介護職員の「イラッ」を解消! アンガーマネジメントの方法とは

「また怒ってしまった……」「あんな言い方しなきゃよかった」
業務に追われてゆとりをなくし、ついきつい言葉で相手に怒ってしまった経験はありませんか。

介護の仕事は、ご利用者様の安全を守るために心が張りつめるときも多いでしょう。
介助中の拒絶や鳴り止まないナースコール、同僚や他職種との意見の相違などで、怒りを感じる瞬間があるかもしれません。

真摯にご利用者様や職場の仲間と向き合おうとすると、どうしても「こうしてほしいのに」という気持ちが芽生えます。純粋に「ご利用者様に良いケアを提供したい」という思いからくるものです。

本記事では、筆者が介護福祉士として働いた経験をもとに、職場ですぐに使えるアンガーマネジメントのテクニック10選を解説します。怒りに振り回される自分を卒業し、自分と周りの人の心を守るために学んでいきましょう。

介護職員が知るべきアンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントは、1970年代にアメリカで開発された「怒りを否定せず、うまく付き合うための心理トレーニング」です。怒りを客観的にとらえ、自分や他人を傷つけない方法で感情を表現するのを目的としています。

介護職は、ご利用者様や他職種と関わるなかで自分の感情をコントロールする「感情労働」の側面が強い仕事です。人手不足による過密なスケジュールや、思い通りにいかない認知症ケアなど、心に余裕をなくす場面は少なくありません。

アンガーマネジメントは、怒りを表に出した自分を責めたり、バーンアウトしたりするのを防ぐ「心の護身術」といえるでしょう。

介護職によくあるバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぎたい人は、「介護職の燃え尽き症候群とは?症状や対処法、経験談も紹介」も読んでみてください。

介護職が怒りを感じやすい理由

介護の現場でイラッとしてしまうのは、未熟だからではありません。自分の力でどうにもできない事態に陥ると、誰でも怒りをおぼえるものです。

ここでは、介護職員が怒りを感じやすい理由について紹介します。

【介護職員が怒りを感じる3つの理由】
 ・善意を否定されたと感じるから
 ・自分でコントロールできない状況にいらだつから
 ・短い時間に多くの業務が重なり焦りが生まれるから

1つずつ見ていきましょう。

善意を否定されたと感じるから

「ご利用者様を丁寧にケアしよう」と思っていても、認知症のご利用者様やたまたま機嫌の悪いご利用者様から拒否される場合があります。

【入浴で怒りを感じるケース】
介護職員:「◯◯さん、お風呂の時間ですよ。さっぱりしましょう」
ご利用者様:「うるさい!入らんと言ってるだろう!あっちへ行け!」
介護職員:(一生懸命準備したのに、なんでそんな言い方されなきゃいけないの?)

仕事に誠実な人ほど「自分の善意が否定された」と感じやすい傾向にあります。ご利用者様を大切にしたい感情が怒りに変わるケースです。

自分でコントロールできない状況にいらだつから

自分の努力やスキルだけではどうにもならない状況も、怒りを感じやすい場面です。

【頻繁なナースコールで怒りを感じるケース】
ご利用者様:「おーい!誰かいないのか!早く来い!」
介護職員:(さっきも行ったばかりなのに!仕事のペースが乱れてしまう)

介護の現場には、認知面の低下や脳疾患などが原因で直前の出来事を忘れる人もいます。症状を理解していても、業務が中断されると「自分の仕事なのに自分でコントロールできない」と強い焦りや苛立ちを感じるでしょう。

短い時間に多くの業務が重なり焦りが生まれるから

食事の時間帯、特に夕食後は、口腔ケアや更衣介助がひかえています。少ない人員で分刻みのスケジュールをこなす必要があり、心の余裕がなくなりがちです。

【食事介助で怒りを感じるケース】
介護職員:「◯◯さん、お薬飲んでくださいね。歯磨きやパジャマへのお着替えもあるので急ぎましょう」
ご利用者様:(食べながら)「はいはい、ちょっと待ってよ」
介護職:(今から全員の口腔ケアをしないといけないのに……なんで今日に限ってこんなにゆっくりなの?)

