移乗介助とは|施設で安心して行うための方法を紹介

介護士として働く中で、「介護施設での業務の移乗介助がよくわからない」「移乗介助をお願いされたらどうしようと不安」と思っている人もいるのではないでしょうか。
不安なままモヤモヤした気持ちを放置していると、介護の仕事に対するモチベーションの低下に繋がってしまう恐れがあります。

そこで、本記事では、移乗介助の概要や基本的な流れ、方法や注意点などを具体的に解説していきます。
移乗介助を安心してできる未来を目指していきましょう。

移乗介助とは

椅子やベッド、トイレや浴槽など、生活をする上で欠かせないのが移動です。
介護施設には、疾患や身体の状態により、ご自身で移動ができないご利用者様が多く入所しています。
移乗介助は、そういった方々のために、身体を支えたり、抱えたりして移動のサポートをする介助のことです。

例えば、脳梗塞により片麻痺を抱えているご利用者様の中には、うまく立ち上がりや歩行のバランスがとれない方もいます。
そういった方が車椅子からベッドに移るためのお手伝いをするのが移乗介助になります。

移乗介助は、一部介助と全介助、二人介助など、さまざまな方法で実施可能です。

移乗介助の基本的な流れ

移乗介助の基本的な流れは以下になります。

  1. ご利用者様に移乗介助を行うことを伝える
  2. 本人に認識してもらったら、ご利用者様の身体状況に応じて一部介助か全介助を行う
  3. 移乗し終わったら終了したことを本人に伝える

移乗介助の流れは大きくわけて上記のようになりますが、状況によってさらに方法や流れが細分化します。
そこで次章ではシーン別の移乗介助方法を紹介していきます。

【シーン別】移乗介助の方法

ベッドから車椅子

ベッドから車椅子の移乗介助方法は以下になります。

【一部介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子とベッドのブレーキがかかっていることをしっかり確認する
  2. ベット柵などに掴まっていただき、ご利用者様ご自身の力で起き上がるのを介護職員がサポートしながら、ベットサイドに座らせる
  3. 車椅子の手すりを持ってもらい、ベッドサイドから車椅子に移る。この時も介護職員が側でサポートする
  4. 終わったら声をかける

【全介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子をベッドの近くに設置し、移動する角度をなるべく少なくする
  2. 車椅子とベッドのブレーキがかかっていることをしっかり確認する
  3. ベットに仰臥位(あおむけ)になっていた場合は、てこの原理を使いながらご利用者様の身体を起こす
  4. ご利用者様をベッドサイドに座らせ、身体を密着させながらご利用者様の両脇を抱える
  5. ご利用者様の身体を前方に傾けながらお尻を浮かせる
  6. そのまま回転して車椅子に座らせる

ベッドからの起き上がりが不安定な場合は、背中を支えるなどしてご利用者様が倒れ込まないように注意しましょう。

車椅子からベッド(就寝介助等の場合)

車椅子からベッドに移乗介助を行う場合の流れや方法は以下になります。

【一部介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子とベッドのブレーキがかかっていることをしっかり確認する
  2. 安定性のあるベット柵などに掴まっていただき、車椅子から立ち上がるのをサポートする
  3. そのまま車椅子からベッドサイドに移動してもらう(立位が不安定な場合は介護職員がサポートする)
  4. ベッドサイドに座ってもらい、そのままベッドに横になってもらう
  5. 声をかけながら布団をかけて差し上げる

【全介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子とベッドのブレーキがかかっていることをしっかり確認する
  2. アームレストやフットレストが動くタイプの車椅子であれば、移乗介助がしやすいように上げておく
  3. ご利用者様の両脇を抱える
  4. ご利用者様の身体を前方に傾けながらお尻を浮かせる
  5. そのまま回転させベッドサイドに移動させる
  6. ベッドサイドに座った状態からてこの原理を使い、仰臥位に寝かせる
  7. 頭の位置がベッドの上のほうに来るように、身体を介護職員のほうに引き寄せながら上のほうに移動させる
  8. 声をかけて布団をかける

ベッドサイドは、手すりなどがない場合、座位の安定性が低下するため、座らせた後にふらつかないよう注意しましょう。

車椅子から椅子

車椅子から椅子に移乗介助を行う場合の流れや方法は以下になります。

【一部介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子のブレーキががかっているか、椅子の位置が適切かを確認する
  2. 車椅子の手すりを持ち、立ち上がってもらう
  3. 立位が不安定な場合は介護職員が支える
  4. 身体を回転させ椅子に移動してもらう

