入浴拒否が減る効果的な声かけとは?声かけ以外のポイントも紹介

介護施設の入浴介助では、お風呂を嫌がる、いわゆる「入浴拒否」をするご利用者様に頭を抱えている方は多いのではないでしょうか。
入浴拒否は身体を清潔に保つことが困難になるだけでなく、介護する側にとっても介護サービスを提供できないことで、大きなストレスにつながります。
入浴拒否の原因は個人差があり、身体的な不調や認知症の症状、心理的な抵抗などさまざまです。

本記事では、入浴拒否が減る効果的な声かけの例や、声かけ以外のポイントについてわかりやすく解説します。入浴拒否を減らすためのヒントを見つけてください。

ご利用者様が入浴拒否する原因

まずは、以下のような入浴拒否する原因を確認しましょう。

  • 体調不良で入浴したくない
  • 裸になることに抵抗がある
  • 入浴することを認識できていない
  • 入浴が面倒くさいと感じている
  • 入浴に対する嫌な思い出がある

なぜ入浴を嫌がるのかを理解することは、効果的な声かけを知るヒントになります。それぞれ詳しい内容を解説するので、参考にしてください。

体調不良で入浴したくない

体調不良であれば、入浴したくないと思うのは当然です。しかし、ご利用者様によっては、認知症の影響で意思表示ができない方もいます。
そのため、体温や血圧以外にも、普段と違った様子はないか、表情はどうかなど、ご利用者様の状態を注意深く観察することが大切です。

入浴拒否が見られた場合は、まず体調を気遣う言葉をかけながら、本人のペースに寄り添った対応を心がけましょう。

裸になることに抵抗がある

裸になることに抵抗があり、入浴を嫌がるケースもあります。とくに介助者が異性の場合、心理的負担が大きく感じられる可能性があります。
そのため、入浴や排泄介助だけは同性介助を希望される方も少なくありません。また同性介助だったとしても、少なからず恥ずかしさは感じるものです。

入浴時は、浴室のプライバシーを確保したり、タオルで身体を隠したりしながら、羞恥心に配慮しましょう。

入浴することを認識できていない

認知症や脳血管疾患などにより、入浴の必要性や手順などを認識できていないことで、結果的に入浴拒否につながっているケースもあるでしょう。
入浴を認識できていない方でも、浴室までご案内し入浴してもらうと、笑顔で気持ちいい表情をされたといった事例もあります。

入浴自体を認識できていない方には、お風呂に入る手順や今の状態を丁寧な声かけをしましょう。

入浴が面倒くさいと感じている

入浴は浴室の準備や衣類の脱ぎ着、身体を洗う、濡れた身体を拭くといった手間がかかるため、面倒に感じる方もいます。体力が低下し、疲れるからという理由で、入浴を嫌がる方もいます。
入浴が面倒くさいと感じる場合は、シャワーだけで済ませることや、準備は職員がおこなうことなどを伝え、ご利用者様の負担はほとんどないことを知ってもらいましょう。

入浴は面倒かもしれませんが、入浴すると疲労軽減やリラックス効果などが期待されるため、入浴に対して前向きになる声かけを心がけましょう。

入浴に対する嫌な思い出がある

過去に、入浴中に転倒したり熱いお湯をかけられたり嫌な思いをしたことで、入浴を拒否される可能性もあります。
拒否感が強い場合は、無理に入浴を促しても逆効果です。そのため、入浴への恐怖心を和らげるために、清拭や足浴などからしてもらうのもいいでしょう。

また、入浴に対していい印象を持ってもらうために、「私がそばにいるので安全に入れますよ」「ちょうどいい湯加減ですよ」などの声かけで安心感を与えつつ、細心の注意を払って対応することが大切です。

入浴拒否を減らす声かけのポイント

続いて、入浴拒否を減らす声かけのポイントを5つ紹介します。

  • まずはご利用者様の体調を聞く
  • 相手の気持ちに共感する
  • 優しい雰囲気で安心感を持ってもらう
  • 入浴のメリットを伝える
  • マイナスな感情を解消する

