「ご利用者様の言動にイライラする」「仕事が終わっても気持ちが休まらない」といった悩みを抱えていませんか。
介護職は、ご利用者様やご家族の気持ちに寄り添いながら働く「感情労働」のひとつです。相手の感情に向き合う場面が多いため、知らないうちに心の疲れが蓄積することもあります。
メンタルの不調は、介護職員としての能力や忍耐力が不足しているから起こるものではありません。安定したケアを続けるためにも、まず自分の心の状態に目を向け、適切なメンタルケアを実践することが大切です。
本記事では、介護職員が自分の心を守るためのメンタルケアについて解説します。ご利用者様やご家族に対して実践できるケアも紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事の内容
ストレスチェックシートでメンタルケアの必要度を確認しよう
介護職員の中には、自分のストレスに気づきにくい人もいます。
ご利用者様やご家族、一緒に働く職員など、人と関わる時間が長く、自分自身の心の状態に目を向ける時間を確保しにくいためです。
自分では気づかないうちに、心身の疲労が蓄積していることも少なくありません。
まずは、以下のチェックリストを使って現在の状態を確認してみましょう。
| 【簡単なストレスチェックシート】 ・笑顔になれない ・寝ても疲れが取れない ・出勤前になると体調が悪くなる ・ちょっとした他人の言動にイライラする ・常に仕事のことを考えている ・趣味や遊びの時間を楽しめない ・同僚や上司に相談する気力がわかない |
当てはまる項目が多い方は、ストレスを蓄積している可能性があります。
ストレスの感じ方は人それぞれです。強いストレスを感じているからといって、能力や忍耐力が不足しているわけではありません。責任感が強く真面目な人ほど、仕事のプレッシャーを抱え込みやすい傾向があります。
メンタルの不調は、今の職場や働き方が自分に合っていないことが原因かもしれません。介護職を長く続けたい方は、職場環境を見直すことも選択肢のひとつです。特別養護老人ホームや老人保健施設、グループホーム、デイサービスなど、介護の現場にはさまざまな働き方があります。
「自分は介護職に向いていない」と決めつける前に、自分に合った働き方や職場がないか調べてみましょう。
介護職でメンタルケアが必要な相手とは
介護職におけるメンタルケアは、自分やご利用者様、ご利用者様のご家族などが対象です。
| 自 分:心身の疲労やストレスから自分の心を守るためのケア ご利用者様:不穏や興奮、不安などを和らげるためのケア ご 家 族:介護負担や施設入所に対する葛藤、不安に寄り添うためのケア |
それぞれ目的は異なりますが、いずれも介護現場では欠かせないメンタルケアです。
【筆者の体験談】
介護職に就いて3年目に入ったころのことです。当時は病院で介護業務に従事していました。毎日、患者様やお見舞いに来られたご家族とお話しするのが楽しく、充実した日々を過ごしていたのを覚えています。
しかし、中には「メンタルがやられる」と話す同僚もいました。私が勤務していたのは回復期病棟で、脳疾患による高次脳機能障害や認知症のある患者様も多く入院されていました。
患者様一人ひとりの状態に合わせたケアを提供し続けるには、体力だけでなく気力も必要です。仲間同士で愚痴を言い合ったり、仕事終わりに食事へ行ったりして、お互いに気持ちを支え合っていたことを今でも覚えています。
介護職員は、自分の感情とうまく向き合いながら、ご利用者様に安定したケアを提供しなければなりません。
しかし、認知症のご利用者様への個別ケアを限られた時間の中でおこなうことは簡単ではありません。思うような介護ができない状態が続くと、気付かないうちにメンタルの不調につながる可能性があります。
介護職員のためのメンタルヘルスケアとストレス対策
介護職に携わる人は、まず自分のメンタルケアを意識しましょう。自分が満たされていない状態で、ご利用者様やご家族に対してじゅうぶんなケアは提供できません。
ここでは、3つのアプローチを紹介します。
