介護施設の管理者とは?仕事内容や魅力、平均年収などを解説

介護施設の管理者は、経営管理から人材マネジメントなど、施設全体の運営を担う重要な役職です。ご利用者に安心で安全な介護サービスを提供するために、さまざまなマネジメント業務をこなす必要があります。

現場を支えるリーダーとしての役割が求められ、施設の経営方針や運営戦略にも関与するため大変な面もありますが、大きな責任とやりがいがある仕事です。

給与や待遇面で一般の介護職よりも優遇されることが多く、キャリアアップを目指す人にとって魅力的な選択肢となります。
本記事では、介護施設の管理者の仕事内容や魅力、必要なスキル、平均年収などを詳しく解説するので、ぜひご覧ください。

介護施設の管理者とは?

介護施設の管理者とは、経営管理や人事など、施設全体のマネジメントを統括する責任者のことです。主な役割は、職員の管理やご利用者様のケアの質の向上、施設の経営管理、行政手続きの対応など多岐にわたります。

管理者のマネジメントは、施設の売上や職員の働き方などに大きく影響するため、非常に責任の大きい仕事です。

管理者を目指すために一定の研修を求められる場合もありますが、介護福祉士や看護師など資格の取得が必須ではないため、誰でも目指せるキャリアと言えます。

筆者のように現場の介護職から管理者にキャリアアップした例もあれば、介護未経験でありながら、他業界のマネジメント経験を活かして介護施設の管理者になる例もあります。

介護施設の管理者の仕事内容

介護施設の管理者の仕事内容は、主に以下の5つです。

  • 事業所の運営管理
  • サービスの品質管理
  • 職員のマネジメント
  • 行政や各機関との連携
  • セルフマネジメント

それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。

事業所の運営管理

介護施設の管理者は、施設全体の運営を統括します。経営計画を立案し、予算や収支を管理することで、安定した運営を目指します。

また、設備の維持管理や安全対策を講じ、ご利用者様が快適に過ごせる環境を整えることも重要です。職員の配置や労働環境の整備を行い、サービスの提供が円滑に進むよう調整します。

行政の指導や監査に対応し、必要な書類の作成や報告を行うことも大変な業務ですが、必ずやらなければいけない業務です。

サービスの品質管理

介護サービスの質を維持、向上させるために、ご利用者様の満足度を把握し、適切なケアが提供されているかを確認することも管理者の重要な仕事です。

たとえば、筆者が管理者をしていた際は、定期的に施設内を巡回し、ご利用者様から現状を聞くことでサービスに対する満足度を確認していました

そのほか、ご利用者様からの苦情や相談に対応し、問題点を改善することで、安心で安全なサービスを提供できる環境を整えることも大切です。

職員のマネジメント

介護施設の管理者は、職員の採用や育成、勤怠管理を行い、働きやすい職場環境を整えます。スタッフ同士の連携を促し、チームワークを高めることも重要です。

筆者の場合は、職員と定期的に面談し、普段思っていることを共有するよう努めました。面談だけですべてを聞けるわけではありませんでしたが、面と向かって話すことで本音や悩みを聞けることもありました

