介護職の業務として代表的な物の一つである「食事介助」。
自力で食事を食べられない方にとってはなくてはならない介助です。
ただし、間違った方法で食事介助を行ってしまうとむせ込みや感染症だけでなく、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまう危険性があります。安全に食事を介助するためにも、事前準備や正しい手順を把握しておく必要があるでしょう。
そこで今回は、食事介助前の準備や食事介助の手順、むせないための注意点などを解説します。食事介助時に自分でも食べてもらうコツも紹介しますので、食事介助の質を高めたい方はぜひ確認してみてください。
この記事の内容
食事介助とは?
食事介助とは、自力で食事を食べるのが難しい方が安全に食べられるようサポートする行為です。スプーンなどを使用して対象者の口に食べ物を運ぶ、安全に食事ができる環境を整えるなどが当てはまります。
食事を自力で摂りづらい方の場合、水分や栄養が不足してしまう恐れがあります。そのままの状態を放置してしまうと脱水症状や体調不良につながってしまうケースもあるため、食事介助の担う役割は非常に大きいです。
利用者さんが健康に生活するためにも、正しい食事介助を行う必要があります。
食事介助の目的
食事介助の1番の目的は、栄養補給と脱水症状の予防です。経管栄養や点滴などをしていない場合、食べ物や水分は口から摂取しなければなりません。自力で食事を食べるのが難しい方にとって、食事介助は生きていく上で必要不可欠な行為なのです。
また、食べるという行為自体に生きる意味を見出している方も少なくありません。温かい食事を楽しむというのは生活の質に直結する事がらであり、対象者の幸せを実現する重要な役割といえるでしょう。
食事介助の簡単な流れ
食事介助の流れは以下の通りです。
- 食事前の準備
- 配膳
- 献立の説明
- 食事や飲水の介助
- 歯磨きなどの口腔ケア
以降の内容でより詳しく解説しますが、食事を食べるサポートをするだけが食事介助ではありません。食事前に身支度や環境を整えるところから、食事を終えた後のケアまでの一貫した流れを食事介助と言います。
要介護度が高くなればなるほど介助する内容が増えていきますが、食事に関する一連の流れをサポートすることが食事介助であると理解しておくとよいでしょう。
食事介助前に準備した方がよい6つのポイント
ここでは、食事介助前に準備した方がよいポイントを6つ紹介します。
- トイレを済ませる
- 手をきれいにする
- 食事をしやすい環境を整える
- 良い姿勢で座ってもらう
- 口の中をきれいにする
- 唾液を分泌しやすくする体操をする
以下で詳しく説明していきますので、ご確認ください。
トイレを済ませる
食事に集中してもらうためにも、事前にトイレを済ませておくようにしましょう。食事中にトイレに立ってしまうと、食事から注意がそれてしまい食べるのをやめてしまう方もいらっしゃいます。
また、排便が滞っていると腹部膨満感を感じ、食欲不振の症状が現れる場合もあります。食事の摂取量を確保するためにも、トイレを済ませて食事が開始できるように促すとよいでしょう。
手をきれいにする
手についた雑菌を洗浄するために、手は清潔な状態にしてもらうようにしましょう。トイレを済ませた後に手を洗ってもらうと効率よく手をきれいにできます。
手にはドアノブやテーブルを介して、多くの細菌やウイルスが付着しています。それらが食事の時に口から体内に入ってしまうと感染症を引き起こす恐れがあるのです。
歩行状態が悪く洗面台に手を洗いにいけない、介助するスタッフの人数が足りないなどの状況があるなら、アルコール消毒を行うと手を清潔な状態にできるでしょう。
食事をしやすい環境を整える
食事をしやすい環境を整えるのも、食事介助の重要な役割の一つです。食事に集中できるよう、食事に必要のないものは片付けるようにしましょう。
