「看取り士は、どんな仕事なの?」
「資格はどうやってとるの?」
「どんなところで働けるの?」
近年注目が集まる「看取り士」。
高齢化が進む社会で、耳にする機会が増えてきました。
「看取り士」は、人生最期の時を「その人らしく」過ごすことを希望される方に対して、傍に寄り添いながら心のケアや死生観を整理するサポートをします。
本記事では、「看取り士」の仕事内容や資格取得の方法、活躍の場までくわしく紹介します。看取りや終末期に関心がある方や、看護・介護分野でスキルアップを検討している方はぜひ参考にしてください。
この記事の内容
看取り士とは?
看取り士とは、一般社団法人日本看取り士会が運営する民間資格を取得し、認定登録された人の事です。
看取り士は、人生の最終段階にある人(主に終末期の高齢者や病気の方)と、その家族に寄り添い、「その人らしい最期」を迎えるためのサポートを行う専門職のことをいいます。
医療行為や介護支援を直接おこなうのではなく、「心のケア」「死生観の整理」「家族のサポート」といったケアを中心に実施していきます。
ただし、看護・介護職の方が看取り士の資格を所持している場合は、通常業務に加えて看取り士としての専門的な視点で、本人や家族にケアをしていくことが多いです。
取り士が必要とされる背景には、超高齢化社会が要因の1つといえます。
施設に入所したくても入所できる施設がないという問題や、老老介護で自宅での看取りには負担が大きいといった問題が挙げられます。
このような問題解決のために必要とされているのが、看取りの専門である看取り士の力です。
看取り士の仕事内容
看取り士がおこなう主な仕事内容の紹介をします。
看取り士のもとには、終末期に対してなんらかの不安や疑問を持つ人が相談に来られます。
- どんな最期を迎えたいか家族と話しができていない
- 自宅で最期を迎えたいが、どういう支援をしていくべきかがわからない
- 死に対する不安や恐怖を相談する人がいない
このような方に対して、葛藤や恐怖感を少しでも和らげることができるよう対応します。
筆者が介護付有料老人ホームで勤務していた際、末期がんで療養中の方が見学・相談に来られたことがありました。
自分の最期の場所を探し求めているとのことでした。
看取りが前提で入居される方については、入居時点から施設の医療関係機関との調整をおこない、看取りについて不明点や疑問点などの対応をしていました。
看取り士が、本人の心身がまだ健康なうちから関わることで、終末期に向かう本人が穏やかに死まで歩んでいくことをサポートできる大切な仕事です。
下記は、看取り士の主な仕事内容です。
- 本人の思いを聴き、受け止める
- 本人と一緒に終末期に向き合う家族のメンタルケア
- 納得して最期を迎えられる環境作り
- 「看取りノート」作成
1つずつみていきます。
本人の思いを聴き、受け止める
看取り士が始めにおこなう仕事は、対象となる人の思いをしっかり伺い、その思いに寄り添い受け止めるという大切な仕事があります。
終末期の支援で重要なのは、本人の思いです。
本人の希望や恐怖心や孤独感をじっくりと聴き出し、記録を行い、関係者に共有するという行程は、終末期ケアの根幹です。
本人と一緒に終末期に向き合う家族のメンタルケア
看取り士は、対象となる本人はもちろん、家族の思いとも向き合い、メンタルケアをする重要な仕事があります。
本人と同様に家族も、終末期に大きな不安や恐怖を抱いています。
そんな家族に看取り士としてできることは、これから待ち受けている大切な家族の死に対して一緒に葛藤し、悲しみに寄り添うことで、感情の整理をサポートすることです。
本人は納得して旅立つことができても、残された家族の思いが整理できていなくては、「その人らしい最期」にはならないといえるでしょう。
看取り士は、本人と家族の両方に後悔が残らない支援をしていくことが大切です。
本人や家族が納得して最期を迎えられる環境作り
看取り士は、本人や家族が希望する「最期の環境」を整えるという調整役も担っています。
「最期は苦しくないよう病院で疼痛緩和をしてほしい」「慣れ親しんだ自宅で安心して最期を迎えたい」など、本人や家族によって希望はさまざまあります。
看取り士は、そういった思いを汲み取り、各関係者と調整し、本人や家族が安心できる「最期の環境」を整えるといった仕事もあります。
「看取りノート」の作成支援
看取り士は、本人の思いを可視化するために「看取りノート」の作成を支援します。
「看取りノート」とは、エンディングノートの一種で「看取り」に特化したものをいいます。