ご利用者様が気持ちよく入浴するためには、介護職の声かけが大切です。上記のポイントを頭に入れて、快適な入浴をしていただけるよう意識しましょう。

まずはご利用者様の体調を聞く

入浴時は必ず、ご利用者様のバイタル測定と体調チェックを行いましょう。バイタル測定で異常はなくても、ご利用者様本人が体調不良を自覚している可能性もあります。
また、午前中に体調を伺った際は「今日はお風呂はやめておく」と拒否されても、午後になると「やっぱり入浴しようか」と言われ、入浴したご利用者様も実際にいます。

そのため、声かけのタイミングにも気を配りながら、ご利用者様の体調を注意深く観察しましょう。

相手の気持ちに共感する

入浴を嫌がるご利用者様に「お風呂場が寒いと入りたくないですよね」「お風呂って気持ちいいですけど面倒ですよね」など、相手の気持ちに共感することで、安心感を持ってもらえます。
共感する姿勢は信頼関係の構築にもつながり、入浴に対する拒否感が和らぐ可能性もあります。

入浴を拒否したからといってご利用者様を突き放すのではなく、共感し寄り添うことでリラックスしてもらえる環境を作りましょう。

優しい雰囲気で安心感を持ってもらう

介護職が威圧的な態度で入浴の声かけをしても、ご利用者様は緊張してしまい、より拒否感が強くなるでしょう。そのため、介護職は穏やかな表情や声色を心がけ、ご利用者様に安心感を持ってもらうことが大切です。
とくに、意思疎通が難しい認知症のご利用者様は、表情や声色など職員の態度に敏感で、一度嫌な印象を与えてしまうと、なかなか信頼関係が戻らない場合もあります。

入浴に限らずご利用者様への声かけは、安心感を持ってもらえるよう、優しい口調を心がけましょう。

入浴のメリットを伝える

入浴には以下のようなメリットがあります。

  • リラックス効果
  • 血行促進や疲労回復
  • 睡眠の質改善
  • 皮膚の清潔保持
  • 免疫力の向上
  • 精神的な安定
  • 関節の柔軟性向上

上記のようなメリットを「気持ちがスッキリしますよ」「肩こりが楽になりますよ」「よく眠れるようになりますよ」など、わかりやすい言葉で伝えてみましょう。

実際に筆者も、この後の「入浴する目的を根気よく説明したケース」で紹介するご利用者様のように、丁寧に入浴のメリットを伝えたことで、入浴してもらえたケースもあります。

マイナスな感情を解消する

入浴に対して嫌な思い出がある場合、ご利用者様が抱える不安や恐怖を取り除くための配慮が必要です。

たとえば、浴室で滑って転倒し怪我をした経験がある方なら、滑り止めマットを敷き、職員がそばで支えるので安全に入浴できることを具体的に伝えましょう。

丁寧に声かけしてもマイナスな感情が完全に解消されるわけではありませんが、職員が思いを傾聴し安心感を持ってもらうことが大切です。

入浴拒否するご利用者様が入浴してくれた声かけの実例

ここでは、筆者が体験をもとに、入浴拒否するご利用者様が入浴してくれた声かけの実例を3つ紹介します。

  • 入浴する目的を根気よく説明したケース
  • とりあえず浴室まで来てもらったケース
  • あらかじめ入浴する時間を伝えたケース

入浴時の効果的な声かけのヒントが詰まっているので、ぜひ参考にしてください。

80代男性のご利用者A様は、日頃から入浴を面倒くさがる方でした。そのため、職員が声かけしてもその場から動こうとせず、日によって「しつこい!」と大きな声で嫌がることもありました。

そこで筆者はA様に対して、入浴することで身体が清潔になり気持ち良くなることを丁寧に説明しました。また、着替えのサポートや浴室の準備などはすべて職員がすることも伝え、A様の負担を可能な限り少なくするよう配慮しました。
するとA様が「そこまで言うなら入ってみようか」と重い腰を上げてくれました。職員が感情的になることなく、根気よく丁寧に声かけしたからこそ入浴してくれたケースです。

