
介護現場においてご利用者様一人ひとりのニーズに対応するには、チームワークが重要です。
チームワークが取れていれば質の高いケアを提供できるほか、職員の働きやすさにもつながります。逆にチームワークがうまくいっていないと、業務が滞りご利用者様に迷惑をかけてしまいかねません。
そのため、介護現場でチームワークが求められる理由やチームワークが良くない介護施設の特徴、チームワークを良くするコツなどを紹介していきます。
チームリーダーに求められる役割についても触れますので、管理職などでリーダーシップを求められる方はぜひご覧になってください。
この記事の内容
介護現場におけるチームワークとは?
介護現場におけるチームワークとは、施設や訪問事業所に属するメンバーが、ご利用者様が抱える課題や目標を解決・達成するため、協力や連携をし合う共同作業のことです。
介護現場では介護職員だけでなく、ケアマネジャーや看護師、リハビリ職員、福祉用具スタッフなど多くの職種と連携しなければなりません。
スタッフがそれぞれ有している専門性を発揮し、連携しながらご利用者様のケアやサービスを提供していくためです。
それぞれの職種が別の目標を持っていると、ご利用者様に対して一貫したチームアプローチができなくなってしまいます。
仲良しの関係ではなく、同じ目標を見据える関係
では、チームワークが取れたチームはどのような関係性が築けているのでしょうか。一つは同じ目標を見据えた関係性だと言えます。
必要以上に仲を良くしようとする必要はなく、プロフェッショナルとして互いの専門性を持ち寄り合う関係性が求められます。
ご利用者様が抱える課題は何なのか、どのような希望を叶えたいのか、ニーズに対してチームでどのように関われるのか。
それぞれの職種がバラバラな行動をせず同じ課題感や目標を持てていれば、より質の高いケアにつながり、チームで達成感を共有できるでしょう。
盛んなコミュニケーションが交わされているチーム
同じ目標を持ってチームアプローチを行うためには、盛んなコミュニケーションが必須です。
ベテランから新入職の職員含め、ご利用者様に関わる全スタッフが率直な意見を出し合える関係性や雰囲気である必要があります。
いつも同じスタッフだけが意見を出しているようでは盛んにコミュニケーションが取れているとは言えません。
間違ったことを言ってはいけないと萎縮せず、新人職員でも積極的に意見が言える雰囲気作りができていれば、盛んなコミュニケーションが交わされるチームになるでしょう。
介護現場でチームワークが求められる理由
介護現場でチームワークが求められる理由は以下の3つです。
- ご利用者様ごとに質の高いケアを提供するため
- 他職種と連携の取りやすい関係性を作るため
- 介護職員の働きやすさに関係するため
以下で詳しく説明していきます。
ご利用者様ごとに質の高いケアを提供するため
入所や訪問で関わるご利用者様は一人ひとり全く違う課題を抱え、それぞれ異なる希望を持っています。1人では対応しきれないため、質の高いケアを提供するためにはチームワークが欠かせません。
たとえば、ご利用者様から「トイレに行きたい」という希望があったとします。ですが、その方の身体状況によっては介護職員1人でトイレ介助をするのが難しい場合があります。
介護職員や看護師が協力して介助する必要があるケースもあり、介助量を軽減するためにリハビリ専門職がリハビリテーションを提供することもあるでしょう。ケアマネジャーとも相談して適切なサービスを選定せねばなりません。
ご利用者様ごとに質の高いケアを提供するためにはチームワークが必須になってくるのです。
他職種と連携の取りやすい関係性を作るため
ご利用者様ごとに質の高いケアを提供する前提には、他職種同士の連携が欠かせません。普段から協力関係を築けていないと、いざという時にチーム一丸となって協働するのは難しいでしょう。
ご利用者様について各々の見解を共有する時間を作り、一緒に身体機能や生活状況を観察する。その上で、実現可能な目標を設定していくことで関係性も構築されていきます。
スムーズにチームワークを取るためには、普段から連携を取りやすい関係性作りが重要です。
介護職員の働きやすさに関係するため
チームワークが取りやすい職場は介護職員の働きやすさにも関係します。
2024年7月に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」によると、介護従事者の直前職を辞めた理由で最も多かったのが「職場の人間関係に問題があったため」でした。
