喀痰吸引とは?介護職員がおこなえる範囲や必要な研修・資格を解説

喀痰吸引とは、自力で痰を排出できない方の気道から、吸引器を使って痰や唾液を取り除くケアです。かつては医師や看護師などの医療職にしか認められていませんでしたが、法改正によって研修(喀痰吸引等研修)を修了し登録を受けた介護職員も実施できるようになりました。

介護職員として働き、職場から研修を勧められたものの、どのようなものか想像がつかず不安を感じている方もいるのではないでしょうか。本記事では、喀痰吸引の基礎知識から介護職員がおこなえる範囲、資格の取得方法やメリットまでをくわしく解説します。

介護職員がおこなう喀痰吸引の範囲と注意点

喀痰吸引が必要なのは、痰が出せない状態が続くと生活上のリスクがあるからです。痰をうまく排出できないまま放置すると、以下のようにご利用者様の負担は大きくなります。

  • たまった痰が気道をふさぎ、窒息や呼吸困難につながる
  • 痰が肺に入ると誤嚥性肺炎を引き起こす
  • 絡んだ痰が息苦しく、強い不快感をともなう

特に、ALSや重度の障害、加齢による機能低下、気管切開などの理由で、自力では痰を出しにくい方には喀痰吸引が欠かせません。ただし、介護職員にこれらすべてへの処置が認められているわけではありません。対応できる範囲は研修の種別によって異なり、実施には複数の条件を満たす必要があります。

喀痰吸引をおこなう部位と介護職員が対応できる範囲

喀痰吸引は、チューブを挿入する部位によって主に3つに分かれます。介護職員がおこなえる範囲は、医療職とくらべて限られている点に注意が必要です。

口腔内吸引口のなかにたまった痰や唾液を吸い出す介護職員が吸引できるのは咽頭の手前まで
鼻腔内吸引鼻の穴からチューブを挿入し、喉の奥にたまった痰を吸い出す咽頭の手前までが対応できる範囲
気管カニューレ内部吸引気管切開している方のカニューレ内部にチューブを入れて吸引介護職員が触れてよいのはカニューレの内側までで、その先の気管内には及ばない

気道の入り口より深い部分の吸引は、医師や看護師の役割です。

喀痰吸引を実施するために必要な3つの条件

研修を修了しても、それだけで喀痰吸引をおこなえるわけではありません。安全にケアを進めるため、次の条件を満たす必要があります。

  1. 医師の指示:ご利用者様ごとに、医師からの具体的な指示が必要
  2. 看護師との連携体制:看護師による指導や、状態急変時に相談できる体制を整えておく必要がある
  3. 事業所の登録:勤務先が「登録特定行為事業者」として都道府県へ登録していることが前提

喀痰吸引は、介護職員本人の要件と職場の体制がそろってはじめて実施できるケアといえます。

吸引が必要なタイミングのサイン

喀痰吸引は、決められた時間に機械的におこなうものではなく、ご利用者様の状態を見ながら必要なタイミングを判断します。次のようなサインが見られたときは、吸引を検討します。

  • 喉や胸から「ゴロゴロ」「ヒューヒュー」といった音が聞こえる
  • 苦しそうな表情をしている、または本人が吸引を求めている
  • パルスオキシメーターで測ったSpO2(血中酸素飽和度)が普段より低い

ご利用者様の安楽を守るためには、こうしたサインを見逃さず、適切なタイミングで対応することが大切です。また、吸引すべきか悩む場合は、自己判断せずに、すぐに医師や看護師に相談しましょう。

喀痰吸引の資格を取得する4つのメリット

喀痰吸引の資格取得は、ご利用者様への対応力が高まるだけでなく、自身のキャリアや職場での評価にもつながります。ここでは、資格を取得することで得られる4つのメリットを紹介します。

ご利用者様の急変に対応できる安心感が生まれる

喀痰吸引等研修を修了し、必要な要件を満たしていれば、痰が絡んで苦しそうなご利用者様にその場で対応できます。特に看護師が手薄になりやすい夜勤帯では、吸引のできる介護職員がいるかどうかで現場の安心感が変わります。

「自分が対応できる」という自信は、ケアにあたる心の余裕にもつながり、チームのなかで頼られる存在になれるでしょう。

介護職としての専門性を高められる

喀痰吸引の資格は専門性を高める機会にもなります。研修を通じて、吸引の手技だけでなく、関係する医療的ケアの知識が身につくためです。

看護師とのコミュニケーションの機会が増えて連携しやすくなり、ご利用者様を観察する視点も養われます。結果として、状態変化に気づきやすくなり、ケアの質の向上につながります。

事業所の加算取得に貢献できる

喀痰吸引などの医療的ケアに対応できる職員がいることは、事業所にとっても利点があります。たとえば夜勤職員配置加算の上位区分のように、職員体制に関わる加算の算定につながる場合があるためです。施設の運営を支える人材として、評価されやすくなるでしょう。

転職時のアピールポイントになる

喀痰吸引の資格は、転職時の強みになります。医療的ケアを必要とするご利用者様を受け入れる施設は増えており、対応できる介護職員は即戦力として歓迎されるためです。

応募できる求人の幅が広がるうえ、複数の候補者がいる場合に、喀痰吸引等研修を修了しているスタッフが優先されることもあります。そのため、研修を修了していることは転職活動を有利に進める後押しとなります。