とりあえず浴室まで来てもらったケース

80代女性のご利用者B様は、入浴に対して強い拒否はないものの「お風呂は家で入るから入りませんよ」と言う方でした。性格は温厚でユーモアのある方のため、お風呂という言葉を出さなければ、職員について来てくれました。

そこで筆者は、B様に対して少し一緒に歩きましょうと伝え、浴室まで歩いてもらいました。するとB様は「ここはどこ?お風呂には入りませんよ」と軽い拒否を示しました。
浴槽には入らなくていいので、身体だけでも洗いましょうと伝えると、「じゃあ身体だけね?あなたも一緒に入りましょう」とユーモアのある笑顔を見せてくれました。

嘘をつくのはよくありませんが、相手の性格を把握した上で声かけをし、一度浴室まで来てもらうと入浴してもらえるかもしれません。

あらかじめ入浴する時間を伝えたケース

90代女性のご利用者C様は、部屋で横になっているときに入浴の声かけをすると拒否する方でした。また「今日入浴することは聞いていなかった」と言われることもあったため、事前に入浴時間を伝えるようにしました。
具体的には、C様に対して午前中に本日入浴予定であることを伝え、15時頃に入浴しましょうと約束を交わしました。
すると、午前中に約束したおかげか、目立った拒否もなくスムーズに浴室に向かってくれました。

なぜ入浴拒否するのかを分析し、効果的な対応を実践したことで、入浴してもらえたケースです。

入浴拒否されたときのNG対応

入浴拒否された場合、以下のような対応はかえって逆効果なのでやめましょう。

  • 無理やり浴室に連れて行く
  • 強い口調で納得させようとする
  • 嘘をついて浴室まで連れてくる

それぞれの具体的な内容を解説します。

無理やり浴室に連れて行く

ご利用者様が入浴を拒否した際、無理やり浴室まで連れて行くのはやめましょう。力づくで連れて行こうとすると、恐怖心や不信感が強まり、さらに拒否感が強くなるでしょう。
また、無理やり連れて行くことでご利用者様を怪我させたり、精神的なショックを与えたりする恐れもあります。

入浴の声かけは、必ずご利用者様の意思を尊重し、無理な介助はしないことが大切です。

強い口調で納得させようとする

強い口調で相手を威圧し、無理に納得させようとすることも避けましょう。威圧的な態度は不信感を与えるだけでなく、職員との信頼関係を壊すきっかけになります。
一度信頼関係が壊れると、入浴以外の介助も難しくなり、ご利用者様にとっても職員にとってもいいことはありません。

入浴拒否に対してご利用者様が感情的になったとしても、介護職は冷静さを失わず、穏やかな口調で対応することが大切です。

嘘をついて浴室まで連れてくる

入浴介助の声かけで、以下のような嘘をついて浴室まで連れてくる事例はよくあります。

  • トイレに行きましょう
  • ちょっと散歩に行きましょう
  • 部屋で服を着替えましょう

筆者も上記のような嘘をついて入浴の声かけをしたことはありますが、一度うまくいっても毎回入浴してくれるとは限りません。最悪の場合、嘘をついた職員に不信感を抱く恐れもあります。

入浴の声かけでは、正直で誠実な姿勢を持ち、相手に安心感を与える対応を心がけましょう。

声かけ以外で入浴してもらう工夫

声かけ以外にも、以下のような工夫をすることで入浴してもらえる場合もあります。

  • 対応する職員を変える
  • 臨機応変に入浴時間を変更する
  • 足浴や清拭など他の入浴方法を試す

それぞれの具体的な方法を解説するので、声かけを変えるだけではうまくいかない場合の参考にしてください。

対応する職員を変える

ご利用者様によっては、特定の職員に苦手意識があり、入浴拒否につながる場合もあります。同じ職員で入浴拒否が続く場合は、別の職員が対応することで入浴してもらえるかもしれません。