職員一人ひとりが働きやすい環境を整え、モチベーションを管理することも管理者の重要な仕事と言えます。

行政や各機関との連携

介護施設は、自治体や医療機関、地域の福祉団体などと連携することで運営が成り立っています。そのため、各関係機関との連携は、施設を適切に運営する上で非常に重要です。

たとえば、補助金の申請や法令順守の確認、監査対応など、行政と適切にやり取りすることで、施設の経営が安定するだけでなく、職員の待遇維持や改善にもつながります

また、ご利用者様が適切なサービスを受けられるよう、病院やケアマネジャーと情報を共有し、連携を強化することも重要な業務の一つです。

セルフマネジメント

管理者自身が健康管理や、ストレスマネジメントなどを自ら行うことも欠かせない業務です。管理者が自己管理をできていないと、職員のマネジメントをする余裕は生まれません

多忙な業務の中でも、適切に休息を取り、心身のバランスを保つことで、経営管理や職員のマネジメントも効果的にできるでしょう。

介護業界の最新情報や法改正を常に学び、自己研鑽を続けることで、施設の運営に活かします。また、リーダーとしての判断力やコミュニケーション能力を磨くことも重要です。

介護施設の管理者の1日のスケジュール

介護施設の管理者のスケジュールを見ていきましょう。以下のスケジュールは、以前筆者が有料老人ホームで管理者をしていた際の1日の仕事内容です。

時間仕事内容詳細
8:30出勤・朝礼・夜勤者と日勤者で朝礼を行い夜間帯の様子と本日の予定を全体で共有する
・重要事項は基本的に朝礼時に発信する
9:00施設内巡回・ご利用者様や職員の状況を確認する
・職員に現場の困りごとや課題を聞く
・必要に応じてサポートや調整を行う
10:00事務作業・予算管理や補助金申請、契約関連の手続きなど運営に関わる業務を行う
・職員の目標管理シートのフィードバックを行う
12:00施設内巡回・ご利用者様の食事の様子を観察する
・職員の労働環境屋現場の状況を確認する
(現場が忙しい時間帯をチェックするため昼食時に実施)
13:00休憩・事務所で仕事をしながら食事をする
・1時間きっちりとれることはほとんどない
14:00営業や打ち合わせ・各関係機関に顔出しを行い施設の空室状況を共有する
・外部の居宅介護支援事業所と打ち合わせをする
・新規入居予定のご利用者様の情報を共有する
16:00職員と面談・キャリアアップについて相談を受ける
・人間関係や仕事上の悩みがあれば解決のために介入する
17:00申し送りに参加・その日のご利用者様の状態を全体で共有する
・トラブルあれば管理者から現場に指示を出す
17:30業務確認・退勤・1日の業務を振り返り翌日のスケジュールを確認する
・必要な指示を出し業務の引継ぎを行う
・その日の業務が終了次第退勤(残業することもある)

筆者の場合、年俸制でタイムカードがなかったため、出退勤の時間はある程度自由でした。たとえば、夜間帯のトラブル対応をした際は、翌日正午過ぎから出勤することもありました。

一般社員のように時給制ではないため、上手くスケジュール管理することで、労働時間を抑えることも可能です。

ただし、誰かが指示を出してくれるわけではないため、自分で考えて仕事を進める必要があります。

介護施設の管理者になるには?

介護施設の管理者になる方法を、以下の施設形態別に解説します。

  • 特別養護老人ホーム
  • 介護老人保健施設
  • グループホーム
  • 小規模多機能型居宅介護事業所
  • その他の事業所

それぞれ具体的な方法がわかるようになっているので、今後どのような施設で管理者を目指すか決める際の参考にしてください。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホーム(以下、特養)の管理者は施設長に該当し、施設全体の運営を統括します。特養は公的な施設のため、自治体や法人の方針に沿った運営が求められます。

厚生労働省によると、特養で管理者をするためには、以下の3つのうち、いずれかの要件を満たすことが必要です。

  • 社会福祉主事の要件を満たす者
  • 社会福祉事業に2年以上従事した者
  • 社会福祉施設長資格認定講習会を受講した者

出典:施設長の資格要件等|厚生労働省

特養の場合、介護保険法に基づく規制が多いため、法令順守の意識が重要です。そのため、介護現場での経験者のほうが向いているでしょう。

なお特養の介護職の仕事内容を、以下の記事で紹介しているので、1日の流れを把握する際にぜひ参考にしてください。

介護老人保健施設

介護老人保健施設(以下、老健)の管理者は、施設長として運営責任者や事務長などの役職として管理業務に携わることが一般的です。

厚生労働省によると、老健の管理者の資格要件は、以下のように規定されています。

「介護老人保健施設の開設者は、都道府県知事の承認を受けた医師に当該介護老人保健施設を管理させなければならない。」(※都道府県知事の承認を受ければ、医師以外の者に管理させることもできるが、原則医師が管理者を担う))
出典:施設長の資格要件等|厚生労働省

管理者には医療と介護両方の知識や、チームマネジメント能力が必要です。在宅復帰を目的とする施設のため、リハビリやケアプランの管理、利用者や家族との調整業務も多くなるでしょう。

