スピーチロックとは?具体例と言い換え表現から学ぶ優しいケア

介護の現場で「ちょっと待ってください」「動かないで」と口にしていませんか。
こうした制止の言葉はスピーチロックと呼ばれ、相手の行動を制限する「言葉の拘束」といわれています。

配慮のつもりでかけた言葉がご利用者様の心と体を縛っているかもしれません。しかし、毎日の業務に追われて余裕をなくし、きつい口調になるときもあるでしょう。

本記事では、スピーチロックの定義や具体例、ご利用者様に与える影響を詳しく解説します。今日から現場で使える優しい言い換え表現も紹介しますので、介護のプロとしてご利用者様との良好な関係を築きたい人は、最後まで読んでみてください。

これってスピーチロック?具体例で確認しよう

ご利用者様を危険から守るために、言ったことがスピーチロックになるケースがあります。
以下は、スピーチロックにあたるNGワードです。普段の発言と照らし合わせてみましょう。

【スピーチロックの代表的なNGワード一覧】

場面NGワード
食事・ 座ってて
・ 早く食べて
・ こぼしたらダメでしょ
入浴・ じっとしてて
・ 急いで着替えて
・ まだ湯船から出ちゃだめ
移動・ 立たないで
・ 勝手に歩かないで
ナースコール・ ちょっと待って
・ さっきも言いましたよ
・ 忙しいので待っててください

スピーチロックされ続けると、ご利用者様は「何を言っても無駄だ」と無力感を抱き、自らの意思で行動する意欲が下がっていきます。動く機会が減るとADLが低下し、介助量が増えて介護職員の負担が大きくなるでしょう。

職員の業務はさらに忙しくなり、ケアの質が落ちるおそれもあります。コミュニケーション不足や不適切な対応・乱暴なケアが続くと、ご利用者様と介護職員の信頼関係が崩れるかもしれません。

【筆者の体験談】
筆者は病院やデイサービス、老健で働いていました。それぞれ働き方は異なりますが、トイレ介助や入浴介助などが集中すると、どうしても「ちょっと待って!」が頻発します。

筆者も、時間が足りなかったり、危険性の高い行動に出るご利用者様に対して、折に触れ「動くのは待ってください」と伝える場面がありました。のちに職場の研修で「自分の言葉が拘束になっていたんだ」とショックを受けたのを覚えています。

当時はまだ経験が浅く、何が悪い声かけなのかをわかっていませんでした。ただただ「危険を回避しなければ」という一心だった気がします。

それからは、より一層ご利用者様の自尊心を大切に考え、その人の希望や困りごとに目を向けた声かけを心がけるようになりました。接遇に関して褒められることも増え、プロとしての自覚が芽生えた貴重な経験だったと思っています。

【具体例】今日から使えるスピーチロックの言い換え表現

「スピーチロックが良くないのはわかるけど、じゃあどう言えばいいの?」と感じる人も多いでしょう。ここでは、介護の場面でよくあるやり取りでの言い換え表現を紹介します。

1.食事の場面
2.排泄・移動・入浴の場面
3.ナースコール対応・介護拒否の場面


順番に見ていきましょう。

1.食事の場面

NG例OK例
早く食べてご自分のペースで、ゆっくり召し上がってくださいね
お口開けて!(おかずを指して)これ、とっても美味しそうですよ
こぼさないで今日はこのエプロンを使いましょう

食事は、毎日の楽しみの一つであるべきです。指示する言い方では、ご利用者様が萎縮して食事が苦痛な時間に変わってしまいます。食事をより楽しめるよう提案する言葉に言い換えてみましょう。

心のゆとりは、嚥下機能の安定にもつながります。食事の時間を安全で穏やかなものにするために、ご利用者様の自尊心を傷つけない言葉選びが大切です。

2.排泄・移動・入浴の場面

排泄や入浴は、羞恥心や不安が伴う場面です。また、浴室やトイレへの移動でも、安全確保のためについスピーチロックをかける介護職員も少なくありません。
安心感を与える声のトーンを意識し、理由を説明したり共感を示したりしましょう。

移動

NG例OK例
立たないで!危ないので、私が戻るまで座ってお待ちいただけますか?
勝手に歩かないで〇〇へ行きたいのですね。一緒に移動しましょう
そこで座っててここに座ってお待ちいただければ、すぐに戻りますね