「食事を楽しんでもらいたい」という気持ちがあっても、少ない人員で多くの業務を回す時間帯はつい言葉がきつくなる場合があります。

筆者の体験談

筆者の周りには「どうしてもご利用者様に怒ってしまう……」「他職種とぶつかってしまう」と悩んでいる介護職員や看護師がいました。

彼女たちが自分の状態を客観的に見て「これではいけない」と、一念発起して取り組んだのがアンガーマネジメントです。本や動画、研修で学び、私にも共有してくれました。

私はめったに怒らないタイプですが、まれに感情のコントロールがきかず、ご利用者様に対して笑顔になれない日もありました。

そんなときは、同僚が教えてくれたアンガーマネジメントの簡単なテクニックを使ったり、ストレス発散のために趣味に没頭したりと工夫していたのを覚えています。

次からは、私が試したアンガーマネジメントの方法について詳しく解説します。

今日からできる!介護現場におけるアンガーマネジメント

イラッとすると、とっさに言葉や態度に怒りが出てしまうものです。しかし、ちょっとしたテクニックで沸き起こった怒りの感情を和らげられます。

ここでは、現場ですぐに実践できるテクニックを紹介します。

その場で怒りを落ち着かせる方法

まず、怒りそうになった自分を落ち着かせる方法から見ていきましょう。どれも簡単な方法ですが、カッとなる心を穏やかにする効果があります。

心の中で6秒カウントする

イラッとしたら、まずは心の中で1から6までゆっくり数えてみてください。きつい言葉や、動きを抑えるのに効果的です。

怒りを感じてから理性がはたらくまで、約6秒かかるといわれています。6つ数え終わるころには感情のピークが過ぎ、冷静な判断力が戻ってきます

とっさの怒りを鎮めるためにも、6秒数える習慣をつけましょう。

腹式呼吸をする

腹式呼吸もアンガーマネジメントの方法のひとつです。

怒りを感じるときは、交感神経が優位になり呼吸が浅く速い状態になります。もし怒りそうになったら、息を鼻から深く吸い、口から細く長く吐き出してみましょう。リラックスを司る副交感神経を優位にし、興奮を鎮めてくれます。

肩の力を抜いて、呼吸に意識を向けるだけでも緊張が和らぐのでスキマ時間に試してみてください。

手の力を抜く(筋弛緩)

怒りが沸いてきたら、その感情をつぶすように拳を握り、パッと開いて脱力するのもおすすめです。

心と体はつながっています。怒りで硬直した筋肉を意図的に緩める筋弛緩法を用いると、体はリラックスしていると感じるため、心の緊張をほぐすのに効果的です。

体が緩めば、心も緩みます。怒りで体に力が入っていると感じたら、数秒でいいので手を握って開く動作を繰り返してみましょう。

水を飲む

水を飲むのも、アンガーマネジメントのひとつです。水分補給は脳の働きを正常に保ち、イライラを軽減する効果もあります。

「もう限界!」と思ったら、コップ一杯の水を飲みましょう。冷たい水は五感を刺激し、自分の心を支配していた怒りを和らげてくれます。
一息つく時間を作ると視野が広がり、業務の優先度や分担について見直すゆとりができます。水を飲むわずか1分が、怒りによるトラブルを防いでくれるでしょう。

その場を離れる

怒りそうになったら、いったんその場を離れましょう。ご利用者様や同僚など、怒りの対象が目の前にいると、冷静になるのが難しいからです。

「ひどいことを言ってしまいそう」と感じたら、別室や建物の外に移動しましょう。怒りを鎮めるためには、場所を変えて新鮮な空気を吸うなど落ち着く時間が必要です。

別の場所に行く際は、ご利用者様の安全確保を忘れてはなりません。周囲のスタッフに「少し冷静になりたいので、5分だけ代わってもらえますか?」などのヘルプを出しましょう。

