「外国人スタッフに指示が伝わらない」「言葉が通じず事故が起きるのではと不安」と悩む介護士は少なくありません。
介護の現場では人手不足が続いており、外国人スタッフは貴重な戦力です。一方で、言語や文化の違いから意思疎通がうまくいかず、お互いに疲弊してしまうケースが見られます。
本記事では、外国人スタッフとのコミュニケーションに悩む原因を紐解き、今日から実践できる伝え方のコツやICT機器を活用した連携方法について解説します。
指示を明確にし、外国人スタッフを孤立させないチームをつくり、安全で働きやすい介護現場を目指しましょう。
この記事の内容
介護士が外国人スタッフとのコミュニケーションで悩みやすい理由
多くの介護事業所では、外国人スタッフの受け入れが進んでいます。その一方で、現場の介護士からは「指示が伝わりにくい」という声が聞かれるのが現状です。
介護士が外国人スタッフとの関わりで悩みやすい主な要因は、以下の4つがあります。
| 要因 | 解説 |
| 仕事を教える余裕がない | 慢性的な人員不足により外国人スタッフの理解度に合わせて指導する時間が確保しづらい |
| 日本語レベル・文化の違い | 業務のスピード感や、日本人特有の「空気を読む」コミュニケーションに対応しきれない |
| 専門用語・略語・方言が多い | 「ADL」「移乗」「特養」などの専門用語・略語や、地域特有の方言は理解が難しい外国人スタッフもいる |
| 事故へのプレッシャー | 「指示が伝わらないと事故につながるのではないか」という不安からプレッシャーが強まる |
外国人スタッフは、私たち日本人と育った背景や価値観が大きく異なるケースも少なくありません。
筆者も病院に勤務していたころに数名の外国人技能実習生を迎えて指導にあたった経験があります。どの方も丁寧で意欲的でしたが、文化や考え方の違いから「接し方が難しいな」と感じる瞬間もありました。外国人スタッフに業務を依頼する場合、日本人同士の感覚で「これくらいで伝わるだろう」と考えてしまうと、誤解を生む可能性があります。言葉をかみ砕いてわかりやすく伝える必要がありますが、時間に追われているときは日本人スタッフだけで対応するケースもありました。
コミュニケーション不全が外国人スタッフのいる介護現場に与える影響
外国人スタッフとのコミュニケーションが不十分なままでは、以下の影響を及ぼします。
| ・事故リスクがある指導する ・スタッフのストレスがたまる ・外国人スタッフのメンタルが低下し離職のリスクが高まる |
順番に見ていきましょう。
事故リスクがある
介護の現場では、ご利用者様の身体状態に合わせた力加減やタイミングが求められます。
外国人スタッフとのコミュニケーションが滞ると、ご利用者様の事故リスクが高まります。
「これくらいわかるだろう」と思い込まず、外国人スタッフの理解度を把握したうえで指示しなければなりません。
筆者が外国人のスタッフを指導していたとき、忙しくてつい「◯◯さんは嚥下状態が悪いから、お茶のトロミを強めにつけてね」と伝えたことがあります。
しかし「強め」とはどの程度なのかじゅうぶんに伝えきれておらず、かなり薄めのトロミをつけたお茶になってしまい、作り直しました。
このときは、ご利用者様に提供する前に気付けたのですが、もしご利用者様が飲んでしまったらむせ込みや誤嚥を引き起こす可能性もあったのです。
確実な伝達と理解がなければ、ヒヤリハットや事故を防ぐことはできません。
「介護中のヒヤリハット|事例と報告書作成を元医療安全委員が紹介」では、ヒヤリハットの事例と報告書の書き方のポイントを詳しく解説しています。ヒヤリハット対策に不安がある方は参考にしてみてください。
指導するスタッフのストレスがたまる
コミュニケーション不全が続くと、指導を担当する職員が強くストレスを感じ、職場の雰囲気が悪くなる場合があります。
外国人スタッフに指導が伝わらず「同じことを何度も言わなければならない」とうんざりする気持ちが芽生えるためです。
完璧を求めず「今日はここまで伝わったからOK」と考えて、適度に気分転換を図りましょう。ストレスを溜めない意識が、外国人スタッフとの関係性を良くするポイントです。
