「入浴介助って具体的にどのようなことをするの?」「難しそうで自分にできるか不安」と思っている介護士の方もいるかもしれません。
よくわからないままでいると、余計に不安は大きくなり、 入浴介助について消極的になってしまう可能性もあります。
そこで、本記事では、入浴介助とはどのような介助を行うのか、その手順や方法などを紹介していきます。
本記事を読んで、入浴介助への理解を深め、安心して実施できるようにしていきましょう。
この記事の内容
入浴介助とは
入浴介助とは、その名の通り、入浴する際の支援・介助行為のことです。
ここからは、介護施設で行われている入浴介助についての目的や準備すべきものなどを解説していきます。
入浴介助を行う目的
介護施設には、疾患や身体の状態により、入浴をご自身でできないご利用者様が多く生活されています。
具体的には、浴槽に入るための移動ができなったり、座位を保つことができず洗身等が不可能であったりする方です。
また、入浴自体はご自身でできても、転倒や溺水等の危険があるため、見守りが必要な方もいます。
そういった方に対して、安心して入浴をしてもらうために、介護職員がサポートします。
事前に準備するもの
入浴介助を行う際、事前に準備するものは以下になります。
- フェイスタオル
- バスタオル
- ご本人の着替え
- 洗身に使用するタオル
- ボディソープやシャンプー、コンディショナー
- (あれば)入浴後に貼付する湿布や塗布する軟膏
- 滑り止めマット
事前準備をしておくことで、入浴前のご利用者様をお待たせすることなくスムーズに実施することができます。
入浴介助の前にチェックすること
入浴介助の前には、安全確保のためチェックすべきことがあります。
主にチェックすることは以下です。
- ご利用者様の情報(疾患・身体の状態・性格など)
- ご利用者様のバイタルチェック(体温や血圧など)
- 食後30分以上時間が空いているか
- 浴槽に入ることはOKか(状態によってはシャワー浴や清拭が適切なこともある)
- 入浴導線に転びそうなものはないか
- 手すり等は安定しているか
- 浴槽の温度は適切であるか
入浴は、露出や温度差により危険が伴うものですので、特に念入りなチェックが大切になります。
安全に入浴してもらうためにも、事前準備を徹底するようにしましょう。
入浴介助の基本的な手順
入浴介助の基本的な手順は以下になります。
- 入浴の準備
- ご利用者様にこれから入浴していただくことを伝える
- 脱衣室まで誘導する
- 脱衣をサポート、または全介助する
- 浴室まで移動する
- 浴室でお湯をかけ温めた状態の入浴用のチェアに座ってもらう、またはストレッチャーへの移乗介助を行う
- シャワーのお湯の温度を確かめた後、心臓から遠い部位からゆっくりとシャワーをかけていく(筆者の場合は足から膝下と順々に上にいくイメージでお湯をかけていました)
- 洗髪、洗身のサポート、または全介助をする
- 浴槽に移動する
- 5~10分程度を目安に浴槽に浸かってもらう
- 浴槽から出て、上がり湯をかける
- タオルで水分を拭き取る
- 脱衣室のベッドや椅子に移動し、更衣のサポート、または全介助を行う
- ドライヤーなどで髪や足の指の間を乾かし、脱衣室から出る
- ご利用者様の席まで誘導
- 浴室や脱衣室の片付けをする
ご利用者様の入浴の方法は、さまざまですが、基本的には上記の流れで行います。
ただし、事業所によって若干、方法が異なる場合がありますので、そういった時には事業所の方針に従いましょう。
入浴介助の種類
介護施設やデイサービスには、さまざまなお風呂の種類があります。
ここからはご利用者様が入浴するお風呂の種類について紹介していきます。
大浴場
介護施設の大浴場とは、大きめのお風呂に複数のご利用者様が入浴するタイプの入浴方法になります。
大浴場での入浴は、大型のデイサービスや従来型の特別養護老人ホームなど、ご利用者様の人数が比較的多い施設で実施されている傾向にあります。
また、大浴場の入浴介助は、複数の介護職員で役割分担していることが多いです。
多くは外介助担当者と中介助担当者でわかれています。
外介助担当者は脱衣室で着脱介助を実施、中介助者は浴室で洗身・洗髪介助や浴槽に入るための移乗介助などを行います。
スムーズに行えるように、協力し合いながら介助を進めていくことが大切になります。
個浴