なお介護老人保健施設の介護職の仕事内容を、以下の記事で紹介しているので、1日の流れを把握する際にぜひ参考にしてください。

グループホーム

グループホームの管理者になるには、介護職員としての経験が重要視されます。なぜなら、グループホームは認知症ケアの知識やスキルが求められるからです。

ご利用者様が20名以内と小規模施設のため、職員との距離が近く、現場業務と管理業務を両立するケースもあります

グループホームの管理者になるには、以下2つの要件を満たすことが必要です。

  • 認知症ケアの実務経験3年以上
  • 認知症対応型サービス事業管理者研修の修了

現場の仕事をしながらの管理業務となるため、仕事を適切に進めるためには、スケジュール管理が非常に重要です。

なおグループホームの介護職の仕事内容を、以下の記事で紹介しているので、1日の流れを把握する際にぜひ参考にしてください。

小規模多機能型居宅介護事業所

小規模多機能型居宅介護事業所では、介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を持つ管理者が求められることが一般的です。通い・訪問・宿泊のサービスを組み合わせるため、柔軟な運営管理が必要になります。

小規模多機能型居宅介護事業所の管理者要件は、以下のとおりです。

  • 介護現場での3年以上の実務経験
  • 認知症介護実践者研修または認知症介護実務者研修の修了
  • 小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修の修了

地域との関係構築も重要であり、適切なコミュニケーション力や包括的なケアマネジメントのスキルが必要です。

なお小規模多機能居宅介護の介護職の仕事内容を、以下の記事で紹介しているので、1日の流れを把握する際にぜひ参考にしてください。

その他の事業所

その他にも、デイサービスや有料老人ホームで管理者をする場合、資格要件はとくにありませんが、介護業界での実務経験があるほうが望ましいでしょう。

実際に筆者も、介護福祉やケアマネジャーの実務経験を活かし、有料老人ホームで管理者を任されました。事業所によっては、ケアマネジャー資格を必須としているケースもあります。

会社によっては売上ノルマがある場合もあり、経営や人事管理のスキルがより重要視されることもあるでしょう。

以下の記事では、デイサービスの介護職の仕事内容を紹介しています。1日の流れを把握する際にぜひ参考にしてください。

介護施設の管理者のメリット

介護施設の管理者をするメリットは、以下の3つです。

  • 介護職より給与や待遇がいい
  • マネジメントスキルが身につく
  • 施設運営に関する意思決定ができる

具体的な内容を解説するので、管理者へのキャリアアップを検討している方は参考にしてください。

介護職より給与や待遇がいい

介護施設の管理者は、一般の介護職よりも給与や待遇がいいのが一般的です。当然、管理者として施設全体の運営を行うため責任は重くなりますが、その分給与も高めに設定されています

事業所によっては、施設の利益によって賞与が変動したり、インセンティブが充実していたりする場合もあるため、成果を出すことでより高待遇になれる可能性もあるでしょう。

管理者の平均年収に関しては、本記事の「介護施設の管理者の平均年収」を参考にしてください。

なお、介護職の平均年収については、以下の記事で紹介しているので参考にしてください。

マネジメントスキルが身につく

介護施設の管理者として働くことで、介護職では身につきにくい、経営管理や人材マネジメントのスキルを磨けます。職員の採用や育成、評価を行うほか、ご利用者様やご家族、行政との調整業務を通じて、幅広い調整力や交渉力が身につきます。

また、施設の経営戦略を考えたりコスト管理を行ったりすることで、経営者目線のスキルも養われます。経営スキルは、介護業界だけでなく、他の業界でも応用可能なため、管理者の経験が他業界への転職時に役立つかもしれません。

施設運営に関する意思決定ができる

管理者としての立場になると、施設運営に関する重要な意思決定に関わることが可能です。たとえば、職員の配置や業務の進め方、施設の設備投資やサービスの改善策など、施設の方針を決める役割を担います。

現場職員の意見を取り入れながら、ご利用者様にとってより良い環境を整えることができるため、大きなやりがいを感じられるでしょう。自分の判断が施設全体の運営に影響を与えるため、リーダーシップを発揮する場面も多くなります。

介護施設の管理者のデメリット

一方、介護施設の管理者をするデメリットは、以下の3つです。

  • 責任やプレッシャーが大きくなる
  • 労働時間が長くなる可能性がある
  • 場合によっては介護職より待遇が悪くなる

それぞれ詳しい内容を確認しましょう。

責任やプレッシャーが大きくなる

介護施設の管理者は、施設全体の運営を統括するため、大きな責任を伴います。ご利用者様の安全やサービスの質を維持するだけでなく、職員のマネジメントや行政の監査対応、経営面の管理も求められます。