指導する側だからといって、悩みをひとりで抱え込まず、心のゆとりをつくる工夫をしてみましょう。良いアイディアが浮かんだり、物事を客観的にとらえる視点をもてるようになります。
外国人スタッフとのやり取りについて「今度はこう指導してみよう」と気づきを得るきっかけとなるでしょう。
イライラが募り心の限界を感じる前に、まずはストレスの原因を整理するのがおすすめです。「介護職員がイライラする原因4つ|ストレス解消法も紹介」では、介護職員のイライラ解消法を紹介しています。
外国人スタッフのメンタルが低下し離職のリスクが高まる
コミュニケーションの壁は、外国人スタッフのメンタルを低下させ、早期離職の引き金になります。
「言葉がわからないせいで迷惑をかけている」「誰も自分を理解してくれない」という孤独感や孤立感が生まれるためです。
自分がもし、言葉の通じない国で働くことになったらと考えてみましょう。ただでさえ不安な中で、周囲のスタッフが険しい表情で忙しそうにしていたら、質問するのもためらわれるかもしれません。
言葉がわかりづらくても、笑顔で挨拶してくれると緊張がほぐれて話しやすい雰囲気になります。業務の指導も大切ですが、最初は外国人スタッフとの信頼関係を築くほうに意識を向けてみてください。
日本人介護士は指導しやすく、外国人スタッフは業務の悩みや困りごとを相談しやすくなります。結果的に外国人スタッフの成長や、業務効率の向上にもつながるでしょう。
今日からできる外国人スタッフへの伝え方のコツ
日本語には、独特の言い回しやあいまいな表現があり、外国人スタッフにはわかりづらい面もあります。
話すときは、以下の3つを押さえてみてください。
| 【外国人スタッフにわかりやすく伝えるコツ】 ・指示は短く一文ずつ伝える ・抽象表現を数字や動作に変換して伝える ・専門用語・略語・二重否定は使わない |
1つずつ見ていきましょう。
指示は短く一文ずつ伝える
外国人スタッフに指示を出すときは、結論ファーストを心がけ、文章を細かく区切って伝えましょう。
たとえば、「シーツ交換のあとに環境整備してね」といったように、複数の指示を一つの文章で伝えると、外国人スタッフはわかりづらい場合があります。
日本語に慣れていないスタッフは、文章が長くなると「何からやればいいのか」と混乱しやすくなります。指示は「Aをします」「次にBをします」と、順序立てて一文ずつ伝えるのがおすすめです。
また、日本人にありがちな「言わなくても察する」文化は手放す意識をもちましょう。伝えるべきことはすべて言葉にし、端的に伝えると理解しやすくなりミスを減らせます。
抽象表現を数字や動作に変換して伝える
「多め」「定期的に」など、日本人がよく使う抽象的な表現は、具体的な数値や動作を表す言葉に変換して伝えるのがおすすめです。
ある程度経験のある日本人介護士は「〇〇さんに多めの水分摂取を促して」と言われると、ご利用者様の状態を考慮して「これくらいかな」と推測できます。しかし、外国人スタッフには基準がわかりません。
以下は、介護現場でよく使われがちな抽象表現と、外国人スタッフに伝わりやすい言い換え例です。
| 使いがちな抽象表現 | 外国人スタッフに伝わる言い換え例 |
| しっかり水分を摂ってもらって | 200mlの水分を摂ってもらって |
| 定期的に訪室してください | 1時間に1回、部屋を見に行ってください |
| パッドをこまめに替えてあげてください | 3時間に1回、または汚れていたらそのつど替えてください |
| いつも通りに歩行介助してください | 左手で手すりを持ってもらい、右側から支えて歩いてください |
| ◯◯さんの熱が上がったら教えてください | ◯◯さんの熱が38度を超えたらすぐに教えてください |
誰が聞いても同じ行動がとれるレベルまで具体化して伝えると、外国人スタッフは迷わず動けるようになります。
専門用語・略語・二重否定は使わない
日本人介護士の間で当たり前に使っている専門用語や略語、回りくどい表現は、外国人スタッフの理解を妨げる可能性があります。
| NG例 | OK例 |
| 端座位をとってください | ベッドの端に座ってもらってください |
| バイタルを測ってください | 血圧・体温・脈を測ってください |
| ADLの低下に注意してください | 自分でできる動作が減っていないか気を付けて観察してください |
