
居宅介護支援事業所は、高齢者が自宅で安心して暮らし続けるために、介護サービスの調整やサポートを行う重要な機関です。
居宅介護支援事業所では、ケアマネジャーが中心となり、ご利用者様やご家族の相談に応じながら、最適なケアプランを作成し、自治体や医療機関との連携を図ります。
本記事では、居宅介護支援事業所に関して、以下のような疑問にお答えします。
- どのような仕事をするのか?
- 対象のご利用者様は?
- 居宅介護支援事業所で働くメリットやデメリットは?
居宅介護支援事業所で働こうか悩んでいる方や、介護業界への転職を考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
この記事の内容
居宅介護支援事業所とは
居宅介護支援事業所は、高齢者が住み慣れた自宅で安心して生活を続けるために、一人ひとりに合った介護サービスを提案する役割を担っています。
居宅介護支援事業所では、ケアマネジャーが中心となり、ご利用者様の状況を把握した上で、ケアプランというサービス計画を作成し、介護サービス事業者や自治体、医療機関との連携を図ります。
本章では、居宅介護支援事業所の人員基準や利用対象者に関する詳しい内容を見ていきましょう。
居宅介護支援事業所の人員基準
居宅介護支援事業所を開設、運営するためには、厚生労働省の定める人員基準を満たす必要があります。
介護保険法では、居宅介護支援事業所の人員基準は、以下のように定められています。
職種 | 人員基準 | |
介護支援専門員 (ケアマネジャー) | ・常勤の介護支援専門員を1名以上配置する ・利用者の数が44またはその端数を増すごとに1名の介護支援専門員を配置する ※居宅サービス計画の情報の共有等のための情報処理システムを利用し、かつ事務職員を配置している場合は、利用者の数が49またはその端数を増すごとに1名の介護支援専門員を配置する | |
管理者 | ・常勤の「主任介護支援専門員」でなければならない ・専従の管理者を配置する必要はあるが、業務に支障がない場合は「その管理する指定居宅介護支援事業所の介護支援専門員」「ほかの事業所の職務」の兼務は可能とする |
人員基準の具体例は、以下のとおりです。
- ご利用者様44人→ケアマネジャー1名
- ご利用者様45人→ケアマネジャー2名
- ご利用者様89人→ケアマネジャー3名
- ご利用者様132人→ケアマネジャー4名
人員基準以外にも、事業所として適切な業務運営を行うための体制や記録管理の仕組みが整っていることも重要です。
介護保険制度に基づき、適正なサービスを提供できる環境を整えることで、利用者が安心して支援を受けられる仕組みとなっています。
居宅介護支援事業所の利用対象者
居宅介護支援事業所を利用できるのは、主に要介護認定を受けた方です。具体的には、介護保険制度において「要介護1〜5」と認定された方が対象で、ケアマネジャーがケアプランを作成し、必要な介護サービスを受ける仕組みです。
ご利用者様は居宅介護支援事業所を経由することで、デイサービスや訪問介護、福祉用具のレンタルなど、自宅で受けられるさまざまな介護サービスを利用することが可能になります。
一方「要支援1・2」と認定された方は、介護予防ケアプランの対象となるため、居宅介護支援事業所ではなく、地域包括支援センターが支援を担当するケースが一般的です。
居宅介護支援事業所は、利用者一人ひとりの状況に合わせた支援を提供し、できる限り自宅で自立した生活を送れるようサポートする役割を担っています。
居宅介護支援事業所の仕事内容
居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーの仕事内容は、主に以下の5つです。
- 居宅サービス計画書(ケアプラン)の作成
- ご利用者やご家族からの介護相談
- 自治体や医療機関等との連絡調整
- モニタリングやケアプランの見直し
- その他
それぞれ詳しい内容を解説するのでご覧ください。
居宅サービス計画書(ケアプラン)の作成
