介護の仕事でよく聞く「見守り」。具体的にどのような仕事かわからない人もいるのではないでしょうか。
本記事では、介護における見守り業務の定義や具体的な業務内容、未経験者でも取り組める理由まで詳しく解説します。
これから介護職員として働こうと考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の内容
介護における見守りとは
見守りは、ご利用者様が安全に過ごすために必要な業務です。
ここでは、見守り業務の定義や必要とされる場面について紹介します。
「介助」や「付き添い」との違いについても把握しておきましょう。
見守りの定義
見守りとは、ご利用者様の行動や表情を注意深く観察し、体調の変化や安全面を確認する業務です。
直接的な身体介助をするのではなく、ご利用者様の自立心を尊重し、事故や急変のリスクを見極めます。
| 【見守りで観察する例】 ・食事中にむせていないか ・立ち上がるときにふらつかないか ・他のご利用者様とのコミュニケーションに問題がないか |
介護の現場では、ご利用者様が安心して過ごせるよう、何かあったときにすぐに動ける態勢で見守りします。
介助・付き添いとの違いとは
介護現場では「介助」「付き添い」といった言葉もよく使われますが、それぞれ「見守り」とは意味合いが異なります。
まず介助は、食事や入浴、排泄などの場面でご利用者様の身体に直接触れるサポートを指します。
付き添いは、ご利用者様と一緒に移動したり、病院の診察室でそばにいたりするような状況で用いられる言葉です。見守りは、ご利用者様の行動に介入せず様子を観察し、必要な時だけサポートします。
筆者の場合は、つい先回りして手助けしてしまっていました。しかし、過度のサポートはご利用者様の自尊心を傷つける結果にもなりかねません。ほど良い距離を保つのも見守りのコツです。
介護現場で見守りが必要な場面
見守りでの観察が必要な場面は多岐にわたります。
以下は主な見守りの場面例です。
| ・朝起き上がるとき ・ベッドから立ち上がるとき ・廊下やトイレへ移動するとき ・車椅子から立ち上がるとき ・食事をしているとき薬を飲むとき ・トイレに出入りするとき ・排泄しているとき ・排泄が終わって衣服を整えているとき ・入浴前後の着替えのとき ・浴槽に出入りするとき ・夜間にトイレへ行こうとするとき ・夜間に部屋を歩き出したとき |
私たちが何気なくおこなう動作も、高齢の方には事故リスクが潜んでいます。
見守りは、ただ見ているだけではありません。ご利用者様の行動や変化に目を配る、観察力と判断力が必要な仕事です。
介護現場における具体的な見守り方法
ここでは、具体的な見守りの方法について解説していきます。
日常生活動作の見守り方法
日常生活の見守りは、ご利用者様が食事・更衣・入浴・排泄・移動など安全にできているかを観察します。
食事の見守りでは、食べるペース、食べこぼしの有無、むせ込みの有無などを確認し、必要に応じて声かけや介助をおこないます。
| 場面 | 具体例 | 見守り方法 |
| 食事 | むせやすい方が食事をしているとき | 表情や喉の動き、せき込みに注意を払う |
| 排泄 | 便座から立ち上がるとき | ふらついてもすぐに支えられるようそばで見守る |
| 移動 | ひとりで歩いているとき | 足の動きに注意し、必要に応じて腕を軽く支える |
| 更衣 | 服を着替えているとき | 無理に手を出さずそばで見守りつつ、必要なときだけ手助けする |
| 入浴 | 浴室・浴槽への出入り | すべりやすい場所のため、すぐに支えられる距離で見守る |
これはあくまでも一例ですが、日常的な動作の中にも事故リスクが潜んでいます。介護職員は、見守りをとおしてご利用者様の動作を細かく観察し、快適に過ごせるようサポートする意識が大切です。
リスクが高い場面での見守り方法
特にリスクが高いとされる場面での見守りは、より一層の注意が必要です。夜間はご利用者様の動きが少ない時間帯ですが、自己リスクが高まる時間帯でもあります。
また、服薬時の見守りも重要です。ご利用者様が薬を飲んだかどうかの確認、副作用の有無など、細心の注意を払う必要があります。
| 場面 | 具体例 | 見守り方法 |
| 夜間 | 就寝中にトイレへ行こうとしたとき | 動き出したタイミングでさりげなく声をかけ、トイレに誘導する |
| 寝ぼけてベッドから起き上がろうとしたとき | 声かけと軽い接触で意識をはっきりさせ、転倒しないよう注意して見守る | |
| 居室や廊下を徘徊しているとき | 無理に止めず、落ち着いた声かけで対応し安全な場所へ誘導する | |