介護施設の個浴とは、1人用の浴槽にご利用者様が入浴するタイプの入浴方法になります。
個浴は1対1での介助が基本です。
ご利用者様のプライバシーに配慮できるメリットがある一方で、他の職員が同じ空間にいないため、ある程度、自分で方法を覚えて対応していかなければならないデメリットもあります。
不安な場合は、事前に先輩職員に相談しておくと良いかもしれません。
リフト浴
介護施設のリフト浴とは、リフト付き椅子に座ったまま入浴するタイプの入浴方法になります。
リフト浴は、基本的には1人介助、場合によっては2人介助が一般的でしょう。
機械を操作しながら、入浴をしていただくスタイルは機械浴と少し似ていますが、機械浴はストレッチャーをスライドして浴槽に入るのに対し、リフト浴はリフトを利用して入浴するのが大きな違いです
リフト浴は、椅子が上がったり下がったりし、慣れないご利用者様は不安を感じてしまうこともあるため、安心していただくための声掛けが大切になります。
機械浴
介護施設の機械浴は、その名の通り機械を操作しながら入浴するタイプの入浴方法になります。
機械浴は、疾患や身体の状態により、座位を保つことができない方でも、寝たまま入れるお風呂です。
ストレッチャーに寝てもらい、少し頭部を上げた状態で浴槽に移ります。
機械浴を使用するご利用者様の多くは全介助が必要であり、2人介助で実施される傾向にあります。
入浴介助の注意点5つ
入浴介助の際には、注意すべきことがいくつかあります。
そこで、本章では、注意点5つについて解説していきます。
ご利用者様の表情や状態をしっかり観察する
入浴介助の際には、ご利用者様の顔色が悪くないかなどをしっかり観察するようにしましょう。
入浴は、温度差が生じる影響で血圧が変動し、体調を悪化させるリスクがあるためです。
入浴中だけでなく、前後にもご利用者様の様子を確認し、心配な場合は体調を気遣った声掛けをすると良いでしょう。
また、身体の状態についても確認しましょう。
具体的には以下のようなチェックが必要です。
- 身体に傷や内出血などはないか
- むくみはないか
- その他、いつもと違う様子はないか
入浴はご利用者様の身体の状態を観察できる機会でもあります。
羞恥心に配慮する必要はありますが、身体の状態を定期的に確認することは大切ですので、しっかりとチェックするようにしましょう。
必ず声掛けをする
入浴介助に限ったことではありませんが、介助前には必ず声掛けをするようにしましょう。
何も声をかけられないまま、身体を触られたり、介助を進められたりすれば、ご利用者様は驚いてしまうからです。
また、恐怖心を強くさせてしまう恐れもあります。
ご利用者様を尊重する姿勢を見せる上でも、声掛けは大切なことです。
何かを行う度に、「今から髪を洗うので頭のほうにお湯をかけますね」「今からストレッチャーに移動しますね」などと何を実施するかの説明として声をかけるようにしましょう。
羞恥心やプライバシーに配慮する
入浴介助時には、ご利用者様の羞恥心やプライバシーにはじゅうぶんに配慮するように注意しましょう。
入浴時は、露出が増えますので、配慮がなければご利用者様に不快感や不信感を与えてしまいます。
また、それだけでなく、「自分の存在をないがしろにされた」と自尊心まで傷つけてしまう可能性があります。
入浴前にはタオルをかけて露出を最小限にする、ドアやカーテンは必ずしめるなどの配慮を徹底しましょう。
異変があればすぐに応援を呼ぶ
入浴時に異変があればすぐに応援を呼びましょう。
特に脳卒中や心筋梗塞などを発症している場合、一刻を争う可能性があります。
速やかに看護師や他介護職員に連絡し、連携して対応するようにしましょう。
情報共有を忘れない
入浴時に気づいたことは、情報共有するようにしましょう。
情報として他の職員に伝えておくことで、介護ケアの統一や介助のミス予防に繋がるからです。
口頭で介護職員に伝えた後は記録にも残すようにします。
特に以下のような内容を記載すると良いでしょう。
- 入浴時に気になった言動
- 気づいた身体等の異変
- 排泄物があればその量や状態
入浴介助のよくある質問
入浴介助についての疑問や不安がまだ解消されないという方もいるかもしれません。
そこで、ここからは入浴介助に関してのよくある質問を元に、筆者 私の経験も交えながら、その回答を紹介していきます。
入浴介助が不安なときは?