ケアマネジャーの最も重要な業務の一つが、ケアプランと言われる居宅サービス計画書の作成です。これは、要介護認定を受けたご利用者様が適切な介護サービスを受けられるように、生活状況や希望を考慮して作成する計画書です。
ケアマネジャーは、ご利用者様やご家族と面談し、日常生活での課題や介護の必要性を把握します。その上で、訪問介護やデイサービス、福祉用具のレンタルなど必要なサービスを組み合わせ、最適なケアプランを立てます。
ケアプラン作成後は、自治体や介護サービス事業者など各関係機関と連携し、スムーズにサービスが開始できるよう調整することが大切です。
ご利用者やご家族からの介護相談
居宅介護支援事業所では、ご利用者様やご家族からの介護相談に対応することも重要な業務の一つです。介護に関する悩みや疑問は多岐にわたります。
たとえば「どの介護サービスを利用すればよいか」「介護保険の手続きはどうするのか」「自宅での介護負担を減らす方法はあるか」などです。
ケアマネジャーは、さまざまな相談に対して介護保険制度の仕組みや利用可能なサービスについて説明し、必要に応じて適切な介護サービスを提案します。
また、介護に関する不安を抱えるご家族の精神的なサポートもおこない、ご利用者様が安心して在宅生活を送れるよう支援することも求められます。
自治体や医療機関等との連絡調整
ケアマネジャーは、介護サービスの提供が円滑に行われるよう、自治体や医療機関、介護事業者との連絡調整をおこないます。たとえば、要介護認定の申請や更新手続きを行う際は、自治体と連携し、ご利用者様やご家族に代わり必要な手続きをおこないます。
また、ご利用者の健康状態によっては、医療機関と連携し、適切な医療ケアを受けられるよう調整することも大切です。さらに、デイサービスや訪問介護事業者とも情報共有し、ご利用者様の体調変化や介護内容の変更が必要な場合は、迅速に対応できるよう調整します。
ケアマネジャーは、さまざまな関係機関と連携を図ることで、ご利用者様が継続して適切な介護を受けられる体制を整えます。
モニタリングやケアプランの見直し
作成したケアプランが適切に機能しているかを確認するために、定期的なモニタリングをおこない、必要に応じてケアプランを見直すこともケアマネジャーの重要な業務です。
モニタリングは、通常1ヶ月に1回以上、ご利用者様の自宅を訪問し、現在の体調や生活状況、介護サービスの満足度などを聞き取りします。ご利用者様の状態が変化した場合には、サービスの回数を増やしたり、新たなサービスを追加したりするなどの調整をおこないます
モニタリングを通じて、ご利用者様が自宅で快適に過ごせるよう、継続的にケアの質を向上させることも、ケアマネジャーの重要な業務の一つです。
その他
居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーの業務は、そのほかにも、以下のようなものがあります。
- サービス担当者会議の開催や参加
- 介護サービス提供事業者との契約調整
- 介護サービスの利用状況の確認や記録
- 緊急時の対応や相談支援
- 介護報酬の請求業務
- 研修や勉強会の開催や参加
- 事業所の運営や管理業務の補助
筆者は居宅介護支援事業所ではありませんが、介護職とケアマネジャーを兼務しており、上記のような業務をすることもあります。
職場の状況に応じて業務内容は変わることもありますが、ケアマネジャーは多岐にわたる役割を担っていることを把握しておきましょう。
居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーの1日のスケジュール
居宅介護支援事業所で働くケアマネの1日のスケジュールは、以下のとおりです。
時間 | 仕事内容 | ||
8:30~9:00 | ・出勤、準備 →メールチェックや必要な書類の確認、1日の業務の整理をおこなう | ||
9:00~10:30 | ・ご利用者様を訪問(1件目) →自宅へ訪問しケアプランの進捗状況や状況報告を受ける | ||
10:30~12:00 | ・ご利用者様を訪問(2件目) →2件目のご利用者宅へ訪問し、家族や介護スタッフと意見交換をしたうえでケアプランの見直しをおこなう | ||
