っ張りながらご利用者様に肘を後に引いてもらい腕から服を引き抜く
- 顔に当たらないよう注意しながら、上着を頭から出す
- もう一方の腕から服を引き抜く
【上着を着る:前開きシャツの場合】
- 片方の腕に袖を通し、肩まで通す
- ご利用者様に体を前に倒してもらい、背部に服を回す(体が前に倒れ過ぎないよう注意する)
- もう一方の腕に袖を通す
- シワを伸ばし左右の肩や袖の位置を整える
- ボタンを留めていく
【上着を脱ぐ:前開きシャツの場合】
- ボタンをすべて外す
- 片方の肩から服を外し、肘を曲げるよう声かけをしながら袖を腕から抜く
- ご利用者様に体を前に倒してもらい、脱いだ服を背部に回す(体が前に倒れ過ぎないよう注意する)
- もう一方の腕から袖を抜く
座ってのズボンの着脱介助
座ってのズボンの着脱介助は、立ち上がりや立位が比較的安定している方が対象です。ベッドサイドでのズボンの着脱介助を想定して説明します。手順は以下の通りです。
【ズボンを履く】
- ズボンの片方を裾からたぐり、輪っか状にしておく
- 片方の足を上げてもらい、輪っか状にしたズボンを足首に通す。反対側も同じ工程でズボンを通す
- 両足にズボンを通したら、膝上までズボンを上げる。この際、立った時に裾を踏んで転倒しないよう、裾は床につかない程度にめくる
- ご利用者様の両足を椅子側にに少し引いてもらう。おじぎをしながら立つよう声かけし、立位になってもらう。手すりなどがあれば必ず持ってもらう
- シャツや肌着をズボンに入れ、ずれやシワを整える
【ズボンを脱ぐ】
- 手すりがあれば必ず持ってもらう
- ご利用者様の両足を椅子側に少し引いてもらう。おじぎをしながら立つよう声かけし、立位になってもらう。
- ズボンを膝下まで下げる
- ご利用者にベッドに座ってもらうよう声かけする
- ズボンを足首まで下げる
- 片方のズボンを輪っか状にし、足を上げてもらい足から抜く。反対側も同じようにおこなう
片麻痺の着脱介助のコツ
片麻痺の方への着脱介助も、基本的には前述した方法で実施します。ただし、健側(麻痺していない側)と患側(麻痺している側)の状態を考慮しながらおこなう必要があります。安全かつスムーズな介助のために、以下のコツを参考にしてみましょう。
患側から着る健側から脱ぐ
片麻痺のある方の着脱介助は、患側から着て、健側から脱ぐのが鉄則です。
これは、患側の動きが制限されているため、先に患側を通すことで、着脱時の負担を軽減するためです。
「脱健着患」という言葉で覚えると良いとされているので、左右のどちらから着替えるか迷った時には「脱健着患」を思い出しましょう。
転倒のリスクを考慮する
片麻痺の場合、立ち上がりや立位時はもちろん、座っていてもバランスが不安定な方は少なくありません。とくに服を脱ぐなどの大きな動きがともなうと、バランスを崩してしまう危険性が上がります。
必ず介助者が支え、安全を確保しながら介助をおこなうようにしましょう。座っての着脱介助をおこなう場合、転倒の危険性に備えて手すりなど安定してつかまれる物がある環境下で介助をおこないましょう。
服の着方がわからない場合がある
片麻痺の原因でもある脳卒中では、高次脳機能障害を持つ方も少なくありません。高次脳機能障害とは脳の損傷にともない、記憶力や判断力などの能力に障害が生じる状態です。
高次脳機能障害には、服の着方がわからず混乱されるケースがあります。片方のズボンに両足を入れたり、シャツの左右を逆に着たり、裏表がわからなかったりといった症状がみられます。
筆者は作業療法士として高次脳機能障害のリハビリをおこなってきましたが、残念ながら障害が残ってしまう方も決して少なくありません。
具体的な声かけや、ご利用者様が戸惑う部分は介助をおこなうなど、ご利用者様が不安にならないようにサポートしましょう。
着脱介助時の注意点
着脱介助をおこなう際には、ご利用者様の身体的な負担を軽減し、プライバシーに配慮することが重要です。以下に紹介する注意点を押さえて実施しましょう。
ご利用者様の負担になる動きをしない
着脱介助をおこなう際には、ご利用者様の身体に負担がかからないように、注意深く介助をおこなう必要があります。
たとえば、肘の関節に拘縮がある場合、服を着る際に腕を無理に伸ばすと肘を痛めてしまう場合があるため注意が必要です。関節の可動域を超えた無理な動きは避け、ゆっくりと丁寧に介助をおこないましょう。拘縮のある部分を無理に動かさず、伸縮性やゆとりのある服を選び、服を引っ張るようにしましょう。
プライバシーへの配慮
着脱介助は、ご利用者様のプライバシーに配慮しておこなう必要があります。とくに、異性の介助をおこなう場合は、細心の注意を払い、羞恥心を与えないように心がけましょう。
着替えをおこなう際は、カーテンや衝立などで仕切りを作り、他の人から見えないように配慮しましょう。また、必要以上に肌を露出させないように、タオルやバスタオルで覆いながら介助をおこなうことも大切です。
着脱介助のコツを理解し介護スキルを上げよう
着脱介助のコツをマスターすれば、介護スキルは向上し、自信をもって日々の業務に取り組めるようになるでしょう。スムーズな介助はご利用者様の負担を減らすため、「この人の介助なら安心できる」と信頼につながります。
また、介護スキルが上がると、業務を今より効率よくこなすことができるでしょう。ほかにも後輩スタッフの育成や、より良い条件の職場への転職を検討する際など、広範囲で役立つはずです。
本記事で解説したポイントや注意点を参考に、ご利用者様にとって快適で安心できる着脱介助を目指しましょう。
この記事を書いたのは・・・

椎野みいの/Webライター
保有資格:作業療法士/福祉住環境コーディネーター/福祉用具プランナー/認定心理師
病院、介護老人保健施設、リハビリ専門学校を経て、現在は特別養護老人ホームにて機能訓練指導官として勤務中。