【全介助の場合】

  1. 声掛けをする、車椅子のブレーキががかっているか、椅子の位置が適切かを確認する
  2. ご利用者様の両脇を抱える
  3. ご利用者様の身体を前方に傾けながらお尻を浮かせる
  4. そのまま回転させ椅子に座らせる

移乗介助前に車椅子と椅子の位置が正しいかを確認するようにしましょう。

二人介助でティルト・リクライニング車椅子からベッド

ティルト・リクライニング式の車椅子とは、座位を保つことができない、または拘縮などにより車椅子に乗ることができないご利用者様が使用する福祉用具になります。

拘縮によりご自身で身体を動かせない場合、または体格差があり一人では介助できない場合などは二人介助でご利用者様の身体を持ち上げて移乗します。

方法は以下の通りです。

  1. 声掛けをし、ベッドとティルト・リクライニング車椅子のブレーキを確認する、ベッドを下げる
  2. ティルト・リクライニング車椅子のアームレストを下げる
  3. 一人がご利用者様の肩と腰の下に手を入れ、もう一人が腰と両足の下に手を入れ抱える
  4. 一度介護職員達のほうにご利用者様の身体を引き寄せ、その後、介護職員の身体の上に乗せるような感じで持っている部分を密着させる
  5. ベッドに移動し、位置を確認しながらゆっくりを身体をおろす

二人介助の時には、必ず声を掛け合いながら行うようにしましょう。

移乗介助の注意点4つ

介護現場で移乗介助を行う際には注意点もあります。
本章では、移乗介助を行う際の4つの注意点を筆者の経験を交えながら解説していきます。

利用者さんの表情を確認しながら行う

移乗介助の際には、ご利用者様の表情を確認しながら行うことも大切です。
移乗介助を行っている最中に、気分が悪くなってしまい続けることで状態が悪化してしまう可能性もあるからです。

例えば、顔色が悪い状態で移乗介助を継続してしまえば、起立性低血圧を起こしてしまうリスクもあります。

筆者の経験上の話になりますが、ベッド上から車椅子に移乗しようとした際、ご利用者様の表情や様子に少し違和感を持ち、移乗介助を中断して看護師に相談したことがありました。
そのご利用者様は胃腸炎を起こしており、その後すぐに嘔吐・下痢の症状が出てしばらく身体を休めることになりました。

様子がおかしい時には、ご利用者様の身体の中で何かが起きている可能性があります。
あの時にそのまま介助をして、車椅子に乗せていたら、ご利用者様に辛い思いをさせていただけでなく、感染性の胃腸炎であればリビングに誘導していたら、他のご利用者様にも感染していたかもしれません。

そのような事態を防ぐためにも、移乗介助の前後は必ず声掛けをし、ご利用者様の表情や状態を確認するように気を付けましょう。

実施前にご利用者様の情報を確認しておく

移乗介助の際には、ご利用者様の情報を確認しておくようにしましょう。
ご利用者様によって、疾患や身体の状態、性格などは異なります。
知っておくべき情報を把握していないと、誤った介助に繋がってしまうリスクがあります。

例えば、疾患により不随意運動の症状があるご利用者様がいたとします。その情報を把握していないまま介護職員のペースで移乗介助を進めてしまうと、不意にご利用者様が身体を動かしたときに対応できずに転倒させてしまう可能性があるでしょう。

このように、把握しておくべき情報を理解せず介助を進めてしまうと危険が伴うため、必ずご利用者様の情報を把握しておくようにしましょう。

また、疾患だけでなく性格の把握も大切です。

筆者の介護職員時代に、ご利用者様の情報をよく確認せず移乗介助を実施してしまったことがありました。
そのご利用者様は感情の起伏が激しい方で、コミュニケーションに注意しないと、怒らせてしまうことがあるのです。
筆者は確認しなかったために、ご利用者様の意図をうまく汲んだ関わりができず、結果的に怒らせてしまった失敗談があります。

お互いに気持ちよく移乗介助を進めるためにも、ご利用者様の必要な情報は理解しておくようにしましょう。

必ず声掛けをする

移乗介助を行う際には、必ず声掛けをするようにしましょう。
いきなり持ち上げたり、身体に触れたりすれば、ご利用者様は驚いてしまい、また恐怖で固まってしまう恐れがあるからです。
恐怖から固まってしまったり、反射的に予測できない動きをしてしまったりすれば、転倒のリスクもあります。

「〇〇さん、今から移動しますので車椅子に移るお手伝いをさせていただきますね」などと優しく声をかけるといいでしょう。
移乗介助に限ったことではありませんが、実施前には必ず「これから移乗介助を行う」と認識してもらえるような声掛けをしましょう。