12:00~13:00 | ・昼休憩 →その日のスケジュールによって時間は前後する可能性がある | ||
13:00~14:00 | ・ケアプランの作成、見直し →訪問後の情報を元にケアプランを作成または修正する | ||
14:00~15:30 | ・自治体や医療機関との連携調整 →必要な書類の提出や、担当医師や訪問看護との情報共有をおこなう | ||
15:30~16:30 | ・ご利用者様やご家族からの電話相談対応 →介護の悩みや疑問に答え必要なサービスの提案や調整をおこなう | ||
16:30~17:30 | ・事務作業、記録整理 →訪問や相談の内容を記録にまとめ翌日の準備をおこなう | ||
17:30~18:00 | ・業務終了、帰宅準備 →明日の予定や未完了の業務を確認し退勤の準備をする |
ケアマネジャーは、利用者との直接的な関わりを持ちながら、調整業務や事務作業も並行しておこないます。そのため、自分でスケジュールを管理し、計画的に仕事を進めることが求められます。
居宅介護支援事業所で働くメリット
居宅介護支援事業所で働く最大のメリットは、ご利用者様一人ひとりに密接に関わることができる点です。そのため、介護保険制度をはじめ、ケアマネジャーに必要なスキルが身につきやすい環境になっています。
また、誰かに指示されて仕事をするわけではないため、自分の裁量で業務を進めやすい点も魅力的です。
さらに、外回りの仕事も多いため、オフィスワークのようなルーティンワークが少なく、日々異なる課題に向き合えます。
ケアマネジャーとして成長し、将来的なキャリアアップを図りたい方は、居宅介護支援事業所での経験が役立つでしょう。
居宅介護支援事業所で働くデメリット
一方で、居宅介護支援事業所で働くデメリットは、業務の負担が大きくなる可能性があることです。ケアマネジャーは、複数のご利用者様を担当しケアプランを作成するため、時間的に多くの労力が必要です。
訪問先も多く移動時間もかかるため、交通渋滞といったその人の状況に応じて予定通り業務が進まない可能性もあります。
利用者や家族からの突然の相談や要望に対応しなければならないことも多く、対応が遅れると信頼関係に影響を与える恐れもあります。
業務に追われ精神的にストレスが溜まりやすい仕事のため、スケジュールを適切に管理し、計画的に仕事を進めることが求められるでしょう。
居宅介護支援事業所の利用手順
居宅介護支援事業所で働くには、ご利用者様の立場で、利用手順を知ることも大切です。基本的な利用手順は以下の通りです。
手順 | 内容 | |
①相談・問い合わせ | 介護が必要になったら、居宅介護支援事業所へ電話または訪問し悩みを相談する | |
②要介護認定の申請 | 市区町村の窓口で要介護認定を申請する (またはケアマネジャーに代行申請してもらう) | |
③認定調査・審査 | 市区町村職員や委託期間が認定調査を行い、主治医の意見書と併せて要介護認定の審査をする | |
④要介護認定の結果通知 | 審査後は原則30日以内に要支援、要介護度が決定し、認定結果が通知される | |
⑤ケアマネジャーとの契約 | ケアマネジャーを選び居宅介護支援事業所と契約を結ぶ | |
⑥ケアプランの作成 | ケアマネジャーが利用者や家族と話し合い、適切なサービスを計画する | |
⑦サービス担当者会議 | 各サービス事業者と、ご利用者様、ご家族、ケアマネジャーでケアプランを確認する | |
⑧サービスの利用開始 | 作成したケアプランに基づき、訪問介護やデイサービスなどの介護サービスが開始される | |
⑨モニタリングとケアプランの見直し | 定期的に状況を確認し、必要に応じてケアプランを見直す |
居宅介護支援事業所を利用する際は、相談受付からケアプランの作成や見直しなど、ケアマネジャーが多くの役割を担っています。
ケアマネジャーは、ご利用者様がスムーズに必要なサービスを利用できるよう、サポートすることが大切です。
居宅介護支援事業所の仕事内容に関するよくある質問
居宅介護支援事業所の仕事内容に関するよくある質問は、以下の3つです。
- 居宅介護支援事業所と地域包括支援センターとの違いは何?