ご利用者様によっては人が多い状況で食事に集中できない方もいるかもしれません。可能であれば静かなスペースを用意し、パーテーションなどで区切るなど対応できるとよいでしょう。
良い姿勢で座ってもらう
食事介助を行う時にはご利用者様の食事姿勢にも気を配ってみてください。背中が丸くなった状態で食事をしている方をよく見かけませんでしょうか。
背中を丸めているとお腹がつぶれ胃が圧迫されてしまい、食欲が低下してしまいます。また、視線が下がってしまうと食事が見えづらくなり、食事を食べ残してしまうこともあるのです。
骨折や脳梗塞などの影響がない場合、机の高さや肘掛けの高さがあっていない可能性があります。ご利用者様の身長や体格に合わせて、使用する物品は調整できるとよいでしょう。
また、体が片側に傾いてしまう方は足が地面から浮いてしまっている場合があります。そのまま食事をしていると誤嚥につながるケースもあるため、利用者さんの足元にも注意を払ってみてください。
口の中をきれいにする
口の中には多くの雑菌が繁殖していて、洗浄せずに飲水や食事をしてしまうと腸内環境にも悪影響を及ぼします。そのため、食事前には口の中をきれいにするようにしましょう。
うがいだけでもいいのですが、舌や唇などを指でマッサージしてあげると唾液の分泌が促進されます。うがいをしていただきつつ、自力でできる場合は積極的に行ってもらうとよいでしょう。
唾液を分泌しやすくする体操をする
嚥下体操や唾液線のマッサージなど、食事前の体操として行うと唾液の分泌が促進されます。飲み込みの際に使用する筋肉の準備体操にもなるため、誤嚥性肺炎の予防としてぜひ取り入れてみてください。
ただし、中にはマッサージをしていて不快感を訴える方もいらっしゃいます。その場合は無理のない範囲で止め、できる体操を行っていただくとよいでしょう。
食事介助の手順を7つに分けて解説
本章では食事介助の手順を7つに分けて解説していきます。
- 必要な方には介護用エプロンをつける
- 食事を配膳し、献立を伝える
- 介護者はご利用者様の斜め前に座る
- 食事前に水分をとってもらう
- 主菜・副菜をバランスよく食べられるよう介助する
- 食べ終わった量を記録する
- 口腔ケアを行う
食事介助の方法をおさらいする意味でも、ぜひ一から確認してみてください。
必要な方には介護用エプロンをつける
病気の後遺症や認知機能の低下により、どうしても食事を食べこぼしてしまう方がいらっしゃいます。ご利用者様の衣服を汚さないためにも、必要な方には介護用エプロンを着用してもらうとよいでしょう。
エプロンをつけさせてもらう時は事前に声をかけ、首回りが苦しくないか確認しながら着用します。エプロンのすそをテーブルの下に入れる、または食事トレイの下に差し込むと上着やズボンが汚れずに済むため、ぜひためしてみてください。
食事を配膳し、献立を伝える
食事を出す際には必ず名前を確認して配膳をします。提供する食事形態の間違いを防ぐためにも重要な手順です。
もし、食事量があまり取れていない方がいれば、配膳する際に献立を伝えてみてください。食事への興味を促すだけでなく、好きなものが献立に含まれていれば食事の満足度も上がりやすくなります。
ただ配膳するだけでなく、その時のコミュニケーションも丁寧にしてみると、より質の高い食事介助ができるようになるでしょう。
介護者はご利用者様の斜め前に座る
食事介助をする際、ご利用者様が正面を向いたまま食べられるよう斜め前に座ります。
ご利用者様の利き手側に座って介助を行うのが一般的な方法です。ただし、脳の病気などで麻痺がある場合は麻痺がない方に座り、飲み込みがしやすいよう食事介助ができるとよいでしょう。
食事前に水分をとってもらう
食事前に水分をとると口の中の粘膜や食道がうるおい、食べ物の飲み込みがしやすくなります。暖かい飲み物または冷えた飲み物のように温度が極端な方が嚥下を促しやすくなるため、ご利用者様の好みに応じて提供できるとよいでしょう。