| ・どのような場面で感情的になるかを把握する ・発言の前に一呼吸置く ・同僚や上司と情報を共有し、相談できる関係性をつくる |
順番に見ていきましょう。
どのような場面で感情的になるかを把握する
自分のメンタルを守るためには、自分がどのような状況でイライラしたり落ち込んだりするのかを客観的に把握しましょう。自分の感情の動き方を知っておくと、不測の事態にも冷静に対応でき、メンタルへのダメージを抑えられます。
| 【イライラや気分の落ち込みを感じる例】 ・ナースコールが連続したとき ・ご利用者様へのケアがうまくいかなかったとき ・認知症のご利用者様から暴言・暴力を受けたとき |
こうした場面でも「自分の能力が足りないからうまくできない」など、自分を責めず、どんと構えてみてください。
筆者は、要領が良いほうではありません。そのため、夜勤でナースコールが複数の部屋から鳴ると軽くパニックになっていました。
優先順位はつけるものの「訪室が遅れて、ご利用者様に何かあったらどうしよう」と気が気ではありません。事故リスクに対する恐ろしさが強く、仕事が終わるとどっと疲れてしまう日もありました。
やがて、心の疲労が溜まってゆとりがなくなり、小さなことでイライラを感じるようになったのです。
イライラしたままでは、穏やかなケアは提供できません。
「マルチタスクはもともと苦手。だから一斉にナースコールが鳴ると焦る。焦るからイライラが募るんだ」と分析し、これまで以上に周りに声をかけて協力を仰ぐよう心がけました。
同僚たちも同じような悩みを抱えていたとわかり、お互いへの理解が深まり協力体制の強化につながった経験だと思っています。
介護職員がイライラする原因や、ストレス解消についてさらに詳しく知りたい方は「介護職員がイライラする原因4つ|ストレス解消法も紹介」の記事も参考にしてみてください。
発言の前に一呼吸置く
ご利用者様や同僚に対してネガティブな感情がわいたときは、言葉を口に出す前に一呼吸置くのを徹底しましょう。
数秒のタイムラグで、感情的な言葉を抑えてトラブルを予防できます。
業務に追われているときは、つい強い口調で答えたり、余計な一言が出たりしがちです。後になって「なんであんな言い方をしたんだろう」と自己嫌悪に陥り、メンタルの不調を招く可能性があります。
もしきつい言葉が出そうになったら、深呼吸を一度挟んだり、心の中で3秒数えたりしてみてください。少し時間を置くことで気持ちが落ち着き、冷静に対応しやすくなるでしょう。
忙しさのあまり、ご利用者様に対して「動かないで!」「ちょっと待ってください!」と声をかけてしまう人もいます。こうした言葉は、ご利用者様の行動を制限する「スピーチロック」にあたるかもしれません。
スピーチロックを防ぐ具体的な声かけや対策については「スピーチロックとは?実例や効果的な防止策を現役介護職が解説」で詳しく解説しています。
同僚や上司と情報を共有し、相談できる関係性をつくる
職場で本音を話したり、困りごとを相談できる関係性を作るのも、メンタル不調を防ぐのに有効です。
介護の仕事はひとりでできるものではありません。複数の介護職員や他職種の連携が必要です。
ひとりで悩みを抱えると孤立感が高まり、うつ病などの深刻なメンタル不調を招くリスクが高まります。日頃から同僚や上司とコミュニケーションを取り、小さな気づきや悩みも共有できる環境を整えましょう。
厚生労働省が運営する働く人のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」では、職場や個人で活用できるメンタルヘルス研修ツールが公開されています。職場の環境改善やセルフケアの参考に活用してみてください。
スムーズなコミュニケーションはストレス軽減に有効です。介護職員としてのコミュニケーションについては「介護職員同士のコミュニケーション事情|円滑になるコツを紹介」で解説しています。
ご利用者様向けのメンタルケア
ご利用者様のメンタルケアには、4つの方法があります。
| ・環境を整える ・あえてその場を離れる ・否定も肯定もせず受け止める ・ご利用者様の行動の裏にある感情を想像する |