- 居宅ケアマネと施設ケアマネはどちらが大変?
- 居宅介護支援事業所のケアマネの平均年収は?
それぞれの回答を見ていきましょう。
居宅介護支援事業所と地域包括支援センターとの違いは何?
居宅介護支援事業所は個別支援が中心で、地域包括支援センターは地域全体を支える役割を担っている点が大きな違いです。
居宅介護支援事業所は、要介護認定を受けた方を対象に、ケアマネジャーが介護サービスを利用できるようにケアプランを作成し、関係機関と連携しながらサポートをします。
一方、地域包括支援センターは、高齢者全般の総合相談窓口として、介護予防や権利擁護などの幅広い支援を提供するのが主な役割です。
居宅介護支援事業所と地域包括支援センターはどちらも高齢者を支援する機関ですが、それぞれ役割が異なります。
居宅ケアマネと施設ケアマネはどちらが大変?
居宅ケアマネと施設ケアマネには、それぞれに異なる大変さがあります。居宅ケアマネは、ご利用者様の自宅を訪問しケアプランを作成するだけでなく、医療機関や介護サービス事業者と連携を取るため、移動が多い点が特徴です。
一方、施設ケアマネは、施設内の利用者を担当するため移動は少ないですが、施設の方針に沿ったケアプランの作成が求められ、職員との調整や家族対応に追われます。
また、施設ケアマネの場合、担当するご利用者様の上限が100人のため、居宅ケアマネよりも多くのケアプランを作成する可能性もあります。
筆者のように、特養や有料老人ホームで、介護職とケアマネジャーを兼務する場合もあるでしょう。
それぞれの大変さはありますが、コミュニケーションや時間調整が得意な人は居宅、組織の中で働くのが得意な人は施設が向いていると言えます。
施設ケアマネと居宅ケアマネ、それぞれの仕事内容は、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
居宅介護支援事業所のケアマネの平均年収は?
令和5年賃金構造基本統計調査によると、居宅介護支援事業所で働くケアマネジャーの平均年収は、450万円ほどです(従業員100~999人の中小企業の場合)
経験年数や資格の有無、担当するご利用者様の人数などによって給与は変動します。また、事業所の給与制度によっても金額は異なるでしょう。
ただし、職場によって業務量が多く時間外労働が発生することもあるため、給与と業務負担のバランスを考慮して働くことが大切です
なお、筆者のように施設でケアマネジャーと介護職を兼務すると、年収500万以上稼げるケースもあります。ケアマネジャーの資格を活かし、転職したり役職に就いたりすることで、効果的な給与アップが可能です。
出典:令和5年賃金構造基本統計調査|政府統計の総合窓口(e-Stat)
まとめ
居宅介護支援事業所は、介護が必要な方と介護サービスをつなぐ架け橋として重要な役割を担っています。
そこで働くケアマネジャーは、ケアプランの作成や関係機関との連携など、多岐にわたる業務を行いながら、ご利用者様の生活を支えています。
居宅介護支援事業所の仕事はやりがいがある一方で、業務の多さやスケジュール管理の難しさなど大変な面もありますが、在宅介護を支える上で欠かせない存在です。
自分に合う居宅介護支援事業所を見つけるためには、転職支援サービスを利用するのも効果的です。
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この記事を書いたのは・・・

津島 武志/Webライター
保有資格:介護福祉士/介護支援専門員/社会福祉士
業界17年目の現役介護職兼ケアマネージャー。
さまざまな介護系メディアでWebライターとしても活動し、多くの検索上位記事を執筆。
介護職以外に転職メディア「介護士の転職コンパス」や自身のライフスタイルや介護系コンテンツを発信するYouTubeチャンネル「かいご職TV」等を運営。