ご利用者様の中には、ある特定の職員以外は入浴拒否される方もいました。人間同士なので、どうしても相性が合わない可能性もあります。

さまざまな工夫をしても入浴を拒否される場合、職員を変えて対応してみるのもいいでしょう。

臨機応変に入浴時間を変更する

入浴時間を柔軟に変更することで、スムーズに入浴してもらえる可能性があります。たとえば、午前中の入浴は拒否する方でも、午後なら入浴してもらえるといったケースです。

介護施設の場合、日勤職員がいる朝から夕方まで入浴してもらうのが一般的です。ただ、どうしても夕食後に入浴したいという方や時間指定がある方などは、上司に相談して勤務時間を柔軟に調整してもらうことが必要です。

筆者が以前いた職場では、夕食後に入浴したいご利用者様のために、遅番の時間を1時間ズラして対応した事例もあります。

足浴や清拭など他の入浴方法を試す

浴室まで行き入浴することに抵抗がある方の場合、足浴や清拭など、ほかの入浴方法を試すのが効果的です。

足浴は全身浴に比べ身体的負担が少なく、リラックス効果も高いため、拒否感が軽減される可能性があります。体力的にきつく入浴したくないという方なら、清拭をすることで清潔を保てます。

全身浴はしなくても、足浴や清拭をすることでリラックスや清潔保持などの効果が期待できるため、入浴拒否された方の代替ケアとして活用しましょう。

入浴拒否されないために大切なこと

入浴拒否されないためには、以下のようなことも大切です。

  • 普段からご利用者様と信頼関係を築く
  • 快適な入浴環境を準備する
  • 相手の立場になって物事を考える

それぞれの方法や、意識するべきことなどを具体的に解説します。

普段からご利用者様と信頼関係を築く

ご利用者様との信頼関係が築けていないと、不信感から入浴拒否につながる可能性があるでしょう。

筆者が新人の頃、初めて入浴介助させていただくご利用者様に「なんであなたなの?〇〇さん(先輩職員の名前)はいないの?」と言われ、入浴拒否された経験があります。

当時は入浴を拒否するご利用者様に原因があるのではと思っていましたが、あらためて考えると、初めて入浴介助する職員に対して不信感を抱くのは当然のことです。

介護職は普段からご利用者様との信頼関係を築き、入浴を任せても安心してもらえる関係性を作りましょう。

快適な入浴環境を準備する

せっかくいい声かけをしても、浴室の環境が整っていないと入浴拒否につながります。たとえば、冬場に脱衣場や浴室が寒すぎたり、シャワーや浴槽のお湯がぬるかったりすると、入浴に対して不快感だけが残るでしょう。

そのため、脱衣所と浴室を事前に温め、お湯の温度にも気を配りながら、快適な入浴環境を整えることが大切です。
また、リラックスできる音楽やいい香りの入浴剤などを使用し、穏やかな気持ちで入浴できる環境を準備するのもいいでしょう。

相手の立場になって物事を考える

ご利用者様が入浴を拒否するのは、体調不良や心理的なストレス、過去の経験からくるトラウマなどさまざまです。そのため、介護職は自分の立場だけで入浴拒否の原因を考えるのではなく、ご利用者様の立場に立って思いを汲み取る姿勢が求められます。

たとえば、昨夜あまり眠れず睡眠不足が原因で、入浴するのが面倒に感じているかもしれません。

入浴拒否したその時のご利用者様を見るのではなく、前日や夜間の様子なども考慮し原因を探ることが重要です。

まとめ

入浴拒否は介護現場でよく見られる悩みですが、ご利用者様一人ひとりの原因を考え、適切な声かけや工夫をすることで改善されることがあります。

基本的な姿勢として、相手の気持ちを理解し丁寧な声かけをすることが大切です。また、普段から信頼関係を築き、ご利用者様が安心して入浴介助を任せられる関係作りが重要です。

介護職は無理をせず、ご利用者様の意思を尊重しながら、快適な入浴環境を提供しましょう。

この記事を書いたのは・・・

津島 武志/Webライター

保有資格:介護福祉士/介護支援専門員/社会福祉士
業界17年目の現役介護職兼ケアマネージャー。
さまざまな介護系メディアでWebライターとしても活動し、多くの検索上位記事を執筆。
介護職以外に転職メディア「介護士の転職コンパス」や自身のライフスタイルや介護系コンテンツを発信するYouTubeチャンネル「かいご職TV」等を運営。