考え方を切り替える方法

アンガーマネジメントには、自分の考え方を上手に切り替えるテクニックもあります。短い時間でいいので、ひとりになったときにこれから紹介する方法を試してみてください。

「~すべき」を見直す

怒りを感じやすいなと思ったら、いったん自分の中にある「~すべき」を見直してみましょう。

仕事に対して誠実に向き合っていると「介護職員ならこうあるべき」「ケアとはこうあるべき」など理想が生まれてきます。自分の中で軸がある考え方は、プロとして大切な姿勢といえるでしょう。
ただ、理想を持っているからこそ、現実とのズレが生まれたときに「思うようにいかない」「否定された」と感じやすくなり、怒りにつながる可能性があります。
例えば、排泄のあとに手を洗うのは当たり前とされていることです。
しかし、認知症の症状があるご利用者様は「無理やり手を掴まれて濡らされた」と不快に感じる場合もあります。
このように同じ出来事であっても、立場や状況によって受け取り方は大きく変わります。

だからこそ、自分が思う「正しさ」をそのまま当てはめず、「人それぞれ感じ方が違う」と視点を広げるのを意識してみてください。
その人なりの価値観や考え方があると思えるようになると、心に余裕が生まれます。「まあいいか」と受け流せる場面が増え、怒りを感じる瞬間も少しずつ減っていくでしょう。

ポジティブな言葉を唱える

ポジティブな言葉を唱えるのも、アンガーマネジメントのひとつです。前向きな言葉を口にすると、怒っている自分を一歩引いて捉えられます。

【おすすめのポジティブなフレーズ】
 ・大丈夫
 ・なんとかなる
 ・私は今、とても頑張ってる
 ・この怒りを乗り越えたらきっと昨日よりも成長できる

意識して自分を励ます言葉を唱えると、自分を客観的に見つめる心の余裕が生まれ、怒りに飲み込まれるのを防いでくれます。

変えられることと変えられないことを分ける

怒りの原因を「自分の努力で解決できること」「自分の力ではどうにもできないこと」の2つに分けてみましょう。

ご利用者様の性格や認知症の症状、職場の方針や人員配置は個人の力で変えるのは難しいものです。変えられない問題に意識を向け続けると、気づかないうちにエネルギーを消耗してしまいます。

変えられないことは一度受け止めて、今自分ができることに集中してみましょう。注力すべきポイントがはっきりして、無駄なイライラが少しずつ減っていきます。

怒りを客観視する方法

怒りに飲み込まれるのは、主観に偏っている状態だからです。一歩引いて自分を客観的に見られるようになれば、感情をコントロールしやすくなります。

怒りに点数をつける

もし怒りそうになったら、感情を数値化して自分を客観的に評価してみましょう。「0」は穏やかな状態、「10」が怒りのマックス状態として、今の怒りが何点かを考えてみてください。

「ナースコールが多かったけど、今は3点くらい」「さっきお風呂でケアを拒否されたのは5点だな」など、点数をつけてみてください。

「前回の怒りに比べれば、今回は大したことないな」と比較できれば、早い段階で冷静さを取り戻せます。もし「今のほうが腹立たしい」と感じたら、いったんその場を離れて気分転換をするのもおすすめです。

表情をコントロールする

表情を意識的に変えてみるのも、怒りをしずめるのに効果的です。
「笑うから楽しくなる」という脳の仕組みを利用しましょう。怒りを感じたときこそ、あえて口角を少しだけ上げてみてください。

笑顔を作ると、脳は「今はリラックスしている状態だ」と判断し、ストレス物質を抑えて幸福感をもたらすホルモンを分泌します。介護職員が穏やかな表情で接すれば、ご利用者様の不安や不穏を和らげ、ケアの拒絶を減らす効果も感じられるでしょう。

アンガーマネジメントを実践する3つのメリット

アンガーマネジメントのメリットは以下の3つです。

【アンガーマネジメントを実践するメリット】
 1.自己嫌悪から解放されて心が軽くなる
 2.介助がスムーズになる
 3.職場の仲間とより助け合えるようになる

ひとつずつ見ていきましょう。

1.自己嫌悪から解放されて心が軽くなる

アンガーマネジメントの最大のメリットは、自己嫌悪からの解放です。
怒りをうまく扱う方法を知っていれば、反射的に声を荒らげず、落ち着いて対処できます。プロの介護職員として、感情をコントロールできる自分に自信がもてるでしょう。