| 服薬 | 薬を飲んでいるか確認するとき | 口元や手元の動きに注意を払う |
| 副作用でふらつきや眠気が出ているとき | 椅子に座ってもらう、手すりにつかまってもらうなど転倒予防のための声かけをする | |
| 薬を隠したり、飲んだふりをしていないか確認するとき | 雑談をまじえて声をかけ、さりげなくそばに立って見守る |
支援ツールを使った見守り方法
ご利用者様の安全を守るには、見守りに便利なツールを活用するのがコツです。
主な見守り支援ツールを以下にまとめました。
| ツール名 | 主な機能・特徴 |
| センサーマット | 床に敷く。踏むと音がなり、ご利用者様の動きがわかる仕組み |
| センサーベッド | ベッドに取り付けたセンサーが、ご利用者様の動きを感知する |
| 人感センサー | 人の体温に反応するセンサー。ベッドから起き上がる、立ち上がるなどの動きを感知する |
| 赤外線センサー | 居室内の壁・家具に取り付ける。放出した赤外線の反射により、ご利用者様の動きを感知する |
| 見守りカメラ | ベッド上などに設置するが、プライバシー保護のために同意必須。ご利用者様のシルエットのみ表示されたり、顔にモザイクがかかる仕様のものもある |
見守りツールを導入すれば、介護職員の負担を軽くしつつ見守りができます。筆者も介護の仕事をしていたときは、ご利用者様の状態に応じた見守りツールを使い、事故リスクの低減を図っていました。
介護の見守り業務の目的とは
介護職員の見守り業務には、3つの目的があります。
- 事故の防止
- 急変の早期発見と対応
- ご利用者様の能力を引き出すサポート
1つずつ見ていきましょう。
事故の防止
見守りの最大の目的は、ご利用者様の事故防止です。介護が必要な方々は、身体機能や認知面の低下により、日常生活に潜む危険を回避しづらい傾向にあります。介護職員はご利用者様の行動を予測し、先回りして環境を整えたり、適切なタイミングで介助したりしなければなりません。
例えば、利用者が立ち上がろうとする前に「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけると、ふらついて転倒するのを防げます。また、薬の種類や量を一緒に確認し、飲み間違いのないよう対応するのも見守りの一環です。
もし事故が起これば、ご利用者様の身体的な苦痛はもちろん、精神的なショックも大きいでしょう。介護職員は常に事故リスクを考慮し、ご利用者様の安全確保に努める必要があります。
急変の早期発見と対応
体調悪化や急変に気付き、迅速に対応するのも見守りの目的です。ご利用者様の表情や呼吸、声のトーン、動作の鈍さなど、普段とは異なる様子にいち早く気づければ、重症化を食い止められます。
例えば、いつもより顔色が悪い、呼びかけに対する反応が鈍い、食欲がないといった変化があれば、すぐに体温や血圧を測ったり、医師や看護師に報告するなどの対応が必要です。見守りで異変を発見できれば、ご利用者様の命を守ることにつながります。
ご利用者様の能力を引き出すサポート
見守り業務には、事故防止や急変対応だけでなく、ご利用者様の能力を引き出すサポートという目的もあります。介護職員が必要以上に手を出してしまうと、ご利用者様が本来持っている能力を使う機会が減ってしまうかもしれません。
食事の見守りを考えてみましょう。
スプーンや箸を自分で持って食べようとしているご利用者様に対して、すぐに介助するのではなく、できるだけ自分で食べていただきます。
見守りをとおして「どんなときに特に食べにくそうか」「どんな食器なら持ちやすいか」などに注目し、食事をより楽しめるようケアの改善につなげるのです。
【筆者の体験談】
筆者は以前リハビリ病棟で介護の仕事に就いていました。骨折した方や脳疾患の治療を終えた方が毎日リハビリを頑張っていましたが、やはり疲労感が強く、なかなか思うように動けない方も多かったです。
祖母の在宅介護に関わった経験から、自立支援の観点は持っているつもりでしたが、。患者様の様子を見ているとお手伝いしたい気持ちがわき起こりました。つい介助しそうになったときもあります。面談の際、「待つことも仕事」と先輩に諭されたことが今でも忘れられません。
「本当に手を貸さなくてもいいのかな」と不安を抱えて見守っていましたが、想定していた以上の回復を見せる方や、予定よりも早く在宅復帰される方が増えたのです。
これは患者様の頑張りの賜物ですが、こんなお言葉をいただきました。
「やることなすこと遅いのに、根気強く見守ってくれたからこんなに動けるようになったよ」
「何が患者様・ご利用者様にとってプラスなのか」を考えるのも、見守りにおいて大切なことなのだと思います。