| ◆記載内容 ・医療に関する希望(延命治療の内容・薬剤使用の相談) ・最期を迎えたい場所(自宅・ホスピス・病院など) ・家族への思い(感謝や伝えたい言葉) ・財産や事務手続き(預貯金・保険・大切なものの保管場所) ・葬儀や供養(形式・規模・連絡してほしい人) ・大切にしたいこと(好きな歌・花・食べ物・最期にしてほしいこと) |
上記のような事柄について、本人や家族や関係者の思いを吸い上げ、その人の思いが込められた「看取りノート」を作れるようサポートをします。
看取り士は、作成された「看取りノート」をもとに、関係者が共有し、共通認識を持つことで、ケアに対する統一性を確保します。
看取り士が活躍できる場所
看取り士として、活躍できる職場を紹介します。
- 自宅
- 医療機関
- 福祉施設
- 地域の勉強会
1つずつみていきます。
自宅
最期の場所として多くの人が選ぶのは、慣れ親しんだ自宅です。
看取り士は、最期の場所として自宅を選択された方に対して、自宅を訪問し、生活環境を直接目で見て確認します。
自宅で最期を見守る際には、他の医療機関や介護サービス機関などと連絡調整をおこなったり、関係者で思いや情報を共有することが大切です。
本人の希望通りにサポートできる体制の調整が重要で、不足していることがあれば、関係各所に調整を行い、在宅でも安心して最期を迎えられる環境を整えます。
医療機関
医療機関の場合は、主に看護師が患者と関わる事になります。
看護師が看取り士の資格取得をすることで、患者や家族が最期を迎える時の声かけや言葉選びに自信を持てるようになります。
自信を持つことで、患者や家族の心が安定し、安心に繋がるといえます。
福祉施設
福祉施設では、ナーシングホームなど看取りに特化している施設もあるため、看護師や介護士はもちろん看取り士の資格は役立ちます。
福祉施設のなかでも入居対象が高齢者になると、「終の棲家」として入居施設を選択する場合もあります。
施設での最期を希望されている方に看取り士としてできることは、入居の段階から看取り士が配置されていることや、手厚い看取りが実施できることを伝え、安心に繋がるよう配慮することです。
地域の勉強会
看取り士としての経験や人脈は、地域での勉強会で発揮できます。
近所や元職場、知人からの依頼などに応じて、看取りに対する知識を講演できるでしょう。
看取り士として、介護保険サービスの枠組みにとらわれず、保険外サービスの利用や提案をすることも、地域の住民に対して有益な情報となります。
看取り士の資格取得で得られるスキル
看取り士の資格取得では、たくさんのスキルが獲得できます。
- 旅立ちの過程を理解できる
- 人間の最期についての基礎知識
- 家族の不安や悩みのメンタルサポート
- 死について考える力
1つずつみていきます。
旅立ちの過程を理解できる
看取り士は、旅立ちに向けての心身の変化に動じることなく、落ち着いて看取れるスキルが必要です。
人間の最期は、人それぞれであるため、パターン化はできません。
その都度状況が違っても、看取り士の資格取得で習得する内容を理解できれば、さまざまな事例においても、落ち着いて送り出せる力がつきます。
人間の最期についての基礎知識
人間の最期の変化についての基礎知識も備えることができます。
「人間は最期はどうなるのだろう」「食事や排泄、痛みなどに変化はあるのか」などと死にむかう人間の心身はどのように変化するのかを知る事で、その先に起こることを予測でき、慌てずに対応することができます。
家族の不安や悩みのメンタルサポート
看取り士は、家族の不安や悩みに寄り添い、それを解消できる言葉の力が必要です。
終末期には、本人と同様に、家族にも大きなストレスが掛かります。
最期を迎える家族に対しては、少しでも安心して本人を送り出せるメンタル作りができるよう支援することも大切な役割です。
死について考える力
看取り士の資格取得では、「死」について詳しく学ぶ事になるため、自身の死生観についても整理することができます。
最期を迎える本人は、死生観について思いを巡らせ整理をし旅立ちます。
そのため、看取り士は本人の気持ちに寄り添うため、「死」についての自分の考えを持っておくことで、本人とよりよい関係性を築けるのではないでしょうか。
看取り士は介護職のスキルもレベルアップできる
近年、「看取りケア」をおこなう介護施設も増加傾向となっています。
「看取りケアに対応します」と謳うことで、入居者の「終の棲家」になり得るため、入居者に人気がでる施設になるからです。
筆者が勤務していた有料老人ホームでも、看取りの対応をしていました。