また「職場で怒ってしまった」と悔やむ気持ちを家に持ち込まず、プライベートの時間を穏やかに過ごせるようになります。

2.介助がスムーズになる

介助がスムーズになるのもメリットです。
介護職員がアンガーマネジメントで冷静さを保てれば、ご利用者様の不安が和らぎ、介護職員とのコミュニケーションがとりやすくなります。

コミュニケーションが不足すると、ご利用者様は介護職員に対して心を開けず、信頼関係が築けません。しかし、介護職員が落ち着きある態度で接すればご利用者様の緊張がほぐれ、介護拒否は少しずつ減っていきます。

お互いに笑顔でいられる時間が増えれば、ご利用者様との関係はさらに良くなります。介助の負担が軽くなるのは大きなメリットといえるでしょう。

3.職場の仲間とより助け合えるようになる

アンガーマネジメントは、職場の同僚や上司との関係性を改善するのにも効果的です。
ピリピリした空気の職場では、スムーズな報告・連絡・相談ができません。結果、ご利用者様が体調を崩したときの対応が遅れたり、転倒・転落など事故のリスクが高まったりします。

アンガーマネジメントを活用すれば、感情に任せた指導や叱責が減り、困ったときに「助けて」と言い合える関係性へと変わります。風通しの良い職場として、職員の定着率も伸びていくでしょう。

介護職のアンガーマネジメントに関するよくある質問

ここでは、介護職のアンガーマネジメントについての質問にお答えします。

怒りが抑えきれない時はどうすればいいですか

その場を離れて気持ちを切り換えましょう。
離れる際は、ご利用者様の安全を守るために周りの仲間に応援を頼みましょう。

冷たい水で顔を洗ったり外の空気を吸ったりして、五感に刺激を与えるとリセットしやすいです。落ち着いたら、信頼できる上司や同僚に相談してみてください。決してひとりで悩みを抱え込まないよう、近くの人に頼るのをおすすめします。

感情的になっている同僚や上司に対してどのように接すれば良いですか

相手の怒りに飲み込まれないよう、冷静に状況を観察しましょう。相手の言い分に対して、否定も肯定もしないように意識してみてください。
「◯◯だと感じているんですね」と受容する姿勢を見せると、相手の怒りやいらだちが少しずつ和らいでいきます。

アンガーマネジメントを専門的に学べる研修や講座はありますか

アンガーマネジメントを学びたい場合は、専門の機関を活用するのがおすすめです。

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会では、入門講座から指導者養成講座まで幅広く開催されています。
最近では、自治体や介護関連の団体が主催する研修でアンガーマネジメントが扱われることも増えてきました。

外部研修のほかに、関連書籍を1冊読んでみる、施設内での事例検討会でイライラの対処法を話し合うのも立派な学習です。自分に合った方法で少しずつ知識を身につけ、アンガーマネジメントの実践につなげましょう。

まとめ

介護の仕事は感情労働であり、日々の業務は時間との戦いです。余裕がなくなり、怒りを感じる場面はいくつもあるでしょう。しかし、自分を責める必要はありません。怒りを感じるのは、それだけ仕事に向き合っているからです。

アンガーマネジメントは、長く健やかに働き続けるために心を守る方法のひとつです。本記事で紹介した方法の中から、無理のない範囲で取り入れてみてください。

それでもつらさが続く場合は、環境が影響している可能性もあります。
「自分の問題ではなく、職場の問題だった」と気づくかもしれません。
無理をして心身のバランスを崩さないためにも、新しい環境を検討してみてください。

介護転職のミカタ」では、介護業界に精通したコンサルタントがあなたが輝ける職場探しをサポートしています。職員同士が穏やかなコミュニケーションを図り、ご利用者様に細やかなケアを提供する職場を探してみませんか。

サービスはすべて無料です。情報収集からでもOKなので、お気軽にご連絡ください。

この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター

保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。