チームワークが取れていない職場には人間関係の問題もつきものです。意見を言いづらい雰囲気やご利用者様の目標に合っていないケアが常態化していると、真面目に働いているスタッフが疲弊してしまいます。
介護職員一人ひとりがいきいきとケアに従事するためにも、介護現場でのチームワークは高める必要があるのです。
チームワークが良くない介護施設の特徴
チームワークが良くない介護施設の特徴を、代表的なものとして3つをご紹介します。
- 職員同士の会話が少ない
- 個人主義の考えが根付いている
- 業務に関わる報連相ができていない
他にも良くない特徴はさまざまありますが、まずはこの3つを改善する意識を持ってみてはいかがでしょうか。
職員同士の会話が少ない
職員同士の会話の少なさはチームワークに悪影響を及ぼします。
気軽に話せる関係でなければご利用者様について踏み込んだ話をするのは難しいでしょう。
会話が少ない状況だとフロアは静まり返り、居心地の良くない緊張感に包まれます。あまりにも静寂が続くとご利用者様もソワソワしてしまい、落ち着きがなくなってしまうかもしれません。
このような環境ではチームワークが取れないだけでなく、事故が発生しかねないため、職員同士の会話は連携をとる上で重要なコミュニケーションなのです。
個人主義の考えが根付いている
ご利用者様一人ひとりに寄り添ったチームアプローチをするためには、同じ目標を見据えて各職員がケアに当たらねばなりません。
しかし、その中で個人的な意見を主張する職員がいると、チーム全体での連携が取りづらくなってしまいます。
介護を学んできた環境の違いや長く働いていた職場の考えが根付いていたりと、介護職員によって介護に関する想いが異なるのは言うまでもありません。
ですが、その想いの上に積み上げられた知識や経験を持ち寄ることで、より質の高いケアにつながるはずです。
お互いの意見を尊重し合わず、各々の職員が個人プレーに走ってしまうとチームワークは壊れてしまいます。
個人主義が行き過ぎてしまわないよう日々のコミュニケーションを大切にし、それでも分かり合えない場合は適度な距離感をとって連携をとるようにしましょう。
業務に関わる報連相ができていない
職員同士の会話の中でも、業務に関わる報連相ができていなければチームワークはとれません。
ご利用者様に関する申し送りや感染対策の変更事項、新規利用者様の情報共有など、各職員が連携するには不可欠な情報です。
これらの情報が周知できないと、業務が滞りご利用者様に迷惑がかかってしまいます。個人の問題だけでなく、そもそも業務の話をしづらい状況や関係性の場合は改善が必要です。
チームワークを良くするコツ
チームワークが良くない介護施設の特徴を把握できたところで、チームワークを良くするコツを3つ確認していきましょう。
- 雑談ができる雰囲気を作る
- 職員が互いの意見や立場を尊重できる関係性を作る
- ミニカンファレンスなどで情報共有する場を設ける
チームワークが良くない施設の特徴の対策としてご紹介しますので、改善できそうな項目から取り入れてみてください。
###雑談ができる雰囲気を作る
必要以上に仲良くなる必要はありませんが、職員同士で雑談をし合える関係性や雰囲気作りを心がけましょう。
最初は話が盛り上がらないかもしれませんし、個人的な話をしたくない方もいると思います。その場合、ご利用者様の好きなことや趣味、今までの生活史などを会話の軸において話してみてはいかがでしょうか。
共通の話題のため話が続きやすく、自身が知らなかった情報を他の職員から聞ける貴重な機会になります。話しはじめるのが苦手な職員がいれば、話を振りながら会話の輪に入れるように配慮するとよいかもしれません。
職員が互いの意見や立場を尊重できる関係性を作る
雑談ができる関係性になれば、職員一人ひとりの介護に対する考え方などが徐々に見えてきます。考えが完全に一致することはないため、互いの意見を尊重できるよう、関係性を築いていくことが大切です。
特に管理職と現場の職員は立場が違うため意見がぶつかりやすくなります。管理職は自身の上司と現場の職員からの意見に板挟みになり、厳しい立場に立たされることもしばしば。
互いの意見全てを尊重することはできませんが、考え方や想いを話し合う時間がなければいつまでも分かり合えずにチームワークも生まれません。