嚥下機能が低下している方はとろみ剤を使用し、とろみをつけた飲み物を用意するとより安全に水分を提供できます。
主菜・副菜をバランスよく食べられるよう介助する
主菜と副菜にはそれぞれ必要な栄養がバランスよく含まれています。食べるものが偏ってしまうと摂取できる栄養バランスも偏ってしまうため、交互に食べられるよう介助方法を工夫して摂取してもらいましょう。
食べ終わった量を記録する
健康状態を把握するために食事の摂取量は重要な記録となります。食べ終わった後は量を記録し、医師や看護師も確認できるようにしておきましょう。
食事量は口頭での報告も大切ですが、記録に残しておくことで誰もが確認できる環境が整えられます。他の職種とのコミュニケーションをスムーズに行うためにも、食事量の記録は重要な役割を担っているのです。
口腔ケアを行う
口の中に食べ残しがあると、むし歯だけでなく誤嚥性肺炎を引き起こす場合があります。口の中をよく観察し、食べ残しがある場合は歯ブラシなどで取り除くようにしましょう。
食事介助が必要な方の中には入れ歯を使用している方も多くいると思いますので、入れ歯の洗浄も忘れずに行うようにしてください。
食事介助でむせないための5つの注意点
食事介助でむせないための5つの注意点を解説します。
- 食形態が適切かダブルチェックする
- 入れ歯が正しく装着できているか確認する
- 一口量が大きくなり過ぎないようよう注意する
- 食べるスピードはご利用者様に合わせる
- 食事姿勢が崩れていないか観察する
むせ込みがあると食事が苦しいものになってしまうため、食事を楽しんでもらえるように介助方法を確認していきましょう。
食形態が適切かダブルチェックする
健康な方であればそのままの形で食事を食べられますが、飲み込む力が落ちている方は刻み食やミキサー食など食形態を調整しなければなりません。
間違った食形態で提供するとむせ込みや誤嚥性肺炎を引き起こしかねないため、提供する前には必ずその方にあった食形態かダブルチェックを行いましょう。
入れ歯が正しく装着できているか確認する
入れ歯を装着せずに食事をすると、十分に食べ物を噛めず飲み込みづらくなってしまいます。丸呑みになってしまい、胃腸での消化・吸収がしづらくなってしまうため、食事の前には入れ歯が装着できているか確認しましょう。
また、栄養状態が悪いと歯ぐきが痩せてしまい、入れ歯が合わなくなってしまうこともあります。装着していてもぐらつきが見られたり、噛み合わせが悪くなったりと入れ歯に関するトラブルは少なくありません。
むせ込みの原因を減らすためにも、装着感の確認は食事前にしておくとよいでしょう。
一口量が大きくなり過ぎないよう注意する
一口量が大きく、かき込むように食べてしまうとむせ込みやすくなります。誤嚥性肺炎の危険性も高まるため、一口量は大きくなり過ぎないように注意しましょう。
小さじのスプーンで食事介助すると自然と一口量は小さくなります。ご自身で食べる方で一口量が多くなってしまう方にも小さじのスプーンは有効なため、ぜひ活用してみてください。
食べるスピードはご利用者様に合わせる
食事介助を介護者のペースで行ってしまうと、ご利用者様が苦しくなってしまうことがあります。咀嚼のタイミングが合わないとむせ込みにもつながるため、食べるペースは利用者さんに合わせて食事介助をするように心がけましょう。
ただし、早食いもむせ込みの原因になってしまいます。早く食べてしまう方には声をかけながら、小さじのスプーンなども活用してもらいむせ込みを予防しましょう。
食事姿勢が崩れていないか観察する
食事をしていると姿勢が崩れてきてしまう方がいらっしゃいます。食事姿勢は食事の摂取量にも関わってくる要素のため、姿勢が崩れてきていないか意識して観察してみてください。
必要に応じて体の横にクッションを入れる、リクライニング車いすの使用を検討するなど、食事姿勢が保てるよう対応しましょう。