1つずつ解説していきます。
環境を整える
ご利用者様が過ごす環境を整えることも、メンタルケアのひとつです。
高齢者、とくに認知症の方は環境の変化に対して敏感です。言葉で「寒くて過ごしづらい」「散らかっていて不快」など、自分の思いをうまく伝えられない人もいます。
【環境チェックの例】
| 項目 | 詳細 |
| 音 | テレビの音量や周囲の音が大きすぎないか |
| 照明 | 暗すぎないか眩しさを感じないか |
| 寝具 | ベッドや布団、枕、寝衣などが本人の身体に合っているか |
| におい | 室内の空気がこもっていないか排泄物・食事などのにおいが残っていないか |
| 室温・湿度 | 暑すぎたり寒すぎたりしないか |
気持ちが落ち着かないご利用者様をケアするときは、お部屋やトイレなど、ご利用者様がよく使う場所の環境に注意してみてください。
あえてその場を離れる
ご利用者様とのやり取りがうまくいかないときは、いったんその場を離れてみましょう。
ご利用者様によっては、特定のスタッフに対して拒否感をもつ人もいます。
責任感から「自分が最後まで対応しなければ」と頑張っても、ご利用者様の感情がさらに乱れてしまうケースもあるのです。
こうした場合は、他のスタッフに交代してもらい、一度その場を離れてみてください。対応する人が変わったり、少し時間を空けたりするだけで、ご利用者様の気持ちが落ち着くことも少なくありません。
真面目な人ほど「自分の対応が悪いからご利用者様が怒ってしまった」と悩みがちですが、たまたまご利用者様とかみ合わなかっただけです。
とくに、認知症のご利用者様の場合、そのときどきで言動が変わるのも珍しくありません。昨日はにこやかだったのに、今日は激しく怒ったり拒否したりする場合もあります。
「今がだめなら時間を置いて関わってみよう」と考えて、チームで助け合いながら対応していきましょう。
否定も肯定もせず受け止める
ご利用者様がつじつまの合わない話を口にされたときは、感情をそのまま受け止める「受容」の姿勢で向き合いましょう。自分の考えや訴えを否定されると、ご利用者様は恐怖や怒りを感じ、不安が強まってしまうことがあります。
また、ご利用者様のメンタルケアには否定よりも肯定が効果的ですが、注意も必要です。
「家に帰りたい」と訴えるご利用者様を想像してみましょう。
もし「家はここです」とご利用者様の声を否定すると、恐らくご利用者様はヒートアップしてしまうでしょう。
では「帰りたいんですね、じゃあお家まで送りますよ」などと肯定した場合はどうでしょうか。
否定するよりも、ご利用者様の感情を刺激しにくいかもしれません。しかし「じゃあ今から帰ろう」と、ご利用者様の帰宅願望をさらに強める可能性があります。
ご利用者様のメンタルを穏やかに保つためには、過度な否定や肯定ではなく「帰りたいんですね」と受け止めるにとどめてみてください。
ご利用者様の世界観や気持ちを壊さず受容すると「この人は自分を理解してくれる」とご利用者様の安心感につながるでしょう。
ケアのなかでも、入浴介助は多くの介護職員が頭を悩ませる場面です。ご利用者様の抵抗感を和らげ、スムーズに入浴介助を進めるコツを知りたい人は「入浴拒否が減る効果的な声かけとは?声かけ以外のポイントも紹介」を参考にしてみてください。
ご利用者様の行動の裏にある感情を想像する
ご利用者様のメンタルが落ち着かないときは、言動の背景にある不安や恐怖、寂しさなどの感情をとらえるよう意識するのも大切です。
わがままに見えたり、理不尽に思えたりする場合でも、ご利用者様の心には複雑な思いがあるかもしれません。加齢や病気によって、できることが少なくなったり、自分の体が思うように動かなかったりといったもどかしさや苛立ちも、不安やストレスにつながる原因のひとつです。
細やかなメンタルケアには、ご利用者様の本音を知ろうとする姿勢が欠かせません。ただ対処するのではなく、まずご利用者様が抱えている思いを感じ取るよう心がけてみてください。
ご家族向けのメンタルケア
介護職員は、ご利用者様のご家族に対するメンタルケアも担います。