管理職は上司から指示を受ける際に現場の職員が考えていることを伝え、職員に情報を下ろす際には納得のいくように説明をするようにしましょう。現場の職員は管理職の立場も尊重し、意見の伝え方などを工夫してみてください。
お互いの意見や立場を尊重できれば、チームワークを発揮できる関係性が築けるはずです。
ミニカンファレンスなどで情報共有する場を設ける
上司に対面で報連相をするのが苦手な方もいるため、ミニカンファレンスなどで全体に情報共有する場を設けましょう。
必ず報連相する機会ができ、徐々に報告をする心理的なハードルが下がっていくはずです。それでも情報共有が漏れてしまう場合、先輩職員を配置してフォローできる体制を整えられると情報が滞りなく共有できるようになるでしょう。
介護のチームリーダーに求められる役割
チームワークを高めるため、介護のチームリーダーに求められる役割を以下にまとめます。
- 職員の意見や提案に耳を傾ける
- 誰のためのケアなのか職員に問い続ける
- 対話を重ねて実現可能なものを取り入れる
職員の意見や提案に耳を傾ける
リーダーはチームワークを高めるため、職員の意見や提案に耳を傾けることから始めてみてください。
中には愚痴や文句などの意見も含まれるかもしれません。自身の上司に報告するには難しい意見や提案もあるでしょう。
ただまずは耳を傾けて、現場の職員が自分の意見を聞いてもらえている実感を持てることが重要です。
誰のためのケアなのか職員に問い続ける
提案される意見の中には、ご利用者様のことよりも自分の働きやすさを優先させた意見なども含まれているかもしれません。
誰のためのケアなのか職員にも問い続け、チームで同様の目標を持てるような船頭役としてリーダーシップを発揮しましょう。
対話を重ねて実現可能なものを取り入れる
ご利用者様の抱える課題や職員の働きやすさなど、職員の意見に耳を傾けつつ対話を重ねていってください。時間はかかると思いますし、実現可能なものばかりではないと思います。
ただ、お互いの意見を話あわず不完全燃焼のままチーム運営をしていると健全なチームワークは育めません。
実現可能なものを探り、少しずつ取り入れていければ「自分たちの意見が反映された」と現場の職員も納得できるはずです。
介護現場におけるチームワークについての質問
最後に介護現場におけるチームワークについての質問と回答をまとめました。
介護現場でチームワークを良くするためにどのような目標を定めればいいですか?
実現が難しいものやリスクが高い目標は定めず、まずは実現可能な目標から定められるとよいでしょう。
例えば、自分でベッドから起き上がるのが難しい方の場合、トイレが自立できるように目標設定をしてしまうと職員の中でも意見が分かれてしまいます。
病状が落ち着いて精神的にも安定していれば、自身で安全に起き上がれる方法の獲得や日中の離床時間の確保など、現実的な目標をチーム内で定められるとよいはずです。
チームワークを良くするためにどのような研修を行えばいいですか?
チームワークを高めるためには相互理解を促しつつ、体験型の研修を実施できるとよいでしょう。
チームで一つのものを作り上げる体験型ワークショップや実際の現場を想定したシミュレーションなど、職員同士でコミュニケーションを取れる研修が適しています。
研修以外にも雑談やミニカンファレンスなどを通して相互理解が図れれば、信頼関係も強まりチームワークも自然と高まっていくはずです。
まとめ
今回は、介護現場でチームワークが求められる理由やチームワークが良くない介護施設の特徴、チームワークを良くするコツなどをご紹介しました。
質の高いケアや介護職員の働きやすさには、密接なコミュニケーションや強固なチームワークが必要です。まずは雑談できる雰囲気を作れれば、お互いの意見や立場を尊重できる関係性を築けるようになります。
その上で、リーダーは現場の職員の意見や提案に耳を傾け、実現可能なものから取り入れていきましょう。
適切な目標を設定し、必要に応じてチームワークを高める研修なども行うとよりよいチーム運営ができるはずです。
この記事を書いたのは・・・

梶原 たくま/Webライター
保有資格:理学療法士
2014年に理学療法士免許取得。生活期の病院に勤務し、入院・外来・予防・通所・訪問リハビリテーションに従事。現在は訪問看護ステーションと医療系出版社に所属しつつ、ライター活動を行っている。