食事姿勢が崩れてしまう方の情報は他のスタッフにも共有する必要があります。他職種とも連携して対処しなければならないため、申し送りにて共有しておきましょう。
食事介助時に自分でも食べてもらうコツ
ここでは食事介助時に自分でも食べてもらうコツを2つご紹介します。
- 自助具を活用する
- 良い姿勢を保てるよう座る環境を整える
自助具を活用する
食事を自力で食べるのを助けるために、多くの自助具が開発されてきました。それらを活用すると、自力で食事を食べられるようになる方もいらっしゃいます。
例えば、腕や指先に麻痺がある場合、柄が持ちやすいスプーンやトングのような形状をした箸を使うと、残存している機能を活かしながら食事が食べられる場合があります。
また、スプーンですくいやすい形状のお皿や、お皿が滑らないように滑り止めを活用すると、お皿を持てなかったとしても少量ずつ食べられるようになるのです。
その他にも注意を引きやすい色の食器を使用するなど、一工夫することで自身で食べられるようになる場合がありますので、利用者さんにあった自助具を活用してみてください。
良い姿勢を保てるよう座る環境を整える
良い姿勢で食事が食べられると、安全に食事量が確保できます。
- 体幹が傾かないように体の横にクッションを入れる
- 足台を入れて足元が浮かないように調整する
- あごが上を向かないようにリクライニング車いすの角度を調整する
食事介助を必要とせず自身で食べられるようになれば食事の満足度も高まるため、食事介助の一環として良い姿勢を整えられるように関わってみてください。
食事介助に関するQ&A
最後に食事介助に関する疑問についてお答えしていきます。さまざまな考えがあると思いますが、参考意見として取り入れていただければ幸いです。
食事介助はどこまですればよいか?
状況によっては食事が苦痛になってしまうことがあるため、何がなんでも完食させようとはせず、医師や看護師の指示を仰ぎながら食事介助を行っていきましょう。
利き手に麻痺がある方や手が震えてうまく食べられない方は、ご本人ができる範囲で自己摂取していただき、疲れが見られてきたらスプーンの操作などを介助して差し上げるといいと思います。
もし口の中に食べ物が残った状態で眠ってしまう場合、無理に食べさせてしまうと窒息する恐れがあるため、食事を中断して口の中をきれいにすることを優先してください。
ミキサー食をなかなか食べてくれない方への対処法は?
嚥下機能が低下している場合は、食べ物をペースト状にして提供しなければならないこともあります。食べる側としては何を食べているのかわからないと食欲も湧いてきません。
そのため、何を食べているかわかるように風味をつける、ミキサー食にする前の状態を写真に撮って見せるなど、一工夫するだけでも気分が変わります。
自身がミキサー食を食べるとして、どのような対応をしてほしいか考えてみて接していただくと食べていただけるようになるかもしれません。
ご利用者様が安心して食べられるような食事介助を実践できるようになろう!
今回は、食事介助前の準備や食事介助の手順、むせないための注意点などを解説しました。食事前の準備を行い、正しい手順で介助することで安全に食事をしてもらえます。
介助者側のペースで介助をしてしまうとむせ込みにつながるケースもありますので、ご利用者様のペースや身体機能にあった方法で食事介助をするようにしてみてください。
自身でも食べられるようになってもらえれば介助者側の負担も軽減できます。自立を促すためにも、食事を食べやすい環境を整えるコツなども踏まえて食事介助をしてみてくださいね。
この記事を書いたのは・・・
梶原 たくま/Webライター
保有資格:理学療法士
2014年に理学療法士免許取得。生活期の病院に勤務し、入院・外来・予防・通所・訪問リハビリテーションに従事。現在は訪問看護ステーションと医療系出版社に所属しつつ、ライター活動を行っている。