移動の場面では、転倒リスクを考えてついスピーチロックとなる言葉が出てしまいます。

ご利用者様の行動を否定せず、動かずにいてほしい理由を伝えて協力を依頼しましょう。ご利用者様の自尊心を傷つけない声かけを意識してみてください。

入浴

NG例OK例
(浴室内で)そこを動かないで足元が滑りやすいので、手すりをしっかりつかんでくださいね
(洗身時に)手を出さないで洗いやすいように、腕の力を抜いて楽にしてくださいね
まだ湯船から上がらないで肩まで浸かって、もう少し温まりましょうか

入浴は視界が遮られたり足元が滑りやすかったりと、危険を伴う場面です。転倒による事故を防ぐため、つい声かけが鋭くなるときもあるでしょう。

「転ばないように一緒に動きましょう」など、安全面の理由をわかりやすく伝えてみてください。相手の自由を奪わず、安心できる環境を一緒につくる意識が大切です。

排泄

NG例OK例
じっとしてて汚れをきれいに拭き取りますね。少しの間だけ、そのままの姿勢でいてもらえますか?
まだ立たないであと少しだけ座っていてくださいね
(おむつを)触らないで気持ち悪かったですね。すぐに替えてさっぱりしましょう

排泄はプライバシーに関わるデリケートな場面です。年齢を重ねたご利用者様は、介護職員に対して「申し訳ない」「自分で何とかしたい」という気持ちをもっています。

不快な状態に共感を示し「きれいに拭きますね」「おむつを替えてさっぱりしましょう」など、介助の目的やメリットを伝える言葉に言い換えてみましょう。

羞恥心に配慮し、安心感を提供するよう意識すれば、自尊心を守るケアにつながります。

3.ナースコール対応・介護拒否の場面

NG例OK例
ちょっと待って!この作業が終わったらすぐに伺いますね
そんなことしちゃダメお困りですか?一緒にやりましょうか
部屋に戻ってあちらでゆっくり休みませんか?

頻繁なナースコールや介護拒否の場面では、ご利用者様の訴えの背景を探りましょう。言葉にしづらい、不安や困りごとが隠れているケースが多いからです。

「自分の言い分を否定された」と感じると、ご利用者様は不信感や怒りから不穏状態になり、介護拒否が起こりやすくなります。

要望を100%叶えられなくても、いったんご利用者様の声を受け止めてみましょう。「この人は自分の話を聞いてくれる」と感じられれば、不穏は少しずつ和らぎます。

スピーチロックの定義と介護における3つのロック

スピーチロックは、介護現場で禁止されている「身体拘束」のひとつとして数えられます。

・フィジカルロック
・ドラッグロック
・スピーチロック

フィジカルロック

フィジカルロックは「身体拘束」としてイメージしやすいロックです。
車椅子やベッドにベルトで固定したり、ベッドの四方を柵で囲んだりして、物理的に行動を制限します。
生命の危険がある、身体拘束以外に対応できる方法がないなど、やむを得ない場合を除いて原則禁止です。

ドラッグロック

向精神薬を過剰に投与するなど、薬によってご利用者様を鎮静状態にするロックです。治療目的ではなく、介護する側の負担軽減を優先して眠らせたり、動きを鈍くさせたりする行為を指します。

スピーチロック

動きを封じる言葉でご利用者様の自由を奪うロックです。言葉の力で相手を縛るという意味で、フィジカルロックやドラッグロックと並び拘束とみなされます。目に見える道具や薬は使いませんが、それだけに無意識にやってしまいがちなロックともいえます。

スピーチロックがご利用者様と介護職員に与える悪影響

スピーチロックは、ご利用者様の心にダメージを与えるだけでなく、介護職員にも影響があります。

スピーチロックによって行動を制限されると、ご利用者様の不安や怒り、孤独感が強まります。すると、認知症の周辺症状(BPSD)が出やすくなるのです。徘徊や不穏状態、暴言暴力などのBPSDによって介助量が増え、現場がさらに忙しくなるループに陥ります。