介護現場で見守り業務をおこなう際の注意点
見守りには以下の注意点があります。
- 見守りが監視にならないようにする
- 職員同士の情報共有を怠らない
- ご利用者様の尊厳を傷つけない
順番に解説していきます。
見守りが監視にならないようにする
まず、見守りが「監視」にならないように注意が必要です。見守りはあくまでご利用者様の安全を支える目的でおこないます。もちろん観察も必要ですが「見張られている」という印象を与えてしまっては、ご利用者様との信頼関係を築けないでしょう。
コミュニケーションをとらず、無言でご利用者様の近くに立ち続けるのは見守りとはいえません。
ご利用者様に「見られている」と感じさせない観察が理想的です。目線や距離感、声かけの仕方などに配慮する必要があります。
職員同士の情報共有を怠らない
見守り業務では、介護職員同士の情報共有も密にする必要があります。情報共有が不十分だと、リスクの高いご利用者様への対応が遅れたり、職員間の連携ミスが発生するからです。
「食欲がない」「朝だけふらついていた」といった、ささいな気付きも、他の職員にとって貴重な情報となります。
筆者も介護職に就いていたころ、職場での情報共有不足でご利用者様の体調変化を見逃しかけた経験があります。申し送りや介護記録による情報共有は、ご利用者様を守るために不可欠です。
ご利用者様の尊厳を傷つけない
見守り中は、利用者の尊厳を傷つけないように注意しなければなりません。特に排泄や更衣、入浴などのプライベートな場面では、最大限の配慮が求められます。不要な露出を避ける、ドアをノックする、丁寧な声かけをするなどを意識した見守りが理想的です。
また、介護施設にいるご利用者様の多くは支援を必要としています。しかし、何でも手を出してしまうと「馬鹿にされているのかも」「こんなこともできないと思われているのか?」と感じさせてしまう恐れがあります。
見守りをしていると「少し危なっかしいかも」「大変そうだから介助したい」と感じる場面はたくさんあります。しかし、ご利用者様の自立心を尊重し、自信を失わせないよう努めるのも大切なことです。
見守りは介護未経験でもできる仕事か
介護職の見守り業務は、未経験者でも可能です。ここでは、介護未経験の人でも見守りできる理由や、向いている人の特徴について見ていきましょう。
専門技術よりも観察力や気配りが重要
介護の仕事には「専門的な知識や技術が必要そう」と感じますが、見守り業務の場合、専門技術よりも観察力や気配りが重要です。見守りは未経験者も応募できるアルバイト求人も出ています。
介護の有資格者であれば、身体介助の機会も多いです。しかし、見守り業務の場合は小さな変化に気付く目と、ご利用者様への思いやりが求められ、資格の有無はそれほど重視されません。入職初日から始められる業務です。
未経験でも学びながら成長できる
介護の現場では、未経験者でも安心して仕事に取り組めるよう、学びながら成長できる環境が整っています。多くの施設では、入職後に先輩職員によるOJT(On-the-Job Training)が実施され、見守りの方法や注意点について教えてもらえます。
見守り業務は介護の初歩的な業務として位置づけられている場合が多く、無理なく業務に慣れていくことができます。見守り業務を通じて、利用者の身体状況を見る力や、適切な声かけのタイミング、コミュニケーションの取り方など、専門的な介護の基礎を学べるでしょう。
見守り業務に向いている人の特徴
見守りは以下の特徴がある人に向いています。
| ・ご利用者様の変化に気付く人 ・注意深く観察するのが得意な人 ・慌てず冷静に対応できる人 ・相手のプライバシーや尊厳を大切にできる人 |
資格の有無に関係なくできる見守り業務ですが、誰にでもできるというわけではありません。
小さな異変に気付く注意力や観察眼、事故の危険にも冷静さを保てる人、何よりもご利用者様を尊重できる人が向いています。
まとめ
介護現場での見守り業務は、ご利用者の安全確保や体調悪化の早期発見、自立支援という目的をもちます。直接ご利用者様に触れる身体介助とは異なり、ご利用者様の行動を観察し、必要な時にだけサポートする点が特徴です。
介護関連の資格や経験がなくとも取り組める業務なので「これから介護の仕事にチャレンジしたい」と考えている人におすすめします。
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この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター
保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。