筆者は介護職員時代、移乗介助に限らず、どの介助を行う際でも、必ず声掛けをするようにしていました。
声掛けをすることで、ご利用者様にこれからの動きを理解していただき、息を合わせることにも繋がります。

無理せず他の職員に応援を頼む

移乗介助を安全に行うために大切なのは、無理をしないということです。
無理な状態で移乗介助を続けてしまうと、転倒や事故のリスクに繋がるからです。

例えば、体格差があり、持ち上げるのに無理があるご利用者様をそのまま一人で介助しようとすると一緒に転倒してしまうリスクがあります。
一人介助に限界を感じた時には無理をせず、速やかに応援を呼ぶようにしましょう。

安心して移乗介助を行うためのポイント5つ

安心して移乗介助を行うためのポイントは大きく分けて5つあります。
そこで、本章では安心して移乗介助を行うためのポイントを解説していきます。

ボディメカニクスを意識する

安心して移乗介助を行うためにはボディメカニクスを意識することが大切です。
ディメカニクスは力学的関係を活用した介助の方法であり、応用することで、安定感のある移乗介助を行うことができます。

ボディメカニクスには8つの原則があります。

  1. 支持基底面積を広くする
  2. 重心の位置を低くする
  3. 重心の移動をスムーズにする
  4. 重心を利用者さんに近づける
  5. てこの原理を利用する
  6. 身体をコンパクトにまとめる
  7. 大きな筋群を使う
  8. 手前に引く

以上、8つの原理を意識していくことで、介護職員自身の身体の負担を軽減するだけでなく、安定感があるため、ご利用者様の心を安心させることにも繋がります。

「移乗介助を安心して行いたい」「危険性が低い安定した体勢での介助を知りたい」と思っている方は、特にボディメカニクスを学び、応用していくと良いでしょう。

あらかじめ疑問を解消しておく

移乗介助を安心して行うためには、あらかじめ疑問点を解消しておくことも大切です。
疑問を持ったままだと、不安な気持ちに支配されてしまい移乗介助を行う際にも、そのモヤモヤがご利用者様に伝わってしまうからです。

疑問点があれば他の介護職員に質問するか、ご自身で調べて解決するか、いずれかの方法で解消しておくようにしましょう。
疑問を解消して、堂々と移乗介助が実施できる状態が理想的です。

不安な場合は他の職員に先に伝えておく

移乗介助に慣れず、不安な気持ちが消えない場合は、先に他の職員に伝えておくようにしましょう。
あなたの不安な気持ちは、他の職員には伝わっていない可能性があるからです。

不安で気持ちの整理がつかないままだと、冷静になることができず、移乗介助に失敗してしまうリスクがあります。
不安な気持ちを先輩職員に共有しておくことで、「自分の気持ちを知ってもらえている」という安心感に変わります。

また、共有しておけば慣れるまで見守りを行ってくれる可能性もありますので、不安な気持ちは積極的に共有していくと良いでしょう。

一つ一つの動作を声に出しながら行う

移乗介助をする際には、一つ一つの動作を声に出しながら行うことも効果的です。
声を出すときには、独り言のように発するのではなく、ご利用者様と確認の会話をしながら行うと良いでしょう。

例えば、「今から車椅子に移りますね」「今から腰を支えますね」などと一つ一つの動作を声に出して伝えてあげるとご自身への確認に繋がるだけでなく、ご利用者様にも安心感を与えることができます。
これから行う動作をご利用者様に伝えるという意味でも、積極的に声に出していきましょう。

家でイメージトレーニングをする

移乗介助に慣れず、不安な場合は家でイメージトレーニングをしてみましょう。
手順や流れを身体で覚えることで、スムーズに介助することが可能になるからです。

一度、手順を紙に書き、家で大きめのぬいぐるみなどを利用しながら練習してみると良いでしょう。
家で練習しておくことで、頭や身体で覚えるため、思いのほか早く移乗介助の方法が習得できるようになるかもしれません。

ご利用者様に安心してもらえるような移乗介助を実施しよう!

移乗介助に慣れていない介護職員の方も緊張すると思いますが、誰かに自分の身を預けなければならないご利用者様自身も不安に思っていることを忘れてはいけません。

しかし、移乗介助の大切なポイントさえ押さえれば、事故やトラブル等のリスクは低くなりますので、安心して実施することができるようになります。

本記事を参考に、移乗介助の手順や注意点を再認識し、ご利用者様に安心感を与えられるようなケアに繋げていきましょう。

この記事を書いたのは・・・

中村 亜美/Webライター

保有資格:介護福祉士
特別養護老人ホームでユニットリーダーとして11年程勤務。
その後はフリーライターとして活動中。在宅介護者や介護事業者、介護職員向けのコラム・取材記事を執筆している。