介護の現場で起こる負のループ】
「ちょっと待って」と声をかける(スピーチロック)
          ↓
ご利用者様の不安が高まり、BPSD(不穏や拒否)が強まる
          ↓
対応に時間がかかり、現場がより多忙になる
          ↓
介護職員の余裕がなくなり、また強い言葉で制止してしまう

スピーチロックが常態化すると、ご利用者様は本音や困りごとが言えず、適切なケアが受けられなくなる可能性もあります。

「今の職場ではどうしても余裕がもてず、つい言葉がきつくなってしまう」と悩んでいる人は、他の職場にも目を向けてみてください。ご利用者様と温かな関係を築き、優しい言葉が飛びかう職場がきっと見つかります。

スピーチロックはチームで解消!職場のピリピリ感をなくす対策とは

スピーチロックは、職場全体で解消に取り組む姿勢が大切です。一人ひとりが気をつけることも大事ですが、個人の努力だけで改善していくのは簡単ではありません。。

チームで日々の関わりを振り返り、それぞれの気づきや課題を共有し、支え合ってより良い関わり方を見つける仕組みを作っていきましょう。

【スピーチロックを解消するための対策】
 ・声かけを「見える化」するチェックシートを作る
 ・お互いにフォローし合える体制づくりを進める
 ・研修で基礎から学ぶ


順番に解説していきます。

声かけを「見える化」するチェックシートを作る

まず、自分の声かけを見える化しましょう。おすすめは、チェックシートの作成です。
自分が1日に何回「ちょっと待って」と言ったかセルフチェックすると、無意識のスピーチロックが見えてきます。

セルフチェックは、チームで共有すると良いでしょう。
「昨日よりもスピーチロックを減らそう」と目標を立てると、お互いに意識して声かけできます。

好ましい言い換え表現をカンファレンスで出し合ったり「こんなときはどう言えばいい?」と疑問を投げかけてみるのも効果的です。

お互いにフォローし合える体制づくりを進める

忙しくて余裕がないときに、SOSを出せる関係性を築くのも大切です。
介護の仕事は、チームで連携しなければスムーズに回りません。ご利用者様の立場に立つと同時に、他の職員に対する心配りも必要です。

不適切な声かけをしている職員がいたら「私が代わりましょうか」と声をかけてみてください。その場で相手のケアについて指摘せず、優しく対応するのがコツです。
管理職であれば、日々現場の状況を把握し、職員が心にゆとりをもてるように配慮する必要があります。

スピーチロックを解消するには、働きやすい職場環境を整えていくことが大切です。

研修で基礎から学ぶ

研修を受けて「なぜその言葉がスピーチロックにあたるのか」を基礎から学ぶのも効果的です。理由が分からないままでは、何度も同じ声かけをしてご利用者様を傷付けてしまうかもしれません。

研修では「自分ならどう言い換えるか」を話し合うワークショップがおすすめです。他の人の意見から、思いつかなかった解決策が見つかる可能性があります。
研修で得た気づきや学びを、明日からのケアに活かしていきましょう。

まとめ

本記事では、スピーチロックの具体例や影響、そして具体的な言い換え表現を解説しました。

介護業務は少ない人数で多くのご利用者様を守る場面が多く、どうしてもスピーチロックにつながりやすい側面があります。
自分がスピーチロックしていることに気付くと、罪悪感や自己嫌悪感を抱くかもしれません。しかし同時に、プロとして成長するチャンスを得たともいえます。

完璧を目指す必要はありません。いつもの声かけを、提案や依頼の形に少し変えるだけで、ご利用者様の不安は和らぎ、職場の空気も穏やかになります。

スピーチロックを防ぐためには、個人の力だけでは限界があります。介護職員をはじめとする職員が気づきを共有し、話し合いでより良い関わりを探し続ける姿勢が大切です。一人で抱え込まず、チームで気づきを共有しながら、より良い関わりを積み重ねていきましょう。

もし、職場でのスピーチロックがなくならない場合は、心が疲弊する前に転職も視野に入れてみてください。

介護転職のミカタでは、介護業界に特化したコンサルタントがあなたの悩みや希望に応じてぴったりの職場を提案してくれます。もちろんご相談のみの利用も可能です。
サービスはすべて無料なので、今よりもさらに質の高いケアを提供したい人はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター

保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。