| 全介助でお願いします | すべての動作に介助をお願いします |
| 〜しないわけではないので | 「~します」または「~しません」 |
外国人スタッフには、指導や依頼の言葉をシンプルにして伝えましょう。理解が深まり、より良いケアにつながります。
ICT機器が外国人スタッフとのコミュニケーションを円滑に
外国人スタッフとのコミュニケーションの課題を解決する手段として注目されているのが、ICT機器の活用です。
外国人スタッフとのコミュニケーション改善に役立つICT機器には、以下のようなものがあります。
| ・翻訳アプリや翻訳機で言葉の壁を低くする ・多言語対応の介護記録ソフトで申し送りや記録業務をわかりやすくする ・インカムやビジネスチャットで報告・相談しやすい環境を整える |
ここでは、現場の負担軽減と安全性の向上に効果的なテクノロジーについて解説していきます。
翻訳アプリや翻訳機で言葉の壁を低くする
翻訳アプリや小型の翻訳機は、普段の会話や指示出しにおけるスタッフ間の不安を軽減してくれます。
介護士は、ご利用者様の体調悪化や事故対応、人員不足の時間帯などで迅速な対応が必要です。いつもよりスピーディーに動かなければならず、外国人スタッフに対して細やかな指示が難しくなるかもしれません。こうした場合で役立つのが、翻訳アプリや翻訳機といった翻訳ツールです。
日本語に不安があるスタッフに対して翻訳機器を使うと、業務内容や注意点をリアルタイムで正しく伝えやすくなります。教える側の精神的なゆとりにもつながるでしょう。
多言語対応の介護記録ソフトで申し送りや記録業務をわかりやすくする
多言語対応の介護記録ソフトは、外国人スタッフには難しい記録業務や申し送りに対する理解度を高めます。
専門用語や日本語の表現(不穏・傾眠など)は、外国人スタッフにとってあまりなじみのない言葉です。ソフトを用いて、外国人スタッフには難解な言葉を母国語で表示・入力できるようになれば、記録時の入力ミスや確認漏れの防止にも役立ちます。情報の見落としや記録ミスを防ぎ、事故予防にもつながるツールです。
インカムやビジネスチャットで報告・相談しやすい環境を整える
インカムやビジネスチャットの導入は、外国人スタッフが困ったときにリアルタイムで報告・相談できる仕組みづくりに有効です。
インカムは、離れた場所にいる相手とすぐに声で連絡が取れる小型無線機です。他の介護士が周りにいないときにトラブルが起こったら、インカムを通じて助けを呼ぶことができます。
ビジネスチャットはスマートフォンやタブレットで使えるメッセージアプリで、翻訳機能を使ってやり取りできます。記録にかかる時間が減り、よりスムーズな情報共有が可能です。
インカムやビジネスチャットを使うと、外国人スタッフが言葉の壁を感じにくくなる効果があります。日本人介護士とのコミュニケーションがとりやすくなるため、安心して働ける職場づくりに効果的です。
AIの進化が目覚ましい昨今ですが、介護施設でもAIが活用されています。AIと介護職の関係について知りたい人は「介護職はAIでなくなる?将来性や共存のポイントを解説」を読んでみてください。
外国人スタッフの孤立を防ぐチームづくりでコミュニケーションを活発に
伝え方の工夫だけでは、外国人スタッフとの良好なコミュニケーションは生まれません。
ここでは、外国人スタッフとの関係性をより良くするためのチームづくりについて解説します。
| 【チームづくりの3つのポイント】 1.ユマニチュードの視点をコミュニケーションに盛り込む 2.外国人スタッフとご利用者様との橋渡しを心がける 3.小さな成功体験を一緒に喜ぶ |
1つずつ見ていきましょう。
ユマニチュードの視点をコミュニケーションに盛り込む
外国人スタッフとの信頼関係を築くためには、認知症ケアの技法である「ユマニチュード」が効果的です。
コミュニケーションに使えるユマニチュードの技法は、以下のとおりです。
| ・優しく触れる ・正面から目線を合わせる ・穏やかな声で話しかける |
こうした関わり方を通して、外国人スタッフに安心感を与えられます。また「あなたを大切な仲間だと思っているよ」というメッセージが伝わるでしょう。