喀痰吸引等研修|1号・2号・3号の違いと介護福祉士との関係

介護職員が喀痰吸引をおこなうには「喀痰吸引等研修」を修了する必要があります。研修は、対応するご利用者様や実施する行為の範囲によって3つの号数に分かれています。ここでは、それぞれの違いと介護福祉士・実務者研修との関係について解説します。

第1号・第2号・第3号研修の違い

喀痰吸引等研修には、次の3種類があります。

区分対象者特徴
第1号研修不特定多数のご利用者様喀痰吸引と経管栄養のすべての特定行為が対象
第2号研修不特定多数のご利用者様施設で必要となる一部の特定行為が対象(口腔内・鼻腔内の喀痰吸引など)
第3号研修特定のご利用者様特定のご利用者様に対する特定の行為が対象在宅で重度障害のある方をケアする場面などで用いられる

施設で幅広いご利用者様に対応したい場合は第1号・第2号、在宅を中心に特定の方を継続的に支える場合は第3号研修が必要になります。

介護福祉士・実務者研修と喀痰吸引の関係

2015年度以降に介護福祉士の養成課程を修了した方は、カリキュラムに「医療的ケア」が組み込まれているため、喀痰吸引の基本的な知識・技術を学んでいます。介護福祉士実務者研修にも、同じく医療的ケアの科目が含まれています。

一方で、それ以前のカリキュラムで介護福祉士を取得した方は、養成課程に喀痰吸引が含まれていません。そのため、実際に喀痰吸引をおこなうには、別途、喀痰吸引等研修の受講や実地研修の修了が求められます。「介護福祉士を持っているのに研修を勧められた」という背景には、こうしたカリキュラムの変更があります。

喀痰吸引等研修の受講方法と費用

ここでは、喀痰吸引等研修の主な受講方法と、費用や期間の目安を解説します。

研修はスクールまたは職場でおこなえる

喀痰吸引等研修を受ける方法は、大きく2つあります。ひとつは都道府県に登録された登録研修機関(スクール)で受講する方法です。自分のペースで申し込めるため、職場に研修制度がない場合に向いています。

もうひとつは職場内で受講する方法です。勤務先が登録研修機関として研修を実施している場合は、業務の一環として受けられたり、費用を職場が負担してくれたりするケースもあります。まずは勤務先に研修制度があるか確認してみるとよいでしょう。

研修の期間と費用の目安

第1号・第2号研修は、講義と演習からなる基本研修に加え、実際の現場でおこなう実地研修で構成されます。修了までには、数か月程度かかるのが一般的です。

費用は研修機関によって幅がありますが、数万円から十数万円程度が目安です。職場が費用を負担する制度を設けている場合もあるため、自己負担を抑えたい方は勤務先の支援制度もあわせて確認しておくと安心です。

喀痰吸引等研修を活かせる職場

喀痰吸引等研修の資格の需要が高いのは、介護保険施設です。なかでも、夜間帯に介護職員のみの体制になる特別養護老人ホームでは、吸引に対応できる職員のニーズが高くなっています。一方、介護老人保健施設や介護医療院のように、夜間も看護師が配置されている場合は、実際に吸引を担う機会は少ないでしょう。

このほか、医療的ケアを必要とする方が利用する障害者施設や、特別支援学校などでも資格を活かせる可能性があります。こうした資格は、介護分野にとどまらず幅広い現場で求められています。

よくある質問

介護職員が喀痰吸引をおこなうのは違法ではないのか

違法ではありません。喀痰吸引等研修を修了し、勤務先が登録特定行為事業者として登録され、医師の指示があるという条件を満たしていれば、法律で認められています。

逆に、これらの条件を満たさないまま実施すると問題となるため、体制の確認が大切です。

家族が喀痰吸引をおこなうことはできるのか

できます。在宅療養の場面では、医師や看護師からの正しい指導・管理を受けていれば、ご家族が喀痰吸引をおこなうことが認められています。在宅でケアを担うご家族には、生活上必要な行為として認められています。

喀痰吸引等研修は働きながらでも受講できるのか

できます。介護職員として働きながら研修を受講する方が多くいます。施設が実習施設として登録している、看護師が指導者の資格を取得しているなどの条件がそろえば、施設内で研修を完結できます。

介護福祉士が喀痰吸引の登録をしないとどうなるのか

喀痰吸引をおこなえません。介護福祉士の資格を持っていても、登録手続きをしなければ、現場で喀痰吸引を実施できないためです。

養成課程で学んだ知識があっても、実地研修の修了や登録といった手続きが別途必要になります。資格と実務をつなぐために、登録まで済ませておくことが求められます。

まとめ

喀痰吸引とは、自力で痰を出せない方の気道から痰や唾液を取り除く、命と安楽を守る大切なケアです。本来は医療行為ですが、喀痰吸引等研修を修了し、職場の登録や医師の指示といった条件がそろえば、介護職員も実施できます。資格の取得は、ご利用者様の急変に対応できる安心感を生み、職場での評価や転職時の強みにもつながります。

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この記事を書いたのは・・・

織田さとる/Webライター

保有資格:ケアマネジャー/社会福祉士/介護福祉士/公認心理師
介護業界で22年の経験をもつ、特別養護老人ホームの現役ケアマネジャー兼生活相談員。介護職員・ケアマネジャー・生活相談員としての経験をもとにわかりやすい記事を執筆します。