介護過程とは?ケアプランとの違いと4つのステップを現役ケアマネが解説

日々の業務のなかで「介護過程」という言葉を耳にするけれど「ケアプランと何が違うの?」と疑問に思ったことはありませんか?質の高い個別ケアに欠かせないものだろうと想像はできても、自信を持って説明できる方は少ないかもしれません。

本記事では、現役ケアマネジャーが介護過程とケアプランとの違いや現場で活かすためのステップなどについてわかりやすく解説します。介護過程について理解できると、日々のケアに自信を持てたり、キャリアアップへつながったりする可能性があるため、ぜひ最後までお読みください。

介護過程とは

介護過程とは、ご利用者様一人ひとりに合ったケアを、根拠に基づいておこなうための思考プロセスです。スタッフの経験や勘に頼らず、チームで根拠に基づいてケアを実践するという介護職員にとっての土台となる考え方です。

人手不足や外国人労働者の増加によって、提供するケアが安定せず、スタッフ間の情報共有や事故の増加といった課題が山積している事業所も多いのではないでしょうか。介護過程の実践に取り組み、ケアを統一できればケアの質の向上につながります。

介護過程を作成する目的

介護過程の目的は、ご利用者様の望む生活を実現し、生活の質(QOL)を向上させることです。

例えば「退院直後で移乗は難しいだろう」と、経験則で判断してしまうこともあるでしょう。しかし、「なぜ今このケアが必要なのか」という根拠を都度考えることで、思い込みを防ぎ、その方に本当に合った支援が見つかります。

また、この思考プロセスをチームで共有することが、ケアの質を標準化し、チームケアを向上させることにつながるのです。

介護過程は介護職員が立案する

介護過程における具体的な計画は、日々のケアを担っている介護職員が立案します。

ケアマネジャーが作成するケアプランがケア全体の方向性を示すのに対し、介護過程はその計画を現場で「どのように」実践するのかを具体的に示す役割を担っています。

介護過程の書式に決まりはない

介護過程で用いるアセスメントシートや個別介護計画の書式には、国が定めた統一の様式はありません。

そのため、各施設や事業所が、ご利用者様の状況や提供したいケアに合わせて、既存の様式を参考にしたり、独自の書式を作成したりと、自由に工夫して活用しています

介護過程とケアプランの違い

介護過程とケアプランは混同されやすいものですが、その役割と作成者などが異なります

簡単に言えば、ケアプランが介護全体の「目的地」と「大きなルート」を決める計画であるのに対し、介護過程はそのルートを「どのように安全で快適に進むか」を具体的に考え、実践していくためのものです。

ケアプラン・ケアマネジャーが作成
・ご利用者様やご家族と話し合い、介護サービス全体の方針を定めている
介護過程・介護職員が作成
・ケアプランをもとに、具体的にどのようにケアしていくかを定めている

現場の介護職員は、この介護過程に沿ってケアをおこない、その結果を評価し、常により良い方法を探し続けます。つまりケアプランが「ケア全体の設計図」なら、介護過程は「現場の手順書」といえます

介護過程の作成方法4つのステップ

介護過程は以下の4ステップで進めます。

  1. アセスメント
  2. 計画立案
  3. 実施
  4. 評価

この流れを繰り返すことで、根拠に基づいた介護過程の作成や質の高いケアの提供が可能になります。各ステップを具体的に見ていきましょう。

STEP1:アセスメント

アセスメントは介護過程の出発点です。ご利用者様の心身の状況や生活歴、望む暮らしなどを情報収集し、解決すべき課題を明確にします。アセスメントでは、単なる情報収集だけでなく、その情報から「何に困っているか」を分析することが重要です。使用するのは以下のような書式です。

  • フェイスシート
  • 24時間シート
  • 生活歴シート

これらを用いて、ご本人やご家族へのヒアリングや観察記録などをもとに情報を収集します。例えば「一人での排泄は難しいが、立ち上がりは自立している」といった情報が、今後の介護計画の課題設定につながります。

作成のポイントとして、個別性のある計画を作るためには、前段階であるアセスメントでの情報量が大切になります。情報が少ないと、その後の計画が中身のないものになってしまいます。心身の状態だけでなく、生活歴や趣味、価値観まで広く情報を集めることで、その方に本当に必要な支援が見えてきます。

STEP2:計画立案

アセスメントで明らかになった課題を解決するため、具体的な介護計画を立てます。「〇ヶ月後に〇〇できるようになる」といった目標を設定し、支援内容を決定します

大切なのは計画の「個別性」で、「散歩が好き」な方には「近所の公園まで歩く」など、その人らしさを反映した支援内容にすることが、ご利用者様の意欲につながります。立案した計画は「個別介護計画書」に記載します。