万が一、施設内で事故やクレームが発生した場合は、その対応を迅速かつ適切に行う必要もあるでしょう。常にプレッシャーを抱えながら業務を遂行していくことが重要で、安定したメンタルを保つために、適度にストレスを発散することも大切です。

労働時間が長くなる可能性がある

管理者は職員のシフト管理や施設の運営計画、行政対応など、多くの業務を抱えています。そのため、通常の勤務時間以外にも残業が発生することがあります。また、職員の急な欠勤があれば、管理者が現場に入りサポートに回ることもあり、柔軟な対応が必要です。

行政の監査や経営会議、家族対応などは日中だけでなく、休日や夜間に発生することもあり、休日返上で仕事をするケースもあります。労働時間が長くなりやすい職種のため、ワークライフバランスを重視する人には、向いていない可能性があります。

場合によっては介護職より待遇が悪くなる

管理者は一般の介護職よりも給与が高いのが一般的ですが、事業所によっては介護職よりも給与が低い可能性があります。筆者がグループホームで管理者を依頼された際は、介護職よりも給与が低くなることを理由に、辞退させていただきました。

管理者は年俸制でボーナスがなかったり、固定残業代が含まれていたりする場合、実際の手取りが少なくなることもあります。夜勤手当や処遇改善など現場職特有の手当が支給されないため、介護職よりも月収が低くなることも知っておきましょう。

介護施設の管理者に向いている人の特徴

介護施設の管理者をする上で、もっとも重要なことは「冷静な判断力」と「問題解決能力」です。利用者の急変や職員のトラブル、行政からの指導など、さまざまな問題が発生する中で、落ち着いて最善の対応を考える力が求められます。

さらに、リーダーシップやコミュニケーション力を発揮し、職員をまとめ施設の方針を決めたり、職員と連携を取りながら指示を出したりすることも大切です。

ご利用者様やご家族、職員や行政機関など、多くの人と関わるため、適切な説明や調整ができるスキルも必要になってきます。施設運営におけるコストや労務管理など、数字を扱うのが得意な人も管理者向きです。

また、介護への情熱と向上心があることも重要です。ご利用者様の生活を支え、より良い施設づくりを目指せる人が、管理者として適任と言えるでしょう。

介護施設の管理者の平均年収

介護施設の管理者の平均年収は、施設の種類や規模、個人の経験や資格などによって大きく異なります。

公益財団法人 介護労働安定センターが実施した「介護労働実態調査」によると、介護施設の管理者の平均年収は、以下のとおりです。

施設形態平均年収
特別養護老人ホーム約800万円
介護老人保健施設約1,000万円
有料老人ホーム約600万円
グループホーム約500万円
小規模多機能型居宅介護約500万円
デイサービス約500万円
出典:介護労働実態調査|公益財団法人 介護労働安定センター

特別養護老人ホームは、施設長として大規模な施設運営を行うため、その分年収も高くなっています。

介護老人保健施設は、管理者が医師のため、年収1,000万を超えるのも珍しくありません。

各施設の具体的な年収を把握したい方は、事前に求人情報や地域の給与相場を確認しておきましょう。

まとめ

介護施設の管理者は、施設全体の運営を支え、職員と利用者の両方にとって働きやすい環境をつくる重要な役割を担っています。マネジメントスキルを磨けたり、給与や待遇が良くなったりする点は大きなメリットですが、責任の重さや長時間労働といった課題もあります。

リーダーシップがありコミュニケーション能力が高く、課題解決に前向きに取り組める人は、介護施設の管理職に向いているでしょう。

介護施設の管理者として成功するためには、現場経験を活かしながら、経営視点を持つことが重要です。本記事の情報を参考に、介護施設の管理職へのキャリアアップを目指してみましょう。

介護転職のミカタ」では、6万件の求人を保有しています。転職の際は、専門のコンサルタントがサポートしてくれるため、安心して転職活動を進められます。
サービス利用は無料なので、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事を書いたのは・・・

津島 武志/Webライター

保有資格:介護福祉士/介護支援専門員/社会福祉士
業界17年目の現役介護職兼ケアマネージャー。
さまざまな介護系メディアでWebライターとしても活動し、多くの検索上位記事を執筆。
介護職以外に転職メディア「介護士の転職コンパス」や自身のライフスタイルや介護系コンテンツを発信するYouTubeチャンネル「かいご職TV」等を運営。