医療機関や葬儀社との連携、本人や家族の意思確認などをおこない、看取りの体制を整えていました。
こういった背景から、介護職として看取りのスキルがあれば、介護施設では重宝され、重要ポジションなどにつける可能性も高くなるでしょう。
看取り士は、突出した医療知識や介護技術よりも、本人や家族に寄り添うことのできる心を持っていれば、介護職として十分レベルアップができる資格です。
看取り士の資格取得の手順
「看取り士」は、一般社団法人日本看取り士会が実施する養成講座をすべて受講することで取得できる資格です。
本章では、看取り士の資格取得するための、ステップについて紹介します。
受験資格
看取り士の資格受講をするための要件はなく、基礎資格や経験は不問です。
| ・死に対する恐怖心が拭えない方 ・看護、介護職で終末期、看取りに抵抗感がある方 ・身近な方の死で、後悔の念をお持ちの方 ・他、死に対する疑問などがおありの方 |
引用:看取り士養成講座|一般社団法人日本看取り士会
上記のような状況にある方に受講をおすすめしています。
受験内容と費用
受験内容と費用は、初級から上級の3段階に分けられています。
| 看取り学 初級 | 3時間 9,900円 |
| 看取り学 中級 | 3時間 42,900円 |
| 看取り学 上級 | 4時間 64,900円 |
初級・中級の受講内容については、特に具体的には記載されていませんが、上級については「看取りの作法」という実技があると書かれています。
看取り士の資格取得の条件は、初級~上級を1年以内に修了することとなっています。
申し込み方法
看取り士資格取得の受講方法は、対面と通信・インターネットが選択でき、申し込み方法については、FAX・メール・近くの研究所に持ち込むのいずれかでおこなえます。
受講希望地と希望日付を申込用紙に記載して上記の方法で、申し込めます。
よくある質問
看取り士についてのよくある質問を紹介します。
看取り士に向いている人は?
看取り士は、どんな人に向いているのか紹介します。
- 人の人生や死に向き合う覚悟がある人
- 人の話を丁寧に聞ける人
- 心理・宗教な視点も尊重できる人
- 医療・介護現場で看取り士として職種間のとりまとめに関わりたい人
このような特徴のある人は、看取り士として活躍できるでしょう。
看取り士と終末期ケア専門士の違いは?
看取り士は、一般社団法人日本看取り士会が2012年に設立した民間資格ですが、終末期ケア専門士とは、一般社団法人日本終末期ケア協会が2020年に設立した民間資格です。
その他にも、看取りに関する類似資格があります。
- エンドオブライフ・ケア認定援助士
- 看取りケアパートナー
資格内容は、ほとんど大きくは違わず、本人がその人らしく最期の時を迎えられるように、本人や家族に寄り添い、心身共に安心できるよう環境を整えたり、サポートをする仕事です。
看取り士は国家資格か?
看取り士は、国家資格ではなく民間資格です。
国家資格のように効力があるものではなく、資格取得をするための過程や現在の職業に+αの要素として身につけておくのがおすすめの資格です。
そうすれば、自身のスキルアップにもなり、そのスキルを活かし活躍できます。
看取り士の資格が取得できる団体は?
看取り士の収入は?
看取り士は、民間資格であることや活動人口が少ないことから、給与データはほとんどありません。
また、看取り士を募集している求人情報は、ほぼ確認できません。
実際には、看護師や介護士が兼業するかたちが多いため、看取り士単体の給与ではなく、資格手当や従事している給与に上乗せがされるかたちの支給になっている場合が多いでしょう。
看取り士は資格取得によりさまざまな職場で活躍できる
看取り士は、これからの高齢化社会を突き進む日本社会において期待される資格です。
看取り士の資格受講をし看取り学を学ぶことによって、メンタルケアや死を目前にした人間の変化などを理解することができます。
そして、その知識を活かせる場面もさまざまあります。
特に、看護・介護分野に従事している人が受講することで、現在の業務内容が大きく飛躍するでしょう。
介護転職のミカタでは、看取りに対応する施設の求人も多数あります。
看取りケアや終末期ケアについてのお仕事情報を知りたい方は、この機会にぜひ求人の検索をしてみてください。
この記事を書いたのは・・・

小玉 有紀/Webライター
保有資格:介護福祉士/介護支援専門員/介護事務士
福祉系専門学校を卒業したのち、老健で介護福祉士として6年勤務。生活相談員を経験したのち、ケアマネージャーとして5年経験。現在は育児のかたわらライターとして活動中。