計画する際は、ご利用者様一人ひとりの「その人らしさ」を反映させましょう。ご利用者様の人数が多いと、どなたも同じような計画になってしまいがちです。

例えば、「歩行」に関する計画の場合、ただ「歩行訓練」とするのではなく、以下のようにするのもひとつの方法です。

  • 散歩が日課だった方:毎朝近所の神社まで散歩する
  • 家事を頑張っていた方:洗濯機に洗濯物が残っていないか一緒に確認してから食堂に向かう
  • 床の汚れを気にする方:食後、ほうきで床を掃いてもらってから居室に誘導する

このように、その方のこれまでの生活に合わせて個別性のある計画を立てられると、画一的ではない、現実的な計画となるでしょう。

STEP3:実施

立案した計画に沿って実際のケアをおこないます。重要なのは、計画通りにできたかどうかだけでなく、ご利用者様の反応や小さな変化を観察し記録することです。

「リハビリを嫌がった」「食事前に食堂まで約20mの手引き歩行は十分可能」などの客観的な事実は、計画を見直すための根拠となります。

STEP4:評価

設定した目標がどの程度達成できたか、提供したケアは適切だったかを振り返る段階です。

ここでおこなうのがPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)の考え方です。評価して終わりではなく、次の計画につながります。

このサイクルを回し続けることが、根拠に基づく実践であり、ケアの質を継続的に高めることにつながります。

評価する際のポイントは、計画を立てる段階で「何をもって目標達成とするか」という評価の軸を明確にしておくことが大切です。

「食事摂取量」のように数値化できると良いですが、ご利用者様の生活のすべてを数値化できるわけではありません。

そのため、「笑顔で会話する時間が増えた」「食堂に行くのに拒否が減った」といった、ご本人やご家族の変化も重要な評価の軸になります。

介護過程作成時のよくある失敗

ご利用者様のためと思って立てた計画が、実は失敗につながることもあります。ここでは、特に陥りやすい2つの失敗例とその改善策を紹介します。

できないことをやろうとする

ご利用者様の状態に対し、高すぎる目標を立ててしまう失敗です。例えば、歩行が不安定な方に「一人で歩けるようになる」と目標を設定しても、実現は難しいでしょう。

改善策は、現在残っている機能で達成できる少し先の目標(スモールステップ)にすること。「まずは食卓まで杖で歩く」など、現実的な計画が大切です。

スタッフの想いが先行してしまう

「こうなってほしい」というスタッフの想いが強すぎて、ご本人の希望や価値観が置き去りになる失敗もあります。例えば、歩行がふらつきはじめた方に対し、リハビリを頑張ってほしいあまり、ご本人のペースを無視して厳しい訓練メニューを組んでしまうケースです。

良かれと思って立てた計画が、ご本人にとっては大きな負担となってしまう結果になりかねません。ご本人やご家族との対話を重ね、専門職の視点とご本人の想いの両方を尊重した計画作りが求められます。

介護過程の習得はキャリアアップへの第一歩

介護過程は、初任者研修から介護福祉士の国家試験まで、キャリアを通じて問われるものです。参考書や動画で独学も可能ですが、資格取得を目指して体系的に学ぶことで、より深い理解が得られます。

また、介護過程の習得は「なぜこのケアが必要か」という根拠を示せるようになり、専門職としての大きな自信につながります。いまよりも「個別ケアを実践したい」「よりフィードバックしてもらえる施設で働きたい」と思うようになったら、転職によって新たなキャリアを築くことも考えてみるのもよいでしょう。

まとめ

本記事では、介護過程について、ケアプランとの違いや具体的な4つの作成ステップについて解説しました。介護過程は、ご利用者様一人ひとりに寄り添った質の高いケアを実現するための思考プロセスです。このプロセスを理解し実践することで、日々のケアに自信がつき、介護の仕事がより一層面白くなるはずです。

介護過程への理解が深まると「もっと個別ケアを重視する職場で働きたい」「しっかり学べる環境でステップアップしたい」と感じることもあるでしょう。その際は転職支援サイトに登録するのがおすすめです。

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この記事を書いたのは・・・

さとひろ/Webライター

保有資格:ケアマネジャー/社会福祉士/介護福祉士/公認心理師
介護業界で22年の経験をもつ、特別養護老人ホームの現役ケアマネジャー兼生活相談員。介護職員・ケアマネジャー・生活相談員としての経験をもとにわかりやすい記事を執筆します。