| ・介護負担を軽くする方法を伝える ・ご家族の体調や心理状態にも配慮する ・ご家族の罪悪感や焦りを傾聴して受け止める |
順番に見ていきましょう。
介護負担を軽くする方法を伝える
ご家族の心の負担を軽くするには、介護負担の軽減策や社会資源の提案が有効です。
在宅介護のご家庭や、これから介護サービスを利用しようと考えているご家族は、どこまで人に頼っていいかわからず悩んでいる場合があります。
本来、制度の提案や調整はケアマネジャーや生活相談員が担いますが、現場の介護職員も介護サービスや制度について把握しておくと、ご家族からのSOSにいち早く対応できます。
| ・今、どのようなことで一番お困りですか? ・このようなサービスを活用されているご家庭もありますよ ・お疲れのように見えますが、ショートステイの期間を少し延ばしてみませんか |
他職種と連携して必要なサービスにつなげれば、ご家族の心身の負担軽減につながります。
ご家族の体調や心理状態にも配慮する
ご利用者様だけでなく、ご家族の体調やメンタル面にも思いやりの視点をもちましょう。
介護疲れを感じるご家族は、心身ともに余裕をなくし、時には介護職員に対して強い口調になる場合もあります。しかし、その怒りや苛立ちの裏には「もう限界だ」というご家族のSOSが隠れているかもしれません。
| 【筆者の体験談】 筆者は以前、認知症の祖母を一家総出で介護していましたが、徘徊があり、よく探しに出ていました。足腰が強くどこまでも歩くため、一度いなくなると大騒ぎです。 主たる介護者だった祖父、母、私は、それぞれ「今倒れてはいけない」と気を張って、祖母にケガをさせないよう細心の注意をはらっていました。 いよいよ在宅介護が難しくなって施設入所となったときのことです。施設の介護職員さんから「ご自分たちの体調管理をしながらの介護は、大変だったと思います。お祖母様には、安全に楽しく過ごしていただけるよう努めますね」と言われました。 「施設に預けるのは祖母にとってつらいことではないか」と思っていましたが、介護職員さんの言葉にほっとしたのを覚えています。 |
デイサービスなどの送り迎えや面会の時間に「最近、お休みになれていますか?」「ご体調はお変わりないですか?」といった一言を添えてみてください。それだけでもご家族のメンタルケアにつながります。
ご家族の罪悪感や焦りを傾聴して受け止める
ご家族が抱える罪悪感や焦りに寄り添うことも、ご家族が安心して介護に向き合えるきっかけになります。
ご家族の中には、介護施設をはじめとするサービスの利用に対して、葛藤した末に利用を決めた人もいます。心の奥で「自分が冷たいのではないか」「見捨てる気がしてつらい」と自分を責めるケースも少なくありません。
ご家族の不安や将来への焦りに耳を傾け、受け止める姿勢をもちましょう。また「いつも大切に想っていらっしゃいますね」「ここまで頑張ってこられましたね」など、ご家族をねぎらう言葉をかけてみてください。
介護職員から優しい言葉をかけられると、ご家族の肩の荷が下りて安心感が生まれるでしょう。
まとめ
介護の現場では、介護職員だけでなく、ご利用者様やご家族も不安やストレスを抱えています。それぞれの心に寄り添うためには、まず自分自身の心の状態を把握し、頑張りすぎないことを意識しましょう。
ご利用者様には環境を整えたり、受容的な姿勢で接したりすること、ご家族には介護負担を軽くする提案や、罪悪感や不安に寄り添う姿勢が安心感につながります。
もし今の職場でメンタルの不調が続く場合は、働き方や職場環境を見直すことも検討してみてください。
「介護転職のミカタ」では、あなたが安心して長く働ける職場探しをサポートしています。心にゆとりをもち、ご利用者様へより良いケアを提供したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を書いたのは・・・

佐藤 恵美/Webライター
保有資格:介護福祉士/社会福祉士
回復期リハビリ病棟で7年勤務したのち、社会福祉士を取得し、
生活相談員を経験。現在はフリーのWebライターとして活動中。