筆者は外国語がほとんどわかりません。そのため、技能実習生など外国人スタッフとのやり取りには苦労したのを覚えています。
しかし、ボディランゲージやゆっくりと静かな語りかけを心掛けて関わると、少しずつコミュニケーションがとれるようになっていきました。
ユマニチュードの具体的な4つの柱や、現場での実践方法についてさらに詳しく知りたい方は、「認知症ケアに有効なユマニチュードとは?詳しい方法やメリットを解説」を参考にしてみてください。
外国人スタッフとご利用者様との橋渡しを心がける
日本人の介護士は、外国人スタッフとご利用者様の間に立ち、両者の距離を縮める橋渡しの役割を意識しましょう。
ご利用者様の中には、慣れない外国人のスタッフに対して、戸惑いや緊張を感じる方もいます。日本人の介護士が、ご利用者様に対してポジティブな言葉で外国人スタッフを紹介すれば、自然に関わる機会を増やせるでしょう。
| 【橋渡しの例】 ・外国人スタッフの丁寧さをご利用者様に伝える ・ご利用者様の状態をわかりやすく外国人スタッフに伝える ・外国人スタッフの声かけがご利用者様に伝わりづらいときは補足する |
外国人スタッフは、丁寧に介助するもののやや早口で片言でもあるために「急かされている」と感じる人もいます。
筆者も以前、ご利用者様から「あの人(外国人スタッフ)の言葉は荒っぽく聞こえる」と言われたことがあります。しかし本人はとても丁寧で、介護士としての適性もある人です。
他の介護士と話し合い、外国人スタッフの言葉や声かけの意図をご利用者様にわかりやすく伝えるようにしたところ、徐々に関係性が良くなり、苦情も聞かれなくなりました。
小さな成功体験を一緒に喜ぶ
小さな成功体験を、チームのみんなで一緒に喜びましょう。外国人スタッフの自信とやる気を引き出すのに効果的です。
「今日、◯◯さんたちのシーツ交換が1人で時間内にできたね」「ご利用者様が△△さんの声かけで笑顔になっていたよ」など、どんなささいなことでも声に出して褒めると効果的です。
成功体験の積み重ねは、外国人スタッフの「私もやればできるんだ」という自信を高めます。職場に貢献している実感が、周りへの信頼や成長意欲につながるでしょう。
外国人スタッフの指導で日本人介護士が疲れないための考え方
外国人スタッフへの指導に励むのは大切ですが、あなた自身が疲れ切ってしまっては 本末転倒です。外国人スタッフとの円滑なコミュニケーションを続けていくために、まずは「自分を守る」考え方を取り入れてみてください。
すべてを一人で背負わず、施設全体やチーム全体で外国人スタッフの育成に取り組みましょう。言葉が通じないために業務がスムーズに進まない日があっても、それはあなたのせいではありません。
外国人スタッフに伝わる言葉を選び、試行錯誤を重ねていること自体が、立派な指導・支援です。
「今日はここまでできた」「工夫して関われた」と、自分の頑張りをあなた自身が認めてあげる意識を大切にしてください。
まとめ
外国人スタッフとのコミュニケーションを円滑にするには、伝え方の工夫・ICT機器の活用・チームづくりの3つが欠かせません。
指示は短く一文ずつ区切る、抽象表現は数字や動作に置き換える、専門用語や二重否定は避ける、など伝え方を工夫しましょう。さらに、翻訳アプリや多言語対応ツール、ビジネスチャットなどのICT機器を取り入れることで、言葉の壁をぐっと低くできます。
また、外国人スタッフが孤立しないよう、小さな成功や成長をチームで一緒に喜ぶなど、信頼関係を育む意識も大切です。毎日の工夫が、外国人スタッフの意欲を向上させ、チームや職場全体の力を高めてくれるでしょう。
しかし、外国人スタッフの指導と自分の業務を並行するのは負担が大きく、疲弊する人も少なくありません。
もし、今の職場で「外国人スタッフについて相談できる相手がいない」と悩んでいるなら、環境を変える選択肢もあります。
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この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター
保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。