入浴介助に対して、不安を抱く方は多いと思います。
不安を感じた時には、まずその気持ちを整理してどうやって解消していくかを考えると良いでしょう。
入浴介助に対する不安の原因は、人によって異なります。
- 入浴介助時に怪我をさせてしまわないか不安
- 手順をよく覚えていないことで先輩に怒られるのが怖い
- ご利用者様を怒らせてしまわないかと考えてしまう
- 急変した際に適切な対応ができるか自信がない
ご自身の不安の原因を探していくことで、どのようなアクションをすれば解消できるかが明確になります。
例えば、筆者の場合は、先輩に怒られるのが怖いという不安を抱いていたので、入浴介助の手順をとにかく覚える、不安な部分は先に先輩に相談しておくということで徐々に不安を解消していきました。
不安な気持ちを分析していくと、その後の必要なアクションも整理できるので、ぜひお試しください。
長風呂が好きなご利用者様にはどう対応すれば良い?
入浴時間はきっちりと決める必要はありませんが、場合によっては、時間制限をある程度設けたほうが良い場合もあります。
心疾患などを持ったご利用者様が長風呂をすると、心筋梗塞を起こす危険などがあるためです。
また、疾患がないご利用者様であっても、長風呂はリスクが伴います。
しかし、長年の習慣により、お風呂に長く浸かりたい方もいるでしょう。
そういった場合は、事前に入浴時間を伝えておくと良いかもしれません。
例えば、「長いお風呂は体調が悪くなる可能性があるため、5分か10分程度の入浴としましょうね」と、入浴時間に制限を設けることとその理由を丁寧に伝えれば、わかってくれるご利用者様は多いでしょう。
それでも、頑なにお風呂を出たがらないご利用者様に対しては、他の介護職員に相談して対策を考えるようにしましょう。
入浴を拒否されたら?
ご利用者様によっては、入浴があまり好きではなく、拒否される方もいます。
そういった場合は、まず原因を考えてみましょう。
入浴を拒否する理由は、ご利用者様によって違います。
例えば、拒否する理由は以下のような理由が多いでしょう。
- 移動が疲れる
- これまでの生活で入浴をあまり頻繁にしてこなかった
- 恥ずかしい
- なんとなく不安
- めんどくさい
まずは、ご利用者様の性格やこれまでの言動から、拒否する理由を考えてみてください。
原因がある程度想像できたら、カンファレンスなどを開き、ご利用者様への対応方法を検討していくのが良いと思います。
ご利用者様の清潔を保つために、入浴は必要なことではありますが、無理強いをすると反発心から余計に拒否される可能性が高いです。
無理強いはせず、ご利用者様に合った方法でうまく誘い出す方法を考えていきましょう。
入浴介助で大変だった経験は?
介護士の皆さんが入浴介助で大変だった経験で多かった意見は以下でした。
- 体力的に疲れる
- 滑って転びそうになる
- 手袋が濡れて介助がしにくい
筆者が入浴介助で大変だと思ったことは、上記のよくある質問でも紹介した、入浴を拒否するご利用者様の誘導でした。
元々入浴が嫌いなご利用者様だったため、毎回拒否をされていました。
それでも、清潔を保つため、なんとか入浴をしていただきたく試行錯誤しました。
カンファレンスを開き、他の介護職員と相談しながら、お誘いする方法を考えたことを覚えています。
そのご利用者様は、キンモクセイが好きな方であったため、キンモクセイの入浴剤を入れてお誘いしたら、喜んで浴槽に入ってくださいました。
拒否されている最中は大変に感じましたが、解決策を皆で考え、実践し、最後はご利用者様に喜んでいただけたので、今では良い思い出です。
悩んでいる最中は大変に感じても、乗り越えることで、介護職員との一体感やご利用者様との絆をより深めることができるケースもあります。
大変だと思うことがあったら、冷静になって解決策を考え、実践していくことが大切だと思います。
まとめ
入浴介助は、手順や注意点をしっかり理解していれば、過度な心配は不要になります。
記事を参考に、気を付けるべきポイントに注意しながら安全に入浴介助を実施していってください。
安心感ある介助で、ご利用者様に入浴を喜んでもらえるようにしていきましょう。
この記事を書いたのは・・・
中村 亜美/Webライター
保有資格:介護福祉士
特別養護老人ホームでユニットリーダーとして11年程勤務。
その後はフリーライターとして活動中。在宅介護者や介護事業者、介護職員向けのコラム・取材記事を執筆している。